990 クマさん、スタートの説明を聞く
それから、わたしはボートの学生たちに混じって練習をする。
学生たちに囲まれ、リベンジ宣言をほとんどの人にされた。
交流会で戦ったこともない相手に言われるのは、なんとも言えない気持ちになる。
「ユナは人気者ね」
囲まれていたわたしにセレイユが言う。
「ユナは学園の敵だからね」
ここまで一緒に来たアンヌが言う。
「敵って……」
わたし、なにも悪いことはしていないよ。
「ふふ、冗談よ。あの競技を見たみんなは、ユナに憧れ、嫉妬しているのよ」
「……憧れ?」
少し恥ずかしい。
「そして、目指し、追いつき、倒す対象と見ているわ。それが、来年の交流会だと、みんなは思っていたわ。それが、こんなに早くリベンジできるから、嬉しいのよ」
「わたし、来年の交流会には出ないよ。そもそも、学生じゃないし」
「知っているわ。先生や学園長、それからセレイユ様に頼んで、ユナの参加を要望しようって話もあるの」
アンヌが暴露する。わたしは王都の学生と交流会に参加した。そして、セレイユたちの学園に勝った。でも、わたしが王都の学生ではなかったことを考慮して、引き分け扱いになった。
「それ、ユナ、本人に言っていいの?」
クレルが呆れるように言う。
「知ってたとしても、断るにしても、参加するにしても、ユナ次第なんだから変わらないでしょう。それに、わたしたちの気持ちを分かってほしいから、言っておいたほうが、参加してくれるかもしれないでしょう」
「そうかも」
「わたしは、来年も交流会のメンバーに選ばれるように頑張るわ。だから、ユナ、参加してね」
これが、手紙とかだったら、不参加に○でもして、送り返して終わりだ。
でも、正面から、真っ直ぐに言われると断りづらい。
「えっと、考えておくよ」
わたしは曖昧に濁す。
これが、今のわたしのできる返答だ。
「ふふ、楽しみにしておくわね」
アンヌは笑う。
それから、ボートに乗った感想だけど。
やっぱり、面白い。
加速をジャンプ台で使うのか、渦の上で使うのか、直進、カーブ、障害物、S字コーナーといろいろと考えさせられる。
時間があれば最適解が見つかるかもしれないけど、時間は限られている。
練習時間が少ない。
だから、周りを見ると、いくつかのグループに分かれて話し合っている姿がある。
ここがいいとか、ここは使えないとか、会話が聞こえてくる。
中には紙にいろいろと書き込んでいる人もいた。
練習後はフィナとシュリを2人用のボートに乗せてあげた。
フィナもシュリも加速するボートに嬉しそうに乗って騒いでいた。
ジェットコースターに乗って騒ぐ感じだ。
「そろそろ、わたしたちの練習の時間は終了ですね」
これから男子の練習時間だと言う。
「男子にもセレイユが教えるの?」
「いえ、すでに乗っている男性の方が教えることになっています。初めは男子も含め、学生にはわたしが教えるつもりだったのですが、お父様に止められ、男子に教える人はお父様が手配してくれることになりました」
大切な娘を水着を着た男の前に立たせたくなかったんだね。
しかも、セレイユ1人だ。
狼の群れの中に子ウサギが一匹いるようなものだ。
わたしからしたら、セレイユは子ウサギっていうよりは、ライオンと思うけど。
それでも、親からしたら、大切な娘だ。
まして、貴族の令嬢。
セレイユの父親の気持ちは、わたしでも分かる。
「そうだ。セレイユに聞きたいことがあるんだけど。スタートって、どうやってするの? 横並び?」
「そういえば説明をしていませんでしたね。それでは、スタート地点の場所に行って説明しましょう」
わたしたちはスタートになる場所にやってくる。
「あの光がスタート位置?」
湖の上に光の線が浮かんでいる。
「はい、あの光がスタート位置です」
あのスタートの光は魔道具で作っているのかな。
「そして、あそこに丸い大きな玉がありますよね」
セレイユが指差す先を見ると、湖の端に高い柱があり、柱の上に5つの丸い玉が並んでいる。
「あれが、スタートの合図になっています。左から順番に点灯して、右が点灯したらスタートです。ちょうど、スタートの練習をするところですね。見ててください」
男子学生だと思われる人が乗っているボートが5台ほどスタートから離れた位置にいる。
「みんな別々な位置にいます」
フィナのいう通りに、横に並んでいない。
「わたしも話を聞いただけなのですが、初めてイベント大会をしたとき、スタートは横並びで一斉にしたらしいのですが、ボートは少しの水の揺れで動いてしまい、全員が横一列になるのは難しく、不満がでたそうです」
確かに、水面に線を引いたとしても、そこにボートで並ぶのは難しい。
はみ出たり、離れたりする。
「それで、翌年、お父様とマーネ様が考えたのが、時間式です。スタートの光が点灯したら、自由にスタートです。スタートの光がつく前にスタートをした人は5秒の追加です」
「失格じゃないんだ」
「翌年、失格にしたのですが、失格者がたくさん出てしまったらしいです」
レースボート漫画でもスタートは難しいって描いてあった。
「なので、スタートに失敗しても失格ではなく、時間のペナルティになりました」
セレイユが説明していると、1個目の光が点灯して、ボートが動き出す。
2個目、3個目、4個目、そして、5個目が光ったとき、5台のボートがそれぞれがスタートラインを通る。
光る前にスタートラインを通ったボートもあれば、かなりギリギリで通ったボートやボートの半分の差で通るボート、さらには、かなり遅れて通るボートと様々だ。
「でも、ギリギリだった場合、スタートが成功か失敗かわからないね」
「それは魔石で判定しています」
「魔石?」
「ボートの先端に魔石がついていて、光の線の上を点灯する前に通ると、魔石が光りません」
「う〜ん? わからないよ?」
シュリが頭を左右に揺らしている。
「えっと、わたしも詳しい仕組みは分からないのですが、スタートを示す光と、湖にあるスタートラインと、ボートの先端に付けられている魔石は繋がっているそうです。スタートの灯りが光った瞬間にスタートラインが変化して、そのスタートの光の上にボートが通るとボートの魔石も反応して光ります。なので、スタート前に通っても、ボートの魔石は光りません」
ようは電気の流れ的な?
スタートの光がONで、その瞬間電気(魔力)がスタートラインに流れ、その上に通った魔石が反応する感じかな?
だから、スタート前は電力が流れていないから、ボートの先端にある魔石は光らない。
「そんな仕組みを作ったんだね」
「お父様も毎年、不評なところを改善していたようです。わたしは、そんなことも知らずにいましたが」
「それは、仕方ないよ」
「お父様にも、同じことを言われました」
セレイユは自分のことで精一杯だった。
周りに目を向けられなかった。
「これからは、お父さんを手伝っていけばいいよ」
「はい」
セレイユはまだ学生だ。
わたしと違って、セレイユは才能の塊だ。それに努力もできる。
人生なんてこれから、いくらでも取り戻せる。
セレイユの話ではゴールにも光のラインがあり、僅差だった場合、判断するらしいけど、過去に一度も僅差でゴールはしたことがないとのことだ。
競馬だとハナ差とかあるみたいだけど、ボートレースで僅差でゴールなんてない。最終コーナーで決着がついていた。
セレイユの家に帰ってきたわたしたちは、ノアたちにもスタートの説明をして、翌日から練習することになった。
ちなみに、フィナとシュリが加速するボートに乗った話をノアとミサが聞くと、羨ましそうにしていたので、翌日、一緒に乗ることになった。
そして、イベント当日まで、ボートの練習をしたり、街を散策したりして、時間が過ぎていった。
大会当日。
湖の周りには朝早くから人が集まっている。
「うぅ、緊張します」
「まずは、フィナたちだね」
大会は2日間で行われる。
1日目は予選が行われ、2日目に30名が本戦に出て、本戦9名による決勝が行われる。
まずは、10歳以上14歳以下の部の予選が行われる。
ちびっ子から、中学生ぐらいの子供たちだ。
それから、一般の部。学生の部。強者の部となるらしい。
「それじゃ行ってきます」
「頑張ってね」
「お姉ちゃん頑張ってね」
予選に参加するフィナたちと別れ、わたしはシュリとセレイユと一緒に、特等席で見る。スタート地点、および、ゴール地点が見える場所だ。
しかも、椅子があり、テント付きで日差しから守ってくれる。
「セレイユから見て、フィナたちはどう?」
予選は2回走ることができる。
タイムがよかった30名が本戦に出られる。
まずは、予選で30名に入らないとダメだ。
「う〜ん、どうでしょうか。わたしも本格的に大会を見るのは初めてです。子供たちが、どれほど上手なのかは、練習で見た程度ですので。それだけでいいのでしたら、周りの子に比べても見劣りはしないかと思います」
わたしもフィナたちの練習を見るときに、他の子供達の練習を見たけど、それほど差はないと思う。
「ただ、ミサーナは難しいかもしれません」
それはわたしも思った。
ノアとフィナは魔法が扱える。
話を聞くと、ノアもフィナも定期的に魔法の練習は行っていると言う。
でも、ミサは魔法の練習をしていない。
魔力の扱いは2人に比べて劣る。
だから、若干、遅いように感じた。
でも、一生懸命に練習をしていたところを見ている。
ミサも頑張ってほしい。
やっと、大会が始まりました。
練習風景はカットです。
いくらなんでも話が進まないので。
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




