984 クマさん、魔石に魔法陣を複写する
ノアとミサが小屋から出て行くのを確認すると、フィナとシュリに声をかける。
「それじゃ、わたしたちも頑張ろうか」
「はい」
「うん」
流れとしてはシュリが新しい魔石を渡してくれる。
わたしが魔石に魔法陣を複写する。
複写した魔石はフィナが管理する。
テーブルの向かいにはマーネさんが紙を広げて、魔法陣を描いている。
「魔法陣って、新しいのを作れるの?」
「作れるわよ」
「なんでも?」
「できるかもしれないし、できないかもしれない」
「曖昧だね」
「わたしたちは過去に作ってきた魔法陣に対して、改良を加えたり、組み替えたりしているだけ。そして、過去の遺物から新しい魔法陣が発見されることもあるわ。だから、本当の新しい魔法陣を作れるかと聞かれたら、組み替えることで、新しい魔法陣は作れると答えただけ。それには魔法陣の知識が必要になるわ」
「それじゃ、魔法陣を作れるマーネ……様はいろいろな魔法陣を知っているってことですか?」
フィナがマーネさんの名前の呼び方を気にしながら尋ねる。
「無理に様を付けなくてもいいわよ。セレイユたちは貴族だから、立場上、礼節を持っているだけだから。わたしも威張るつもりもないし」
「えっと、マーネさんは、全ての魔法陣を覚えているのですか?」
「一般的な魔法陣は覚えているわね。あとは、一般人では知ることができない魔法陣も知っているわよ」
過去に見た魔物を惹き付ける魔法陣は一般人が見ることも知ることもないと思う。
「凄いですね」
「でも、その手の魔法陣を見るには契約書を書かされたりするから、面倒なのよね」
危険な魔法陣なら、仕方ないことだ。
もし、敵国に亡命でもしたら、大変なことになる。
「それじゃ、今回の魔法陣も組み替えて作ったってこと?」
「魔力を放出、魔力の量、時間。それを組み込むだけよ」
そう言われたら、魔法陣の知識があったら描けそうだ。
「それで、今はなんの魔法陣を描いているの?」
「さっき、ユナが言っていた時間によって渦の強弱が変化する魔法陣よ」
「まだ、採用されるか分からないのに?」
「採用はされるわよ」
マーネさんは言い切る。
「分かるの?」
「分かるわよ。だって、ユナの提案は、どれも面白いもの。参加する人も、見ている人も面白い。去年も見たけど、差が付くと、そのままゴールするから、盛り上がりに欠けてたわ。レースをしている人も差が付くと、諦める。それを見て応援していた人達も諦めてたわね」
負けが決まっているなら、レースは諦めるし、応援もしなくなる。
「もし、ユナの案を不採用にするようなら、主催者として無能よ」
「そこまで言う?」
「言うわよ。もし、ユナの案を採用しなかったら、来年から手伝うのは辞めるわ」
そこまで、言ってくれると嬉しくなる。
これもスポーツやゲームなどで先人たちが面白くするために考えた案だ。
その間にいろいろな失敗もあったと思う。
その失敗の上に、面白いゲームやスポーツがある。
「でも、それには設置する場所が決まっていないと、渦巻きの強さも分からないんじゃ」
渦巻きを設置する湖の深さが分からないと、調整はできない。
「そこはまだ空白にしているわ」
魔法陣を見させてもらうと、確かに空白の部分がある。
「ここまで描いておけば、後が楽だし、仕上げるまでの時間短縮ができるでしょう」
マーネさん、見た目は子供だけど、中身はしっかりした大人だ。
そして、わたしたちは黙々と仕事をし、マーネさんは魔法陣を描く。
「でも、イベントしか使わないのに、もったいないね」
わたしは複写した魔石を見ながら言う。
「使わないなら、魔法陣を消せばいいだけよ」
「消せるの?」
「魔力を含んだインクで複写しているから、簡単には消えないけど。ちゃんと魔力のインクが消せる液体もあるのよ」
油性ペンを消すときに使うエタノールとか除光液みたいなものかな。
魔石に彫っているわけじゃないから、消せるみたいだ。
「それを作るのも薬師の仕事の一つだけど」
「そんなものまで作っているんだね」
「薬草は人の病気や怪我を治すだけじゃないわ。魔力インクを消すのに植物の力を借りることもある。中には魔物の素材だってね。それを活用して、いろいろなものを作るのが、わたしの仕事」
「凄いね」
「まあ、それも、あそこで自由に研究をさせてくれているからだけどね」
人は自由に研究することで、予想外のものが作れたり、適当に作ったものが、別のことで役にたつこともある。
一つのことに集中すると、それしか見えないこともある。
でも、それが悪いことでもない。
一つのことを研究することで、そのものの専門的な知識を得ることもできる。
マーネさんの場合は、いろいろな研究をしているから、発想が豊かなんだと思う。
「それにしても、全部の魔石に魔法陣を複写するのは面倒臭いね。ボートに魔法陣を描き込んで、そこに魔石をはめるだけじゃダメなの?」
どう考えても魔石を作るより、ボートの数のほうが少ない。
「…………」
「なに、その沈黙は?」
マーネさんの手が止まっている。
「いや、その手もあったかなと思って」
「できるの?」
「できるわよ。ただ、ボートに複写はできないから、別の意味で手間がかかるわね」
確かに、この魔道具では複写はできそうもない。
「魔法陣を描くのって、誰でもできないの?」
「できるわよ。問題点は、別の人が描けば、効果が同じになるとは限らないってことね」
「同じ魔法陣でも?」
「魔法陣の形が微妙に違えば、効果も微妙に変わってくるわ」
マーネさんはそう言って、近くの紙に手を伸ばし、紙に丸を描く。
一つはコンパスを使ったような綺麗な円。
絵を描くから分かるけど、ペン一つで綺麗な円を描くのは難しい。
そして、マーネさんはもう一つ円を描く。
その円は微妙に歪んでいる。
「これで魔法陣を描いても問題はないわ。でも、誤差は出る。魔法陣への魔力の流れが微妙に違ってくるから。大したことがない物なら、誤差で済むけど、今回のように誤差ですまないものに対しては、性能差が大きくなるわ」
もし、加速の効果が1秒違うだけでも、差が開くと思う。
速度が10キロの差があったら、差が大きく開く。
「だから、今回は同じ効果が作れる複写が可能な魔石が一番なのよ」
確かにそうだ。
漫画の同じキャラでも違う人が描けば、違うように見える。
わたしは少し考える。
「でも、紙とかに複写して、それをボートに取り付けたりはできないの?」
「…………」
わたしの言葉に再度、動きが止まるマーネさん。
「紙に魔法陣を複写して、それをボートに貼って、その上に魔石を置く感じ?」
「……紙が濡れるわ」
「箱の中に入れるとか、濡れないように対処すれば。もしくは水に強い紙を使うとか?」
「…………」
「魔力インクは消えにくいんだよね?」
「……その方法もあるわね」
認めた。
「来年はユナの案を採用しましょう」
今回はこのまま魔石に魔法陣を複写する案で行うことになった。
「それにしても、ユナは次々とアイデアが出てくるわね」
「楽をするのが、わたしの座右の銘だからね」
「ふふ」
マーネさんが笑う。
「それが、魔道具が発展するために必要なことね」
「そうなのですか?」
話を聞いていたフィナが首を傾げる。
「人は楽をするために、道具を作り、魔道具を作るのよ。だから、ユナみたいな考えの人は重要よ。人は慣れると、それが当たり前と思ってしまうから、新しい案が出てこなくなるのよ」
現状が普通と思ったら、そこからの発展はない。
常に先を見ろってことだね。
「それじゃ、これからもわたしが楽をするために必要なものがあったら、作ってね」
「調子に乗りすぎよ。でも、ユナのアイデアは参考になるから、話を聞くだけならいいわよ」
今度、なにか欲しい魔道具や魔法陣があったら、マーネさんに頼んでみよう。
そんな会話をしながら、わたしたちは黙々と仕事をする。
「ユナお姉ちゃん。それが終わったら、紙を替えてください」
フィナがちゃんと数を把握してくれているから、なにも考えずに済むから楽だ。
わたしは魔法陣の紙を交換し、魔法陣の複写を続ける。
しばらくして、ノアとミサがセレイユと一緒に戻ってくる。
「戻りました」
その後ろにはセレイユの父親と見知らぬ男性がいる。
歳は30歳過ぎぐらいだろうか。
「えっと、その人は?」
知らない人を見ながら尋ねる。
「ボートのイベントを管理するバードさんです」
「お嬢ちゃんが、今回のアイデアをくれた女の子だね。本当にクマの格好をしているんだね」
男性が、不思議そうにわたしを見る。
「バードさん、そのことには触れないって約束を」
「おお、そうだった」
どうやら、セレイユには気をつかわせたようだ。
そのセレイユが、どうしてクマの格好をしているんですか、服はどうしたのですか。と聞いてくるので、落ち着かないからと言ったら、変な顔をされた。
「それで、どうして、お二人が?」
「セレイユから報告を受けたが、実際にこの目で見てから判断することになった」
まあ、報告を受けただけじゃ判断はできないこともある。
これが映像とかあればいいけど、そんなものはない。
スマホがあれば映像が撮れるけど、映像が撮れる魔道具はないよね?
「それでは、着替えてくる」
お二人は個室に向かう。
「もしかして、2人が乗るの?」
「はい、見るだけでなく、自分で乗って確かめるそうです」
「いいの? 領主なんだよね」
「わたしも止めたのですが、自分が乗って危険なら、一般人には乗せられないって言って」
まあ、それはそうなんだけど。
たまに、危険な乗り物に自分は乗らずに、他人に乗らせる人もいるけど。
「それに、話を聞いて、乗りたいと思ったらしくて」
「はい、わたしたちが行ったときも、いろいろと聞かれました」
ノアの言葉にミサは苦笑いをしている。
どうやら、本当みたいだ。
「お父様もバードさんも、イベントを盛り上げるためにいろいろと考えていますので」
やる気があることはいいことだ。
空回りだけはしないでほしいけど。
そして、小部屋から水着を着たセレイユの父親とバードさんが出てくる。
マーネさんはボートに魔石を設置する。
「おおこれが、速度が上がる魔石だね」
「左から弱、中、強よ」
マーネさんは、わたしたちにした説明をする。
セレイユの父親とバードさんはボートに乗る。
そして、なぜか、セレイユも。
「マーネ様、渦巻きを発生させる魔道具もいいですか?」
「セレイユが行くの? そのままで? 服が濡れない?」
「速度を出さないので大丈夫だと思います」
マーネさんは渦巻きを発生させる魔道具をセレイユに渡す。
「それじゃ、お父様、わたしは渦巻きを発生させる魔道具を設置してきます。加速する魔石の確認を終えたら、こっちに来てくださいね」
「分かった」
セレイユの父親とバードさんはボートを発進させる。
追いかけるようにセレイユもボートを動かす。
「行っちゃいました」
3人を見送るわたしたち。
魔法陣の話を書いていると次々と楽な案が思いついて困る件。
最適解は積み重ねで作られるものなので、別の最適解があってもお許しを。
※7月3日にくまクマ熊ベアー外伝~ユナのよりみち手帖~ 5巻が発売しました。
※6月5日にくまクマ熊ベアーのコミカライズ14巻と文庫版13巻が発売しました。
店舗購入特典もあります。詳しいことは活動報告にてお願いします。
PASH! BOOKS 10周年記念 POP UP SHOPにて販売されましたグッズがFuuuuオンラインショップにて販売が開始されました。
気になるグッズがありましたら、よろしくお願いします。
※毎月28日は【ふたばの日クーポン】の日らしく。
ショップサイトにあるクーポンコードを入力すると10%になります。
くわしくはFuuuuオンラインショップにて、お願いします。
※PRISMA WING様より
くまクマ熊ベアーぱーんちのフィギュアが9月に発売予定です。
※くまクマ熊ベアー ユナ ミタクルブロックコラボフィギュアの再販が決まりました。
※予約期間:2026/04/01(水)~2026/09/30(水)まで
※22巻の発売の情報はもう少しお待ちください。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。




