987 クマさん、ルリーナさんと話す
「ルリーナさん?」
声をかけてきたのはクリモニアを拠点にしている冒険者のルリーナさんだった。
「シュリちゃんも、こんにちは」
「ルリーナ姉ちゃん、こんにちは」
「どうして、ルリーナさんがここに?」
「それは、わたしのセリフだけど。わたしはボートのイベントに参加するためよ」
「ルリーナさんも参加するの?」
「『も』って、ユナちゃんも?」
「うん」
「それじゃ、ユナちゃんが参加するってことは、強者の部ね」
「わたしは学生の部だよ」
「学生の部?」
わたしたちは落ち着いて話をするため、近くの喫茶店風の店に入る。
わたしとルリーナさんは飲み物を注文し、シュリには飲み物とちょっとした食べ物を注文する。
「さっき、学生の部って言っていたけど、そんなのは無かったと思うけど」
「今日? 昨日かな。できたんだよ。それで、わたしは一般の部で参加予定だったけど、学生の部に参加することになったの」
「そうなのね」
「あと、今日、告知があると思うけど、ルール変更の発表があるはずだよ」
「ルール変更?」
わたしは加速や渦の話をする。
「加速に渦ね。面白そうね」
「でも、ルリーナさんが参加するとは思わなかったよ」
「ミリーラに行くときに水着の話をしたの覚えている?」
「覚えているよ」
シェリーにルリーナさんの水着を作るか問題があった。
だけど、急遽決まったことで、ルリーナさんの水着を作る時間がなかった。
でも、ルリーナさんは水着をこのユーファリアの街で購入したと言っていた。
「このイベントに参加もしていたのよ」
「わざわざ、こんな遠くまで?」
「初めは知り合いの冒険者に誘われたのよね」
「知り合いって、デボなんとかのゴブリン?」
「ふふ、デボラネじゃないわよ。まあ、それで、試しにボートに乗ってみたら楽しかったのよ」
確かに、楽しい。
車の運転が楽しいって言う人がいるけど、免許を持っていないわたしには理解できなかったけど、今なら分かる。
運転するのはゲームみたいで楽しい。
しかも、ただ走るのでなく、競い合うところがゲームみたいだから、余計にそう思う。
だからと言って、現実の道路で他人に迷惑をかけて、危険な走行をしていいってことにはならない。
走るなら、レース場で走れって思う。
「でも、残念ね。ユナちゃんと勝負できないなんて」
「それじゃ練習試合でもします?」
「それ、いいわね」
まず、それにはお互いに練習をしないといけない。
ルリーナさんは午後から練習をするらしい。
「そういえばギルはいないの?」
ギルはルリーナさんの冒険者仲間だ。一緒にいることが多い。
「ギルは興味がないし、それにあの体格じゃボートに乗れないでしょう」
ギルは背が高く、筋肉質で、体が大きい。
確かに、ボートに乗れたとしても、ボートレースには向かない体だ。
「それに魔力も少ないから、魔力の扱いも上手じゃないしね」
基本的にこの異世界の人は魔力を持っている。
でも、魔力が少ない人は魔法が使えない。魔法が使えないなら、魔力を使う機会はなく、魔力の扱いはうまくできない。
そう考えると、魔法が使える人ほど、魔力の扱いに慣れているから、有利になる。
「それじゃ、ここには一人で」
「魔法使いの友達、2人と来たわ」
「友達いたんだ」
「いるわよ!」
2人とも女性だと言う。
それから、いろいろと情報交換をし、話を終えると別れる。
「ユナちゃん、シュリちゃん、またね」
ルリーナさんは小さく手を振ると歩き出す。
「それじゃ、わたしたちはフィナたちのところに戻ろうか」
「うん」
わたしとシュリはボート乗り場に戻ってくる。
「ああ、ユナさん、どこに行っていたんですか?」
ボートの練習を終えたノアたちは私服に着替えて、わたしたちを待っていた。
「シュリと散歩だよ」
「楽しかった」
「それで、練習の感じはどう?」
「ボートに乗るのは楽しいですが、勝負となると物足りないように感じます」
「はい、みんな同じ速度なので」
「あとは、コーナーとか障害物がある場所を上手に通れるかの勝負ですね」
ゲームでも抜きどころはコーナーか障害物がある場所だ。
同じ速度なら、そのぐらいしか差は出ない。
「あとは、スタートの練習をしたほうがいいかもね」
「スタートですか?」
「いかに前を走るかでしょう。前を走れば、好きなコースを走れる」
「確かにそうですね」
「でも、スタートってどうやるのでしょうか」
話を聞いていたミサが尋ねてくる。
確か、ボートレースの漫画だと、横一線に並んで、スタートではなかった。
それぞれ、好きな位置から発進して、決められた時間内にスタートラインを通らないといけなかったはず。
前のほうから発進させると、加速が遅いけど内側を走ることができる。
後ろのほうから発進させると、加速は速いけど外側を走ることになる。
でも、ここでやるレースはそんなのはないよね?
それとも、運動会みたいに横に並んで、「よ〜い、どん」とか?
「スタートはセレイユに聞いてから練習をしよう」
と言うか、知らないので、答えようがない。
「あとで、セレイユに確認だね」
「それで、ユナさんとシュリはどこに行っていたんですか?」
わたしは街を散策しながら、美味しい物を食べたり、買い物をした。それからルリーナさんに会った事を話す。
「ルリーナさん、この街に来ているんですか?」
フィナが驚く。
ルリーナさんはたまにギルと一緒に孤児院に来ているらしいので、わたしより会っている回数は多いかもしれない。
「今回のボートのイベントに参加するみたい」
「そうなんですね」
「ルリーナさんって、海で一緒だった冒険者ですよね」
ノアとミサも一応、顔見知りだ。
「クリモニアから来ている人もいるんですね」
「前回、このイベントが面白かったから、今年も来たみたいだよ」
「そうですね。ミリーラの海でも似たようなことはできないでしょうか。できれば、ミリーラの街は、もっと活性化すると思うのですが」
貴族らしく、街の発展のために考えている。
今回も勉強のためにきている。(表向きは)
「同じのは無理かもしれないけど、似たようなことはできるんじゃない?」
海でのボートレースは見たことはないけど。
ジェットモービルで競うのは見たことがある。
「海には不規則な波があるし、面白いかも」
「そうですね」
「でも、難点を言えば、見ている人はつまらないかも?」
「どういうことですか」
「この湖には橋や高台があって、レースを見るところがたくさんあるけど、海だとボートを見ることはできないでしょう」
見るとしたら、海岸からとなる。そうなると、ほとんどが見えない。見るとしたら、望遠鏡を使わないといけない。
「確かにそうですね」
カメラマンが中継用のボートに乗って、大きな画面に映す事もできない。
ボートにカメラを搭載することもできない。
ドローンとかで、状況を映す事もできない。
レースに参加する人は楽しいかもしれないけど、見る人がいないと盛り上がらない。
無観客試合みたいなものだ。
大会やイベントは観客がいてこそだ。
家族、知り合いを応援する。
野球やサッカーでも好きなチームを応援する。
好きな選手でもいい。
「イベントは参加する人だけでなく、応援してくれる人、見てくれる人がいてこそだと思うよ」
「イベントに参加する人だけでなく、応援する人のことも考えないといけないのですね」
「分かります。リバーシ大会のとき、お祖父様が応援してくれたとき嬉しかったです」
「わたしも! お母さんとお父さんが応援してくれて、嬉しかった」
ミサの言葉にシュリも同意する。
「イベントをやるって、難しいんですね」
「セレイユの父親とバードさんも失敗しながら、イベントを良いものにするためにいろいろな意見を聞いて、ルール改正をしたりして、盛り上がるように頑張っているんだと思うよ。失敗から学び、成功しているところを学び、自分たちの街に取り込めるところを取り込んで、少しずつ前に進めばいいと思うよ」
「ユナさんはお姉様と同じ年齢なのに、お母様やお父様とお話している感じがします」
「それって、わたしが年寄りって言いたいの?」
わたしは別に年齢詐称はしてない。
異世界転生して、赤ちゃんからやり直しでも、社会人の女性が若がえったわけでもない。
生きてきた年数が、そのままの年齢だ。
「違います。ただ、わたしと見ているものが違うと思っただけです」
「ノアも成長すれば、見えてくる景色も変わってくるよ」
「だったらいいのですが」
成長すれば、見える景色も考えも違ってくる。
新しい知識が入ってくれば、新しい考えも生まれてくる。
勉強とはそう言うものだ。
なにもないところゼロから一を生み出すのは一部の天才だけだ。
そして、みんなで昼食をいただき、午後はノアとミサはセレイユの父親のところに行き、今回のイベントを少しでも学ぼうとしている。
本当に10歳と11歳だよね?
わたしが10歳と11歳のときは、漫画やアニメを見たり、ゲームをしていただけだよ。
お祖父ちゃんから株とかを学んでいたけど。
それだけだ。
わたしはフィナとシュリを連れて湖に向かう。
敵情視察だ。
午後は強者の部の人が練習する。
そして、今日から加速が始まる。
時間もあるので、見に行くことにした。
「ユナさん?」
玄関でセレイユの父親と一緒にいるノアとミサがいた。
「どこかに行くの?」
「はい、加速するボートに乗るみなさんの反応を確認しにいくところです」
どうやら、同じことを考えていたみたいだ。
「ユナさんたちは、お出かけですか?」
「わたしたちも同じだよ。加速するボートに乗った反応が見たくて」
「それでは、ユナさんもご一緒に行きましょう」
セレイユの父親が馬車を用意してくれて、みんなで湖に行くことになった。
馬車にはセレイユの父親を中心に左右にノアとミサが座り、その対面にわたしが真ん中に座り、左右にフィナとシュリが座る。
「ユナさん、あらためてお礼を、いろいろとご助言ありがとうございます」
いきなり、セレイユの父親がお礼を言い出す。
「関係者のみんながユナさんの話を聞いて、感謝をしていました」
「別にわたしは」
元の世界のゲームやスポーツを参考にして意見を言っただけだ。
「来年はもっと時間をかけて、面白いことができたらと考えています。あの旗取りとか」
「できそうなの?」
「案は面白いので来年にはルールをしっかり考えて、やりたいと考えています。参加する人だけでなく、見ている人が盛り上がるようになればと」
もう、スポーツだね。
わたしはできるかどうかは別にして、いろいろと案を出す。
「水に浮くボールの取り合いですか?」
「相手の陣地のゴール? 枠って言うのかな、そこに入れたら点が入るみたいな」
サッカーをボートでやるようなものだ。
「でも、ボールの取り合いは危険かも」
ボートがぶつかり合うと思う。
見ている方は楽しいかもしれないけど、ボートに乗っている人は危険だ。
「あとはジャンプの距離を競うとか? 加速する魔石のタイミングとボート操作でジャンプの距離が変わってくると思うんだよね」
これはスキーのジャンプを参考。
「高く飛んで、距離が伸びたら、見ている人も盛り上がるかなと思ってね。問題は、ちゃんと距離が正確に測れるかどうかだけど」
湖で数センチの差を測れるどうか。
元の世界なら、レーザーとか、何かしら計測方法があるけど。この世界で数センチの距離を測れないと思う。
そのあたりは魔道具でどうにかなるか、問題がある。
「ジャンプの距離を競うイベントですか、面白そうですね」
それから、出来るかどうかは別として、わたしは目的地に着くまでに、湖でできそうなイベントを思いつくままに話した。
書いていると、毎回、何かが足りたいものが出てくるから困る。
スタートのことは全然頭にありませんでした。
2026年10月13日より、13周年目突入です。
これからもくまクマ熊ベアーをよろしくお願いします。
13年目突入にともない、新作「殺された魔法少女、異世界に行く」を投稿させていただきました。
お時間がありましたら、こちらもよろしくお願いします。
※7月3日にくまクマ熊ベアー外伝~ユナのよりみち手帖~ 5巻が発売しました。
※6月5日にくまクマ熊ベアーのコミカライズ14巻と文庫版13巻が発売しました。
店舗購入特典もあります。詳しいことは活動報告にてお願いします。
PASH! BOOKS 10周年記念 POP UP SHOPにて販売されましたグッズがFuuuuオンラインショップにて販売が開始されました。
気になるグッズがありましたら、よろしくお願いします。
※毎月28日は【ふたばの日クーポン】の日らしく、クーポンコードを入力すると10%になります。
クーポンの配布方法:購読者にメールでクーポンコードを配布するそうです。
くわしくはFuuuuオンラインショップにて、お願いします。
※PRISMA WING様より
くまクマ熊ベアーぱーんちのフィギュアが10月に発売予定です。
※22巻の発売の情報はもう少しお待ちください。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




