965 クマさん、合流する
「これで、終わりかのう?」
探知スキルで確認する。
沼から魔石を抜き取ったからなのか、探知スキルの反応は消えている。
「たぶん、終わりみたいだよ」
でも、この魔石を沼の中に戻したら、復活しそうだけど。
もちろん、怖いので、そんな確かめるような実験はしない。
「それにしても、たくさんの魔石がくっついているのう」
カガリさんはわたしが持っている集合体の魔石を見る。
「沼にある魔石、全部かな? でも、それにしては少ないよね」
30個ぐらい?
今までに沼に取り込んだ魔物数は、これだけではすまないはずだ。
時間などを考えれば、十や百じゃない。千、万あってもおかしくはない。
でも、ここにはそんな数の魔石はない。
「沼に吸収されたのじゃろう。あれだけの沼を動かすんじゃ。その程度の魔石じゃ無理じゃろう」
自由に沼を動かし、大きな山のようなものを作ったり、竜やコカトリスのまがい物を作ったりした。
手元にある魔石の数程度の魔力では、そんなことできないと思う。
「それじゃ、竜の魔石ってないのかな」
「吸収されたかもしれないし、沼のどこかに残っている可能性もある」
残念。
「お主、まさか探すつもりじゃったのか?」
わたしの表情を見たカガリさんが呆れた表情をする。
竜の魔石が落ちているかもと思ったら、欲しいと思うのが普通だと思うけど。
これもゲーマー的な考えなのかな。
「もし、手に入ればと思っただけだよ。探すつもりはないよ」
実際問題、この大きな沼の中から探すとなると、無理に近い。
スキルで水の中に入れるけど、沼の中は汚い。遠くまで見通すことはできない。見つけ出すのに、どれほどの時間がかかるか分からない。
それに、存在するか分からない物を探すのは苦行でしかない。
作業と利益が割に合わないのが実際のところだ。
「ちなみに、カガリさんの魔石を見つける力って?」
ダメ元で尋ねてみる。
「お主も分かっておるじゃろう。ある程度近寄らないと分からん」
「だよね」
分かっていたけど、やっぱり、そうなんだね。
この広い沼の中から探すのは無理そうだ。
竜の魔石は諦めるしかない。
わたしは凍った沼に目を向ける。
「この魔石を取ったけど、同じことがおきたりしないよね?」
第二、第三の動く沼にならないか心配だ
「そんなこと、妾が分かるわけがなかろう。お主、妾に聞けば、なんでも答えてくれると思ってないか?」
「え、思っているけど」
わたしの中では、分からないことがあったら、カガリさん、ムムルートさん、エレローラさんに聞けば、答えてくれると思っている。
この世界の知恵袋だ。
「妾のことをなんじゃと思っているのじゃ」
「お婆ちゃんの知恵袋? 人生経験? 見識を持っている?」
「誰がババァじゃ」
「そんなこと言っていないよ。長く生きてるから、知識や経験で知っているかと思っただけだよ」
「どんなに長く生きていても、今回みたいな非常識なことまでは分からん」
ごもっともな言葉だ。
こんなことが、いろいろな場所で起きていたら困る。
「この魔石、このままアイテム袋にしまって大丈夫かな?」
集合体の魔石を見ながら尋ねる。
「だから、そんなことは知らん。不安なら、壊せばいいじゃろう。じゃが、どこかの研究所に持っていけば、かなりの金額で引き取ってくれると思うぞ。研究対象として、欲しがる者は多いじゃろう」
「和の国でも?」
「一応、研究するところはあるが、今は大蛇に関することがメインじゃ。引き取ってくれても、保管されるだけで、研究は後回しになるじゃろうな」
「大蛇の研究なんてしているんだ」
「第二の大蛇が現れるかも知れぬからな。対策の研究じゃとスオウは言っていた」
「また、大蛇が現れるの?」
「可能性の一つじゃよ。数百年後に現れるかも知れぬ。それが和の国かも知れないし、他の国かも知れぬ。大蛇のことが分かれば、お主や妾がいなくても倒せるかも知れぬ」
やらずに後悔よりも、やって後悔だね。
それに数百年後なんて、カガリさんはともかく、わたしは生きていない。
わたしは集合体の魔石を壊すのもあれなので、クマボックスにしまう。
クマボックスなら生きているものは入らない。
魔石の集合体は、わたしの不安をよそに何事もなく入った。
「それじゃ、これで終わりってことでいいんだよね」
「終わりじゃろう。今後、第二、第三、沼が魔物化したとしても、対処するのは妾達の役目ではない。この国の仕事じゃ」
「そうだよね」
魔物が現れるたびに、わたしが出向くことはできない。したくないのが本音だ。
わたしは自分中心に世界が動いている。
だから、自分の周りの人さえ、幸せなら十分と思っている。わたしは英雄でも勇者でもない。ただのクマだ。
わたしの幸せのためにも、この国の冒険者、騎士、魔法使いに頑張ってもらおう。
とりあえず、未来のことは未来の人に任せる。
「それじゃ、ゴジールさんのところに戻ろうか。カガリさん、動けそう?」
「そろそろ限界じゃのう。お主こそ、大丈夫なのか?」
白クマで魔力が回復しているとはいえ、流石に疲れた。
「わたしも疲れたし、くまゆるを呼ぶよ」
わたしは心の中で「くまゆる、疲れたから迎えに来て」とくまゆるに伝える。
このスキルの念話だけど、くまゆるに伝わっているかどうか分からないのが難点だ。「くぅ~ん」とか返事があればいいんだけど、それもない。
とりあえず、わたしは凍った沼の上を歩き、カガリさんはふらふらと浮かびながら岸に向かう。
「ユナ、すまないが着替えたいから、小屋を作ってくれぬか?」
カガリさんは大人から子供に戻ってしまったので、ぶかぶかの服を着ている。
わたしは岸に到着するとクマハウスを出す。
一から小屋を作るより、クマハウスを出したほうが楽だ。
カガリさんはクマハウスの中に入り、着替えてくる。
カガリさんが着替えてクマハウスから出ると、ちょうどくまゆるがやってきた。
「くぅ~ん」
ちゃんと伝わったみたいで、よかった。
くまゆるはわたしを見つけると駆け寄ってくる。
「くまゆる、来てくれてありがとうね」
くまゆるの頭を撫でる。
わたしはクマハウスを仕舞うと、わたしとカガリさんはくまゆるに乗り、ゴジールさんのところへ向かう。
やっぱり、移動はくまゆるとくまきゅうに乗るに限る。
くまゆるは真っすぐにゴジールさんとくまきゅうがいるところに向かってくれる。
それにしても疲れた。
帰って寝たい。
あとはお酒の材料を手に入れて帰るだけだ。
もう少しの辛抱だ。
徐々にわたしが作ったT字の柱が近づいてくる。
そのT字の上にはくまきゅうとゴジールさんの姿が見える。
無事みたいでよかった。
「カガリさん、毒は大丈夫だよね」
「ああ、問題はない」
カガリさんはゴジールさんの魔石を見ながら答える。
わたしはT字の柱の下までやってくると、上に向かって声をかける。
「柱を縮めるから、真ん中にいて!」
柱の上から落ちたら困るので、注意をしておく。
わたしはT字の柱をゆっくりと縮ませる。
柱が短くなると、くまきゅうとゴジールさんが地面に降り立つ。
うん?
「くまきゅう、どうしたの?」
くまきゅうがいじけている。
どうして?
わたし、なにもしてないよ。
「ゴジールさん、どうして、くまきゅうはいじけているの?」
「俺もよくは分からないが、黒いクマが柱から飛び出して、嬢ちゃんたちがいる方へ走り出して行った。そうしたら、白いクマがこんな状態になった」
よく分からない。
「なるほどな」
カガリさんは分かったように頷く。
「カガリさん、理由が分かるの?」
「お主、いつも言っておるじゃろう。片方を構うと、片方がいじけると、それで、交互に乗っておると」
「そうだけど」
「それで、今回、お主は、くまゆるだけを呼んだ」
カガリさんが言いたいことが分かってきた。
「つまり、くまきゅうを残し、くまゆるを選んだからってこと?」
「そうじゃろう。お主のクマはお主のことが好きじゃ。お主が危険なときも飛び出そうとしていた。でも、妾が止め、妾がお主のことを助けに行った。お主のところに行きたかったのを我慢していた。でも、呼ばれたのはくまゆるじゃった。だから、くまきゅうの方はいじけておるのじゃろう」
そんなつもりはなかった。無意識だ。
いつも名前を呼ぶ時はくまゆるの名前が先だ。だから、今回も無意識にくまゆるを呼んでしまった。
「くまきゅう、ごめんね。そんなつもりはなかったんだよ。わたしを心配してくれたんだよね。ありがとう」
「くぅ~ん」
くまきゅうが振り向く。
わたしはゆっくりとくまきゅうに近寄ると撫でる。
「ゴジールさんを守ってくれて、ありがとうね」
慰めると嬉しそうにしてくれる。
それを見たくまゆるまでが近寄ってくる。わたしはくまゆるとくまきゅうに囲まれる。
「クマだらけじゃのう。そうじゃ、これを返す。助かった」
カガリさんは持っていた魔石をゴジールさんに渡す。
「役に立ったならよかった」
ゴジールさんは魔石を受け取る。
「それじゃ、酒の材料を取りに行くとしようかのう」
「その前に、どうして、嬢ちゃんは白クマの格好をしているんだ?」
「…………」
わたしは簡単に魔力を回復してくれることを説明した。
それを聞いたゴジールさんは、「ほう、そんな服があるのか。どんな職人が作ったんだ?」と聞いてきたが、秘密と答えた。
やっぱり、職人として気になるのかな?
沼討伐、謎の魔石ゲット。
あとはお酒の材料を取りにいくだけですね。
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




