966 クマさん、お酒の材料を求めて
わたしとカガリさんはくまきゅうに乗り、ゴジールさんにはくまゆるに乗ってもらう。
「それで、酒の材料はどこにあるのじゃ」
「この先だ」
壁作りも途中だけど、毒沼も凍っているので、今のところゴジールさんの持つ魔石は赤くなっていない。
「これから、この山はどうなるのかな」
「山を支配していた毒沼が消滅したからのう。魔物が増えるかも知れぬ」
「魔物が増えるのか?」
「毒沼の生物が魔物を食らっていた。その毒沼の生物がいなくなったのじゃ、普通に考えて増えるじゃろう」
「今度はヴォルガラスやコカトリスが現れるかもしれないってことだね」
毒沼はヴォルガラス、コカトリスも捕食していた。
「今までのお主たちは、毒だけに気をつけていれば、死の山に入ることができたが、今後は魔物にも気をつけないといけなくなった」
「…………」
「わたしが倒したせい?」
「いつかは倒さないといけない生物じゃった。お主が倒さなかったら、多くの人が襲われ死んでおったかもしれぬ。じゃから、そこを否定してはならん」
「そうだな。あんな生物が街に来たら、多くの街の住民は死んでいたかもしれない。クマの嬢ちゃんに感謝しても、恨んだり、怒ったりはしない」
「ただ、言えることは、この山がどうなるかは、誰にも分からないってことじゃ。第二の毒沼が現れるかもしれぬ」
「やめてよ」
冗談ではない。
まあ、倒す方法は分かったので、次回、現れても簡単に倒すことができる。
だからと言って現れる度に戦いたくない。
「でも、本当にクマの嬢ちゃんが倒したなんて、この目で見ていたのに信じられない」
ゴジールさんは望遠鏡で、わたしの戦いを見ていたらしい。
「沼の中にクマの置物が現れたときには驚いた」
「お主、あれはどうするつもりなのじゃ?」
「片付けたほうがいいよね。それに壁も作らないと、今後も沼から毒が発生するかも知れないし」
だから、今は少しでも魔力を回復するために白クマのままだ。
「でも、さっきの話からすると、壁を作ったら、沼から毒が漏れなくなるから、普通の魔物も現れるようになるのかな」
「可能性はあるじゃろう」
「なにか、別の意味で死の山になりそうだね」
「普通の山になるだけじゃろう。ナワバリ争いが起き、人間が魔物討伐に来る。正常とも言える」
確かにあるべき形に戻るだけなのかもしれない。
「じゃが、それを決めるのは妾たちではない」
「誰? この国の人たちってこと?」
カガリさんは首を横に振る。
「ゴジールじゃ」
「俺か!?」
カガリさんの言葉にゴジールさんは驚く。
わたしも驚いたよ。
「そもそも、ゴジールのためじゃなかったら壁は作らんかった」
「そうだね。今後も安心して、お酒の素材を取りに来られるようにするために壁を作る話になったんだよね」
「そうじゃ、沼に壁を作ることは誰にも頼まれておらん。ゴジールのために、お主が善意で作り始めた」
確かに、言われてみればそうだ。
国に住む人たちのため、街に住む人のためじゃない。あくまでゴジールさんのためだ。
「じゃから、お主が決めろ」
「俺が……」
「この先どうなるかは誰にも分からん。お主が始めたことだ。じゃから、お主が決めろ。じゃが、決めたからには、ユナを恨むのは妾が許さない。それが悪い方へいったとしても、ユナを恨むのはお門違いじゃ。命をかけて、危険を冒してまで戦ったユナを非難したら、美味しい酒を造るお主でも許さん。それだけは覚えておくのじゃ」
「カガリさん……」
カガリさんは、わたしが酷い言葉をかけられないようにしてくれている。
もし、わたしがなにかしら対処した結果、お酒の材料を取りに来られなくなったら、わたしに責任転嫁して、ゴジールさんは怒るかもしれない。
「今すぐに決めろと言わんが、素材を手に入れるまでに決めろ」
「……分かった」
真面目な表情でゴジールさんは頷く。
それから、ゴジールさんは黙り込んでしまう。
「カガリさんは、なにが正しいと思う」
「さっきも言ったが、何をもって良しとするかを決めぬと正解を導くことはできぬ。壁を作って魔物だらけになれば、魔物に襲われることになる。壁を無くしても、毒耐性を持つ魔物が増えるだけかもしれぬ」
「それじゃ、壁はないほうが」
「毒沼生物とは言わんが、この山を支配する魔物が現れるかもしれぬ。竜もいたみたいじゃからのう」
「竜がいたのか?」
「お主も、沼が竜の形をしていたのを見たじゃろう。竜がここで沼に取り込まれた証拠じゃろう」
「それじゃ、あの人の形も」
「沼に取り込まれた人間じゃろう」
どれほどの人が襲われたのか、分からない。
ただ、ここは死の山と呼ばれるほどだ。多くの人が亡くなったと思う。
「嬢ちゃん、助言をもらえないか」
ゴジールさんは真剣な表情でカガリさんに尋ねる。
「お主もか」
カガリさんは呆れた口調で言う。
「妾をなんじゃと思っているのじゃ」
「いや、大人の姿を見て、嬢ちゃんの話を聞いていると、年上のように感じてな。頼りになるというか」
凄くゴジールさんの気持ちが分かる。
カガリさんって、凄く頼りになるから、頼りたくなる。
カガリさんはため息を吐きながらも、ゴジールさんの相談に答えてくれる。
「なにが正しいか分からないなら、利点と欠点を考えて、答えを出すしかないじゃろう」
「利点と欠点?」
「なにを選んでも、利点と欠点はある。欠点がない方法はない。じゃが、利点が多く欠点が少ない案はあるじゃろう。いかに、どちらが良い利点を得られるかじゃ。そして、考えることで、重要なことが一つ」
「なんだ?」
「お主が、街、国のことを考えるのか、一個人として考えるかによっても変わってくる。そこもちゃんと考えることじゃ」
「国か個人ってどういうことだ?」
「国中心に考えるのと、個人だけの利点を理由に考えるのでは答えが違ってくる」
国中心で考えれば、個人の利点はなくなる。
「嬢ちゃんは、難しいことを言うんだな」
「お主が助言を欲しいと言ったから、真面目に答えただけじゃ。後悔するような答えだけはするでないぞ」
「感謝する」
「妾の言葉が役に立てばよい」
ゴジールさんはカガリさんの言葉を噛みしめ、考え始める。
「考えるのはよいが、道案内もちゃんとするのじゃぞ」
「ああ」
ゴジールさんは今後のことを考えながら案内をしてくれる。
そして、洞窟に辿り着く。
「この洞窟の中か?」
「魔物がいそうだね」
洞窟と言えば、魔物の巣窟だ。
穴の大きさは馬車が余裕で入れるほど大きい。
「いや、それが魔物はいない」
「本当にいないの? くまゆる、くまきゅう、魔物がいたら、教えてね」
もし、魔物がいたら危険だ。
「中は明るいのう」
壁がうっすらと光っている。
魔法の光は不要みたいだ。
「俺も詳しくは分からないが、初めから明るかった」
洞窟の中に入ると、下り坂になっている。
「山を登ったのに、今度は下るのじゃのう」
なにか、登ったのに下るのは損をした気分になる。
くまゆるとくまきゅうに乗っているわたしが文句を言う権利はないけど。
わたしたちを乗せたくまゆるとくまきゅうは坂を下っていく。
本当に魔物はいなく、しばらく進むと奥のほうでちょろちょろと水の流れ落ちる音が聞こえてくる。
「水の音かのう」
カガリさんも聞こえたみたいだ。
「もうすぐだ」
水の音が近づいてくる。
「ここだ」
洞窟の先にはなにもない。
ただ、水がちょろちょろと壁から流れ落ちているだけだ。
「もしかして、この水なのか?」
「ああ、そうだ」
近寄ると、壁から出ている水は小さい池を作っていた。
「ただの水ではないのじゃろう。なんの水なのじゃ?」
「調べてみたが、魔力が込められていると分かった」
「魔力?」
「それも、かなりの純度が高い魔力水だ。それを酒に入れると旨くなる」
ゴジールさんはそう言うと、ため池に近づく。
腰を下ろし、アイテム袋から樽を出すと、水を入れていく。
「これで酒が造れる。ありがとう」
「それにしても、こんなところに高純度の魔力水か。不思議じゃのう」
カガリさんもくまきゅうから降り、溜め池に近づき、手で水を掬って口にする。
「カガリさん!?」
「酒の材料じゃ、安心じゃろう」
「でも、その魔力水って」
わたしは、この魔力水がなんなのか分かった気がした。
「なんじゃ、お主、この魔力水がなにか分かっているのか?」
「うん、たぶんだけど」
「なんじゃ?」
「えっと、たぶん、その魔力水は毒沼の水だと思うよ」
わたしがそう言った瞬間、カガリさんが口から水を噴き出した。
「嬢ちゃん!」
「すまない。ユナがとんでもないことを言い出すから。お主、この水が、あの毒沼だと言うのか?」
毒沼には多くの魔物の魔石が吸収されていた。
その毒の沼の水が地下に流れ、何層にもなる土などで濾過されて流れ落ち、できたのがこの魔力水だ。
そのことを説明する。
「お主、博識じゃのう」
小学生でも習うことだ。
「じゃが、お主の言うとおりなら、この魔力水にも納得じゃのう」
「でも、この水でお酒を造っているとなると、今後は作れなくなるかも?」
わたしの言葉に、ゴジールさんとカガリさんが反応する。
「どういうことじゃ!?」
「だって、毒沼の生物を倒したでしょう。つまり、毒沼の生物は、今後魔物を襲うことはないから……」
「魔力水が作られることはなくなる……」
ゴジールさんは絶望した表情をする。
「でも、しばらくは大丈夫だと思うよ。沼は大きいんだから」
「じゃが、水に含まれる魔力は薄まっていくじゃろうな」
雨が降り、山から水が沼に流れ落ちていけば、必然的に薄くなる。
「つまり、この水で酒が造れなくなるってことか?」
「沼の規模を考えれば、今すぐではないと思うけど。それが何ヶ月先になるのか、数年先なのか、数十年先になるのかは分からないよ」
沼が魔石を取り込むことがなくなったからには高純度の魔力水が作られることはない。この魔力水に含まれる魔力が薄まっていくのは必然なことだ。
まあ、濃いお茶みたいなものだ。
茶葉が多ければ濃いけど、少なければ味は薄くなる。
魔力の元である魔石の供給がなくなり、雨などの水だけが追加され続けば薄くなる。
「もう、この水が手に入らないか」
ゴジールさんは水を見ながら言う。
「もし、そのことでユナを責めたら、妾はお主のことを許さんぞ」
カガリさんはゴジールさんに忠告するように言う。
「言わない。あんな戦いを見せられたんだ。俺たちを守るために戦ってくれた嬢ちゃんに、そんなことは言わないさ」
「ならいい」
「でも、知れてよかった。それに時間もあるんだろう」
「どのくらい時間があるかは分からないけど」
流石にどのくらいの時間の猶予があるか分からない。
水の出る量を見れば、時間はあると思う。
「時間があるなら、新しい酒を造るさ。それが酒職人だ」
「そのときは、飲まさせてもらおうかのう」
「もちろん、そのときは飲みに来てくれ」
幼女にお酒を勧めるってどうなんだろう。
実際はカガリさんは大人だから、いいんだけど。
絵づらが、おっさんが幼女に酒を飲みに来いってなっている。
普通ならアウトだ。
毒沼に吸収された魔石が濾過されて魔力水となって出てきました。
※7月3日にくまクマ熊ベアー外伝~ユナのよりみち手帖~ 5巻が発売しました。
電子書店様にて、「くまクマ熊ベアー外伝」の1~4巻が割引になっています。
※一部の書店様のみとなっていますので、購入するときは確認の上、お願いします。
期間7/16まで(違った困るので価格を確認の上よろしくお願いします)
※6月5日にくまクマ熊ベアーのコミカライズ14巻と文庫版13巻が発売しました。
店舗購入特典もあります。詳しいことは活動報告にてお願いします。
PASH! BOOKS 10周年記念 POP UP SHOPにて販売されましたグッズがFuuuuオンラインショップにて販売が開始されました。
気になるグッズがありましたら、よろしくお願いします。
※毎月28日は【ふたばの日クーポン】の日らしく。
ショップサイトにあるクーポンコードを入力すると10%になります。
くわしくはFuuuuオンラインショップにて、お願いします。
※PRISMA WING様より
くまクマ熊ベアーぱーんちのフィギュアが9月に発売予定です。
※くまクマ熊ベアー ユナ ミタクルブロックコラボフィギュアの再販が決まりました。
※予約期間:2026/04/01(水)~2026/09/30(水)まで
※22巻の発売の情報はもう少しお待ちください。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




