981 クマさん、改良したボートに乗る
わたしたちはマーネさんがいるボート小屋までやってくる。
中に入るとボートがたくさん並んでいる。
「マーネ様、いますか?」
「こっちよ」
声がする方へ行くと作業台でマーネさんが仕事をしている姿があった。
「なにしにきたの? 今は忙しいから構ってあげられないわよ」
「魔石を持ってきました。それと、この子たちがマーネ様の仕事を見たいと言うので、邪魔はしませんので、見学をしてもよろしいでしょうか?」
マーネさんは少し考える。
「そうね。邪魔をしないならいいわよ。それから、そこらにあるものに触らないでくれるなら」
「もちろんです」
「ユナとセレイユは、ついでだから、完成したら乗って感想をちょうだい。調整をしたいから」
「分かりました」
「分かりましたって、セレイユは貴族の令嬢でしょう。そんな危険な実験をしちゃダメでしょう」
「危険な物をマーネ様がお作りになったりはしないでしょう」
「当たり前でしょう。わたしを誰だと思っているのよ」
「えっと、天才薬師?」
わたし的にはそっちのほうがイメージが強い。
「それも、そうだけど、魔道具作りの天才でもあるのよ」
天才薬師は否定しないんだ。
まあ、マーネさんの部屋には訳が分からない魔道具が転がっていた。
「それでも失敗するかもしれないから、試し乗りなんだけど」
「…………」
みんなの視線がマーネさんに集まる。
「まあ、危険と思ったら、やめて戻ってきて」
それが試し乗りだ。
わたしとセレイユは了承する。
「それで、今はなにをしているのですか?」
「魔石に短時間で魔力を放出する魔法陣を刻んでいるのよ」
「つまり、ブーストってことだね」
「問題は時間ね。何秒ぐらいがいいのか分からなかったから、何個か作っているところ」
確かに、時間を聞かれても答えることはできない。
あの加速アイテムのキノコって一瞬? 1秒ぐらい?
「秒数を変えることできるの?」
「できるわよ。ただ時間と速度は反比例するわよ」
「えっと、それはどういう意味ですか?」
ノアが尋ねる。
「簡単に言えば、速度が上がる時間が短ければ、ボートは物凄く速くなる。でも、時間が長くなれば、最高速度は下がっていくってことよ」
「最高速度が速すぎても危険ですね」
「安全面には考慮しているけど、絶対はないからね。だから、あなたたちに試しに乗ってもらって、感想を聞きたいのよ」
「分かりました」
「それじゃ、水着に着替えてきて、その間に魔石をボートに取り付けておくから」
そうだよね。ボートに乗るってことは水着に着替えるってことだ。
「あっ、水着は……」
セレイユは気づく。
水着は洗濯して、干してある。
「家に戻るか、近くのお店で水着の購入をしないと」
「水着ならあるから大丈夫だよ」
「そういえば、シェリーちゃんがユナお姉ちゃんのために、たくさん、水着を作っていました」
「海に行ったとき、毎日違う水着を着ていましたね」
フィナの言葉にノアも思い出したように言う。
そう、わたしは水着を何着も持っている。
数が多くて、海では着ていない水着もある。
「セレイユも着られるものがあると思うから」
「それでは、ありがたく使わせていただきますね」
本当なら水着に着替えるのは抵抗はある。
でも、加速するボートに乗ってみたいと、元ゲーマー心が訴えている。
わたしはセレイユを連れて、小屋の中にある小部屋で水着に着替える。
「こんな、可愛い水着をわたしが」
セレイユはビキニを着ている。サイズ的にワンピースタイプの水着はダメそうだったので、ビキニになった。
シェリーが気を利かせて、わたしが成長したときの水着を作ってくれていた。
その水着はセレイユにちょうどいいサイズだった。
分かっていたけど、わたしより……。
水着に着替えたわたしたちは、小部屋から出て、マーネさんのところに向かう。
「準備はできているわよ。説明するから、しっかり聞きなさい」
わたしとセレイユはボートに近づく。
「とりあえず、適当に取り付けただけだから、魔石の位置は気にしないで。魔力が流しにくいと思うけど、それは我慢してね」
舵輪には魔石が新しく3つ付けられている。
「簡単に説明すると、左から右に行くに連れて、秒数が長くなっているわ。秒数が長くなる代わりに、速度は下がる」
先ほど聞いた話だ。
「回数は、それぞれ一回なんですよね」
「魔力を一気に放出するからね」
「魔力を自分で入れたりしたら?」
「対応済みよ。魔石の注入は裏面からしかできないようにしてあるから。ユナやセレイユのように魔力が多い者が何度も魔力を補充して、何回も使えたら、卑怯だからね」
流石に対処済みだったみたいだ。
「でも、逆に魔力が多い人を集めて、自由に何度でも使えるようにしたら、面白いかもね」
戦略が増えるし。
「なにを言っているのよ。もし、ユナが使ったら、全部、最高速度を出しっぱにするでしょう」
人のことをなんだと思っているかな。
でも、考えてみると、やりかねないので、言い返すことができない。
わたしとセレイユはボートに乗り込む。
それをノアたちは羨ましそうに見ている。
「また、ボートに乗れるなんて、羨ましいです」
「わたしも乗りたい」
「残念だけど、あなたたちは見学よ」
「そうですね。もしものことがありましたら、ノアたちの両親になんと言ったらいいか分かりませんからね」
「まあ、わたしたちが乗って、安全だったら」
「本当ですか?」
「まあ、大会で採用されましたら」
わたしとセレイユの言葉にノアたちは嬉しそうにする。
「それじゃ、試し運転と行きますか」
「そうですね」
魔石に魔力を流し、ボートが動き出し、岸から離れる。
そして、人がいないところまでやってくると、
普通にボートを動かす。
そのまま現状の最高速度まで上げる。
そして、次に右側から魔石を確かめていくことにする。
つまり、時間は長いが加速が遅い順だ。
魔石に魔力を流してみる。
グッと速度が上がる。
心の中で秒数を数える。
そして、一定時間で元の速度に戻る。
15秒ぐらい?
あくまで、心の中で数えた秒数だ。
次に隣の真ん中の魔石に触れてみる。
グッと速度が上がる。
ボートの前が上がる。
体の重心を前にして、ボートの上がりを防ぐ。
速度は一個目の魔石より速い。
秒数は10秒ほど。
次は最後の魔石だ。
時間は短いけど、一番加速がある。
わたしは直進になる場所で魔石に触れる。
すると、二個目の魔石以上にグイッとボートが加速し、ボートの前が持ち上がる。
体を前のめりにして、ボートの上がりを押さえる。
速い。
でも、すぐに加速は止まる。
感覚的に5秒ほど。
15秒、10秒、5秒って感じみたいだ。
これを組み合わせたら、ゲームみたいで面白いかも。
ただ、操作性が難しくなるので、大会で使えるかどうかが問題だ。
それを判断するのは、わたしじゃなくて、大会の関係者たちだ。
3つの加速を確認したわたしはマーネさんがいるところまで戻ってくる。
「ユナさん、どうでしたか?」
ノアが出迎えてくれる。
「面白かったよ」
「うぅ、わたしも乗りたいです」
「わたしも乗ってみたいです」
ノアとミサの言葉に、フィナも小さく頷いている。
シュリは、「わたしは乗れないもん」と口を尖らせている。
「どうだったかしら?」
マーネさんがやってくる。
「凄かったよ」
語彙力がない。
わたしはボートを下りながら、もう一度答える。
「使いどころしだいでは面白いかもね」
「どの魔石がよかった?」
「全部」
わたしは思ったことを、そのまま伝える。
「全部じゃ、どれを使ったらいいか分からないでしょう」
「使いどころが違うから、全部でいいんじゃないかな」
「使いどころ?」
「加速の話をしたと思うけど、ジャンプ台では一番加速がある魔石を使うといいかも。今回は確かめていないけど、着水でテクニックの差が出る」
速い速度でジャンプ台を飛べば、距離は伸びる。
でも、それと同時に着水が難しくなる。
そこは、テクニックの差が出て、盛り上がる。
「ゆるやかなカーブなら、速度は遅いけど秒数が長い魔石を使って、コーナーを少し速度を上げて曲がる。速度が上がる分、コーナーリングのテクニックが要求される。もし、失敗すれば、外に膨らんで抜かれたりするけど。テクニック次第では前との差が縮まったり、後ろとの差を広げたりすることもできる。もし、相手がカーブで使ったなら、自分は直進で使うって方法もあるから、本人次第?」
カーブは手堅く曲がり、直線で差を縮める方法もある。
実際問題、どっちに使えばタイムが速くなるか分からない。
それに本戦なら、左右にボートがいる可能性もある。その場の判断になるかもしれない。相手が使ったから、自分も使うとか?
「それじゃ、真ん中の魔石は?」
「それが、一番自由度が高いかも? 手堅く直進でもいいし、ジャンプに不安がある人は、一段階加速を落とした魔石を使えばいいし、カーブに自信がある人なら、一段階速い魔石を使ってもいいし」
「それなら、全部、真ん中の魔石にしたら?」
「それじゃ、相手が、どの魔石が残っているか分かっちゃうでしょう。本戦では10人、決勝では9人が同時に走るでしょう。種類があれば、駆け引きに使ったりできるでしょう」
「……?」
「えっと、つまり、直進で隣に走っているボートがいきなり速くなる。でも、それは、どの加速の魔石を使ったかは分からない」
「つまり、それが駆け引きってことね。でも、ユナ、たったの一回乗っただけで、そこまで把握したの? わたしはどの魔石がいいのか選んでもらうつもりだったのに」
ゲームで経験したとは言えない。
ジャンプ台で加速を使うのか、コーナーで加速を使うのか、直進で加速を使うのか。なにかしらの操縦で失敗したときに速度が落ちたときに、使う方法もある。
使うところは自由だ。
今後の投稿について
申し訳ありません。
母が腰を骨折し、介護が必要になり、
立ち上がるのも大変で、治るのも時間がかかるそうです。
書く時間が減ると思いますので、投稿は不定期にさせていただきます。
投稿しましたら、X(旧Twitter)で報告させていただきます。
くまなの




