964 クマさん、毒沼を討伐する
魔力次第。
でも、ここに来るまでにかなりの魔力を使ってしまった。
「はぁ」
もう少し考えて魔法を使えばよかった。
あの方法を使っていれば簡単に魔石を閉じ込めることが可能だ。
思いつかなかったわたしが悪い。
これも閉じ込める=クラーケンのことを思い出してしまったからだ。
後悔しても魔力が戻ってくるわけではないので、気持ちを切り替えるしかない。
わたしは沼の中央まで移動すると、足を止める。
探知スキルの反応からは離れているけど、魔石がどう動くか分からない状況では、沼の真ん中にいたほうが対処しやすい。
わたしが動きを止めると、沼から出てきた人の手がわたしの足を掴む。
まるでホラー映画だ。
でも、足を掴まれた瞬間、わたしを掴んだ沼の手が凍る。
そして、足を軽く動かすと、手の形をしたものは砕け散る。
それと同時に、わたしを中心に沼が凍っていく。
沼から浮かび上がっていた人の手は凍り、近寄ってきたウルフ、蜘蛛、沼の上にいたまがい物は次々と凍っていく。
飛んでくるヴォルガラス、コカトリスのまがい物は空気弾で撃ち落とす。水となって氷の上に落ちると、そのまま凍る。
初めから、こうしておけばよかった。
毒も閉じ込めることができて一石二鳥だ。
本当に無駄なことをした。
そんなことを考えていると、上空で様子を窺っていたカガリさんが降りてくる。
「お主、怖いことをするのう」
「適当に凍らせているから、降りないでね」
目標をつけて凍らせているわけじゃない。
足元を中心に凍らせているだけなので、凍った沼の上に降りたらカガリさんも凍らせてしまう可能性がある。
だから、沼(氷)の上に降りないように注意する。
「じゃが、こんなに凍らせて、魔力の方は大丈夫なのか? それでなくても、あんな大きなクマを作ったんじゃぞ」
「この白クマは魔力を回復してくれるから、大丈夫だよ」
わたしはゆっくりと探知スキルの反応がある方へ歩き出す。
わたしが歩む方向に氷の道ができていく。
クマの壁を作るよりは魔力の消耗は少ない。
クマの壁は魔力そのもので全てを作る。
でも、今は魔力で氷を作ることで、その周囲も凍らせることができる。
魔力で全てを凍らせているわけではない。
しかも、まがい物の生物は沼から凍った沼に移動すると、次々と凍っていくので、倒す魔力も必要はない。
空から攻撃してくるまがい物には攻撃が必要だけど、所詮まがい物だ。コカトリスでも空気弾を数発打ち込めば、形は崩れ、凍った沼に落ち、そのまま凍るだけだ。
竜もどきに近づく。
口を開き攻撃を仕掛けてくる。
ジャンプで躱し、スキルの水上歩行で竜もどきの頭の上に乗る。
わたしが竜もどきの頭に乗ると、頭から体が凍っていく。
本当に、今までのわたしはなにをやっていたんだろう。
毒沼は凍っていない箇所から、まがい物を作り出してくるけど、わたしを襲ってくるだけなので、氷の上に乗れば凍り、空を飛ぶまがい物は撃ち落とす。
それを何度も繰り返す。
わたしが通るところは凍っていき、毒沼の半分以上が凍る。
白クマ装備でも、わたしの魔力もかなり減った。
「お主、大丈夫か?」
「どうにかね」
休みたい気持ちはある。
後日、完全回復してから同じことをすればいいだけだけど、それはそれで面倒くさい。
土魔法で作ったクマと違って、氷は溶ける。
初めから作り直しになるから、できれば今日中に決着をつけたい。
だから、そろそろ終わりにしよう。
わたしは歩みを止め、クマボックスから氷竜の角を出す。
刀の素材でかなり使ってしまったので、かなり小さくなってしまった。
でも、氷竜の角だ。
わたしは氷竜の角を媒体にして、一気に魔力を込める。
すると、氷竜の角を中心に冷気が漏れ出し、周囲を凍らせる。
沼の中に魔力を流し、沼の奥深くまで凍らせていく。
氷竜の角のおかげで、凍りやすくなる。
これを思いついたのはカガリさんの言葉だ。
氷竜の角に魔力を流すと角は冷たくなる。
そして、魔力量を間違えれば、手が凍ると言っていた。
普通の人なら危険かもしれないけど、わたしにはクマ装備がある。
氷竜の角に触りながら魔力を流すことができる。
凍傷の危険もない。
氷竜の角に手を当てながら、目線は探知スキルに向ける。
逃さない。
沼の中に氷の壁を作る。
すると逃げ場を失ったことを知ったのか、沼が動く。
地震のように揺れ、氷を突き破り、沼が出てくる。
氷が割られた。
だけど、それまでだ。
「これで、終わりだよ」
わたしはさらに氷竜の角に魔力を込める。
氷竜の角から冷気が出て、氷を突き破った沼が凍っていく。
沼は動くが、下部から徐々に最上部まで凍り、動かなくなる。
「お主、そんなことができるなら、初めからやれ」
「さっき、思いついたんだよ」
それに、わたしだって初めから思いついていればと思ったよ。
そうすれば、こんな苦労はしなかった。
わたしは探知スキルを確認する。
まだ反応はある。
つまり、生きているってことだ。
氷が溶ければ動き出す。
しばらくは大丈夫だけど、早く魔石を破壊しないと。
探知スキルではおよその位置は分かるけど、正確な位置は分からない。
凍った沼ごと破壊する?
わたしは氷竜の角をクマボックスに仕舞いながら考える。
透き通った綺麗な水だったら、魔石も見えるけど、沼は汚くて見えない。
探知スキルの反応があるあたりに、電撃やクマの炎を撃ち込む?
そんなことを考えていると、ふとカガリさんが視界にはいる。
「…………?」
「なんじゃ、そんなに見つめて」
わたしは大蛇を倒したときのことを思い出す。
カガリさんは大蛇の魔石の位置を探し当てていた。
「カガリさん、あのあたりに魔石があるみたいなんだけど、場所、分かる?」
「魔石の位置か」
カガリさんはわたしが示す方へ移動する。
わたしは遠くからおよその位置。カガリさんは近くなら魔石の場所を把握することができる。
お互いに補っている。
もっとも、わたしの場合は魔物が生きている場合に限るけど。
死んだら、探知スキルの反応は消える。
カガリさんは凍った山の形をした沼の近くを飛ぶ。
そして、山の最上部から、周りながら下がっていく。
「確認じゃが、降りても大丈夫か?」
カガリさんが凍っている沼を見ながら尋ねてくる。
「うん、大丈夫だよ。今はただの氷だから」
魔力を流していない。
普通の毒沼の氷だ。毒が漏れていなければ大丈夫だ。
カガリさんは凍った沼の上に降り、沼の周りを歩き出す。
そして、ある場所で歩みを止める。
「この辺りみたいじゃのう」
カガリさんは沼の山の一部を指さす。
「カガリさん、触らないでね」
一応、毒沼が凍ったものだ。
素手で触るのは危険だ。
わたしはカガリさんと場所を入れ違うようにカガリさんが指さしたところを見る。
毒沼の汚い色でよく見えない。
わたしはわたしよりも大きめのクマの炎を作り出すと、ゆっくりと動かす。
毒沼の氷が溶けていく。
毒ガスっぽいのが漏れるので、カガリさんには離れてもらう。
このままクマの炎で壊してもいいんだけど、少し気になる。
なので、クマの炎を少し進ませては、穴に入り確認する。
そして、カガリさんの言うとおりに魔石があった。
魔石があった。
初めて見たときよりも魔石が集まっている。
わたしは手を伸ばし、魔石の集合体を手にすると、氷の穴の外にでる。
「それが、魔石の集合体か。初めて見るのう」
「カガリさんでも?」
「ただ、予想はつく。魔物の中に、たまに大きい個体の魔物がおるじゃろう」
「いるね、ゴブリンキングとかだよね」
「いきなりゴブリンキングが現れるわけではない。魔物は他の者を喰らい、成長すると言われておる。ゴブリンキングを例えにするならば、初めは普通のゴブリンじゃったのじゃろう。ゴブリンが他の魔物を倒し、食らって成長し、ゴブリンキングに成長する」
「それじゃ、あのゴブリン全てがゴブリンキングになる可能性があるってこと?」
「可能性はあるが、確率は低いじゃろう。冒険者や他の魔物に倒される。でも、その中で生き残ったゴブリンがゴブリンキングになれる」
強者だけが生き残れるってことだね。
「話を戻すが、食らった魔物の中には魔石も含まれる」
「つまり、魔石を食べて、強くなったってこと?」
思い出す。
薬草採取のときに大猿がゴブリンキングの魔石を食ったことを。
もしかして、他の魔石を食って成長して、狂暴な大猿になったのかもしれない。
「魔石だけじゃない。人が持つ魔力もそうじゃ。魔力の元である魔石、人が持つ魔力を喰らい、成長し、強い個体が生まれると言われている」
「それじゃ、これは強い個体になるための準備だったってこと?」
「可能性の一つじゃ。こればかりは、想像の中での話じゃ。ゴブリンを捕らえて、魔物を餌にして、研究をする者なんておらん」
そんな研究は考えたくもない。
「じゃから、可能性の一つと考えられておる」
「でも、魔石を食べれば大きくなるんじゃない。10個食べれば、10個分の大きさ、100個なら100個分の大きさ」
「じゃから、分かっておらんのじゃよ。吸収されて魔石自体が強くなるとも考えられておる。肉体が大きくなると魔石も比例して大きくなるとも言われておる。じゃから、今回の魔石は沼の大きさに合わせて、大きな魔石になろうとしていたのかもしれぬ」
研究しようにも研究する魔石の数が少ない。
あくまで、可能性の一つと教えてくれた。
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




