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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける

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972 クマさん、セレイユと試合をする

「ユナ姉ちゃん、なにかしたの?」


 感謝の言葉を言われるわたしを見て、シュリが尋ねてくる。


「このセレイユお姉ちゃんが困っているところを助けたことがあるんだよ」


 わたしは空気を変えるために冗談交じりにセレイユを見ながら言う。


「ユナにセレイユお姉ちゃんと呼ばれた瞬間、背筋が冷たくなりました」


 言ったわたしもぞっとしたよ。


「セレイユ姉ちゃんを助けたの?」

「はい、ユナが救ってくれました」

「それじゃ、みんな一緒だね」

「みんな?」


 セレイユが全員を見る。


「わたしとシュリはユナお姉ちゃんにお母さんを助けてもらいました」

「わたしはオークに襲われているところや、攫われたところを助けてくれました」


 フィナ、ミサがそれぞれ答える。

 フィナの母親を救い。

 ミサがオークに襲われているところを助け、バカ貴族の息子に攫われたところを助けたことがある。


「わたしは……」


 ノアの口が開いて止まる。


「わたし、ユナさんに助けてもらったことがありません!」

「ノアは、どっちかというと迷惑をかけるほうだもんね」

「ユナさん、酷いです」


 食堂に笑いが起きる。

 でも、ノアはなにかに気付いた表情をする。


「……待ってください。ユナさんはお父様を助けてくれました」

「そんなことあった?」


 そんな記憶はないけど。


「ユナさんと初めて王都に行ったときのことです」

「……ああ、あの時か」


 思い出した。

 クリフがクリモニアから王都に来るときに魔物一万に襲われる可能性があった。そのクリフと合流するために王都から出たわたしだったけど、クリフを探すのが面倒くさくなって、魔物一万を倒してしまった。

 なので、わたしの記憶ではクリフを助けたのではなく、魔物一万を倒したイメージが強い。

 それに魔物を倒さなくても、クリフは普通に王都に来ていた可能性もある。

 だから、クリフを助けた事になるかは微妙だ。

 どちらかというと、魔物を倒した後の処理をクリフに手伝ってもらった記憶のほうが強い。

 わたしが、そう思っていても、ノアが助けてもらったと思っているなら、否定することはない。


 そして、なんだかんだで、食事は楽しく進む。

 緊張していたフィナも楽しそうにしていた。

 問題点があるとしたら、話の内容がわたしの話ばかりってことだ。

 学園の交流会のときの話がメインだ。

 わたしが「わたしの話はいいよ」と言っても、みんなの共通点がわたしだから、どうしてもわたしに関する話になってしまう。

 分かるよ。共通の話題があると盛り上がるからね。

 それがわたしって言うのがなんとも言えなくなる。


 夕食を終えると、セレイユが話しかけてくる。


「ユナ、食後の運動に一勝負をしませんか?」

「勝負って剣の?」


 流石に魔法はないと思って尋ねる。


「はい」

「剣を握り続けることにしたの?」


 セレイユはあることがきっかけで剣と魔法を学んでいたが、剣と魔法を学ぶ必要はなくなった。


「いろいろと考えることがありましたが、剣を捨てることはできませんでした。わたしが歩んできた道です」

「それがセレイユが選んだ道なんだね」

「でも、鍛錬は減りました。ゆっくりと進むことにしました」


 セレイユは母親の死を乗り越えたみたいでよかった。

 あのときのセレイユと比べると、憑き物が取れた表情をしていた。

 あの男を倒すために幼いときから剣を握ってきた。

 そして、自分がすることは終えたような顔をしていた。

 そのセレイユが剣を捨てず、ゆっくりと進む道を選んだのは嬉しい。


「ユナさんとセレイユ様、試合をするのですか?」

「ええ、食後の運動です」

「わたし、お二人の試合を見たいです。ご一緒してもいいですか?」

「わたしも」


 ノアとミサがそんなことを言い出すと、シュリとフィナまで見たいと言い出す。

 結局断ることはできず、わたしたちは庭にでる。

 庭は街灯のように魔石で明るくなっている。

 明るさは侵入者防止の役目もあるんだろうと思う。

 暗いと隠れやすいから、侵入もしやすくなる。

 ちなみに、ノアの家も外灯がある。


「ユナ!」


 セレイユがわたしの名前を呼ぶと同時に、木剣を放り投げてくる。わたしはその木剣を受け取る。


「手加減は無用です。思いっきり戦ってください」


 いや、手加減しなかったら、クマ装備の力で大変なことになるからね。

 まあ、そんなことは口にしないけど。


「それじゃ、セレイユがわたしに一撃でも与えることができたら、わたしからも仕掛けるよ」

「つまり、ユナからは攻撃をしないってことですか?」

「わたしから攻撃があると思ったら、セレイユは攻撃に集中できないでしょう」

「そうですが……それは、あまりにもバカにしているのではありませんか?」

「セレイユの練習だからね」


 本来は相手の攻撃や反撃を考えながら攻撃をする。攻撃だけを考えて防御が疎かになれば、攻撃をされたとき防げない。

 でも、相手が攻撃を仕掛けて来ないと分かっていれば、攻撃だけに集中ができる。


「それに、実力差がないと、攻撃を防ぐことはできません」

「セレイユもわたしの実力は知っているでしょう」

「魔法に関しては敵いません。ですが、剣のみでしたら、勝てないにしても、そんなに実力の差は」

「それなら、確かめてみればいいよ」


 わたしは木剣をセレイユに向ける。


「分かりました。必ず、ユナにも攻撃を仕掛けてもらいます」


 セレイユも木剣をわたしに向け、木剣を構える。

 わたしも木剣を構える。

 それが戦いの開始の合図となり、セレイユが仕掛けてくる。

 わたしは受け流す、躱す。

 前回セレイユと手合わせしたときよりも動きがよく見える。


「ユナ、前に手合わせした時よりも強くなっていませんか?」

「練習を減らしたから、セレイユが鈍ったんじゃないの?」

「それはありえません。心に余裕ができ、剣を教えてくださっている人たちから、実力が上がっていると言われています」

「お世辞とか?」

「お世辞を言う人ではありません。それにわたし自身も強くなったと感じています。それを差し引いても、ユナがそれ以上に強くなっています。この短い間に差が広がりすぎです」


 最近のことを思い返す。


「……あっ」


 あれのせいかも。


「なにか、思い浮かぶことでもあったのですか?」

「数日前、剣の達人たちと戦ってきたから、感覚が研ぎ澄まされているのかも」

「なんですか、その剣の達人って」

「剣を極めた人たちのことだよ。その人たちと、剣を合わせてきたから」


 実際は刀だけど。

 ジュウベイさんや黒男、あの2人に比べたら、どうしてもセレイユの実力は下になる。さらに妖刀を持った者、サタケさんとも戦った。


「ユナ、あなたは一体、なにをしているのですか?」


 それはわたしが知りたいよ。

 少し思い返す。

 セレイユと別れたあとは、ノアとフィナに魔法を教えてたりして、まったりとしていたはずなのに……

 巨大なスライムと戦ったり、妖精を救ったり、氷竜と戦ったり、薬草採取で大猿と戦ったり、妖刀と戦ったり、沼の生物と戦ったり、していた。

 本当になにをしていたのか、自分に問いただしたい。

 わたし、働き過ぎじゃない? 働き過ぎだよね?


「あらためて、思い返してみたけど。世界を救ってきたんだよ」


 誇張じゃないよ。

 スライムが暴走していたら、多くの人が死んでいたかもしれない。

 妖精の件も、あの街の領主の行動しだいでは、街が滅びて、他にも被害が出ていたかもしれない。

 氷竜の件も、わたしが戦わなかったら、あの氷竜が暴れていたかもしれない。

 大猿の件は大きな被害がでなかったかもしれないけど、あの森に行った冒険者は死んでいたかもしれない。

 あの森にあった魔物を集める魔法陣の件もある。

 妖刀はカガリさん次第では、多くの人が死んでいたかもしれない。

 沼だって、放置したら、ドワーフの街がどうなっていたか分からない。


「世界ですか。……ユナならありえそうですね」


 わたしの言葉を冗談と思ったのか、セレイユは笑う。

 初めて会ったときのセレイユなら笑っていなかったと思う。

 今は冗談も言えるようになったみたいだ。


「それでは、剣の達人と戦って強くなったユナの実力を確かめさせていただきます」


 セレイユは踏み込んでくる。

 ジュウベイさんと黒男と比べると、動きが分かりやすい。

 前にも思ったけど、セレイユの剣の扱いは綺麗で直線的だ。


「どうして、笑うのですか?」


 笑ったつもりはなかったけど、笑っていたらしい。


「人を騙すような相手と戦ってきたから、セレイユの剣が真っ直ぐで微笑ましいと思っただけだよ」

「それって、褒めているのですか、バカにしているのですか?」

「その答えは自分の中にしかないよ。騙してまで勝ちたいと思うのか。真っ直ぐに戦い、負けても満足するのかは、本人の目指す先次第だよ」


 そう言いながら、セレイユの剣を受け流す。


「強くなるためには、人を騙すってことですか?」

「命がけの戦いだったら卑怯もないよ。生き残った人が勝ちだよ」


 勝てば官軍、負ければ賊軍って言葉もある。

 誰も見ていない戦いなら、勝った者が正義になる。

 見ていた者がいれば、卑怯者と広まるかもしれないけど、誰も見ていなければ死人に口なしだ。


「騎士のように日の当たる場所で戦うなら、そのままのセレイユでいいよ。汚いことは、わたしみたいな人に任せればいいよ」

「それは、汚いことは他人任せってことですか?」

「適材適所だよ。セレイユみたいに貴族の手本となる人は真っ直ぐにいてほしい。ほら、ノアたちを見て」


 セレイユは言われるままにノアたちを見る。

 その隙に、わたしはセレイユの木剣を絡め取り、首筋に木剣を添える。


「ユナ、汚いです」

「うん、汚いよ。こんな汚い戦いはセレイユに向かないでしょう。勝つためにはなんでもする人はいる」


 わたしはゲームで騙し合いはしてきた。

 ルール内でギリギリのことをしてくる者もいた。

 隠し武器や騙し合いなんて当たり前。蹴りだって飛んでくる。言葉で気を散らし、集中力を無くさせようとする。

 わたしも勝つために卑怯なこともしてきた。

 だから、相手がなにをしてくるか分かる。

 でも、真っ直ぐに育ってきたセレイユには合わない。


「セレイユに、そんな戦いは必要はないよ」

「強くなるためには、そこまでしないといけないのですね」

「違うよ。勝つためだよ。生きるためだよ。負けたら、死ぬからね」


 まあ、ゲームだったら、何度でも生き返るけど。


「あのことがまだ、終わっていなかったら、迷うこともなく、汚いことも学んだでしょう」

「わたしは、ノアたちにはセレイユから学んでほしいと思っているよ」


 セレイユは落ちた木剣を拾いながら、離れた場所から見ているノアたちに目を向ける。

 ノアたちは目を輝かせながら、わたしたちの試合を見ている。


「そうですね。せめて、あの子たちの手本となりたいですね」


 セレイユは拾った木剣を構える。

 一勝負では終わらなそうだ。

 でも、わたしもセレイユの気持ちに賛成だ。

 ノアたちには真っ直ぐに育ってほしい。

 わたしたちは、ノアたちに恥じないように試合をした。



セレイユは立ち直って、前を進み始めました。

セレイユは貴族の見本となる正しい大人になってほしいものです。


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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
間にあった6つの事件のうち、フィナ(巨大スライム)とノア(妖精)がそれぞれ1つずつ極めて重要な役割を果たしていたこともある種特筆すべきことですね。カガリさんは半数の3つに絡んでますがw
シアやカガリさんとやった時と同じような引き立て稽古 さすがユナ師匠 弟子が増える(なんちゃって
ユナちゃんたしかに、働きすぎカモ?巻き込まれ体質⁉️まぁ主人公だし⁉️可愛いし、コレは関係ないか?癒されるしココ重要❗️
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