2
投稿時間は、基本的にランダムです。
とある日。
私たちパーティ宛てに、冒険者ギルドづてで匿名の依頼が届いた。
思うところがあった私は、とりあえずそれに応じることにしたのだが。
まあまあ、立派になって...。
通された応接室の立派すぎるソファの端っこに腰掛け、私はなるべく目立たないように伏し目がちになりながらそんな感想を心の中でつぶやく。
騎士服を身にまとったヨードがそこにいた。
何度かちらちらと視線を向けてみたが、こちらに気づく様子はない。面倒なのでひとまず助かった。
縮こまっていた体を伸ばすと、隣に座ったレストが迷惑そうにしている。その向こうには、ヨードに悩ましげな視線を向けるミミリスと、退屈そうに胡座をかくシュリーと、そんなミミリスをいさめようとするレストと、面倒事の予感がしている私と。
「く、..."クク・クッキーと愉快な仲間たち"」
手元の資料を見ながら、怪訝そうな様子でヨードが私たちのパーティ名を読んでいる。
ぶふっとシュリーが吹き出した。ジロリと睨むと、シュリーはいつものように慌てたように明後日の方を見て誤魔化した。
パーティ結成当初、私がパーティ名を適当に勢いで書いた過去の出来事を、メンバーは皆ことある事に揶揄ったりからかったりしてくる。
「......で、あっているかな?」
ヨードの確認の声に、レストが「ああ」と返した。
「ご依頼、とのことですが?」
さすが率直なレスト。やっと話が進む。
私たちのパーティにとっては、名が売れてきたとはいえ、わざわざ名指しでの依頼など珍しい話だった。
「ある高貴なお方からの護衛の依頼だ。1ヶ月ほど同行願いたい」
「「1ヶ月!?」」
私とレストの声が重なる。
ミミリスとシュリーは相変わらず反応が薄い。
「報酬は弾む。数ヶ月はのんびり暮らせるぞ」
「それで、どこまでの護衛で?」
「地方視察だ。ご令嬢の護衛のため危険な場所も避ける」
「のったあ!」
面倒くさがりでお金大好きなシュリーが横槍で即答する。が、私はなんだかさっきから嫌な予感がしてならない。
「何故私たちのパーティを?」
そう尋ねるとヨードと目が合ったが、一向に私に気づく気配はない。だからといって不安が拭えないのは、彼には誤魔化しが通用しないと分かっているからだ。今でも付き合いがあるのは、風の噂で知っている。
「お前たちがそれを聞くのか?地方での戦いとはいえ、先の戦での活躍を知らぬ者はいないだろう。まあ、一見分からない者がいるのも当然。だからこうしてわざわざ出向いてもらったのだがな」
私たちの様子を一人一人確認するように見回すヨードに、ミミリスとシュリーは顔を見合せ、ただ肩をすくめる。
「有名で高ランクの冒険者は他にもいる。そんな中で何故俺らを指名してくだすったのかが知りたいんですがね?」
ヨードの様子を見るため黙り込む私の隣で、レストは荒んだ雰囲気ただよわせ始める。自由を愛するレストは、強要が嫌いだ。
レストの雰囲気でその様子には気づいているはずだが、ヨードは気にもとめていない。
「そこが大事か?お前たち冒険者は依頼が入ればそれを全うすることが仕事だと思っていたのだが?」
レストの額に青筋が走ったのを感じた。見なくても分かる。
あ、めんどくさ...。
「ぁあ?じゃあ何か?お貴族様に頼まれれば、俺たちゃ冒険者はなんの疑問も持つことも許されずに従えってか?俺らは平民だがただの平民じゃねえ。お貴族様のために血反吐はいてSSS級冒険者になったわけじゃねんだよ」
「......レスト。やめよう、受けよう」
「......クク!」
レストが容赦なく私を睨みつける。パーティの中で、レストは私に対して1番容赦がない。付き合いが長い、とも言う。
「先の戦で確かに私たちは活躍した。それで疲弊もしてる。特に、レスト。レストは私たちを庇いながら戦って、1番ククを消費した。反論しないでよ?アレの効果と反動を私が1番分かってる。聞けばこの依頼は楽そうな仕事だろう。報酬を貰えればしばらくゆっくりもできる。いい話じゃないかな?」
「ふざけんなよクク!!」
貴族が原因で剣の師でもある祖父を亡くしてから、レストの貴族嫌いは加速し続けている。ちなみに、レストの祖父は私の剣の師でもあるので、レストは一応兄弟子ということになるのだが、私の中ではパーティの上下関係においては私が上だと思っている。レストが聞いたらまた喧嘩になるので言わないが。
そんなわけで、私がレストの貴族嫌いについて知っていることも、レストは分かってる。
だからこその怒りだが、私も譲れない。
「ふざけてない。嫌なら追加のククがなくても大丈夫なくらい強くなってもらわないと困る」
「......ぐっ!」
遠回しに弱いと言われたようなものなのだが、自覚しているのかレストはそれ以上なにも言い返してこなくなった。
黙り込むレストを、ミミリスとシュリーが憐れむように見守っている。
「ククはいつもレストにきびしいよねえ〜」
「かわいそうなレスト」
緊張感のない声で憐れむシュリーと、憐憫の眼差しなのに妖艶に見えてしまうミミリスに、私は反論する。
「ククに関しては私に一任してくれるって約束だ。」
「「はいはい。」」
「...今に見てろよクク!!」
諦めた3人を横目に、私はヨードに向き直った。
そして、この自分の判断を後悔するはめとなるのだが。
「ご依頼を受けます。正式なご依頼内容を伺ってよろしい?」
「話が早くて助かる。ご依頼主は、フェリシア・レティアノ公爵令嬢」
「──!」
「目的地は先の戦地であったグラス地方のルエリード領だ。戦後復興の視察をなさるとのことだ。護衛の騎士団も同行するが、我らはあくまでフェリシア嬢の護衛のため、御身から離れられん。戦闘は主に君たちに担ってもらう形となる」
レティアノ公爵家。
苦い思いとともに、忘れられずにいる貴族の名だった。
「──...レティアノ公爵...、ですって...」
「...?クク?」
脳裏によぎる、低い声。
『仕えることになった。』
『レティアノ公爵家に望まれた。』
『フェリシア嬢の護衛に、と。』
途切れ途切れによみがえる言葉。
私を映さない黒い瞳と端正な横顔。
薄く整った綺麗な唇が、知らない女の名をつむぐ。
可愛い女は退屈だと、そう言った唇で選んだ──綺麗で可憐な女。
貴族に望まれれば、そう簡単に拒めないことなど、分かっていた。
だけど。道はあった。私は選んだ。選べた。
そうでしょう、ブラン?
ブラントは選んだんだ。
その、女を。
「...なんで...」
思わず漏れた言葉が震えてしまった。
だって、あなたなら気づいたでしょ?
クク・クッキーと愉快な仲間たち。
気づいたはずだ。他のパーティも、選べたはずでしょ。
なのに私たちを選ぶのを避けなかった。
私の気も知らないで。
いや、きっと。
知ってても、分かってても、ブラントは変わらない。
あの日のように、選んだってだけの話なのかもしれない。
私の気持ちなんかよりも、守るべき女のことを。
「残酷だよ.......、...ブラン」
あの日。決別となってしまった日。
私は貴方に泣いてすがった。
きっと何を言わなくても私の想いに気づかれてしまっただろう。けれど、隠す余裕なんてなくて。
ブラントはそんな私をかなしそうな瞳で見下ろして、だけど慰めもしてくれることもないまま、その後ほかの女のものになった。
そうして、私のヒーローは、私のヒーローだった人になった。
☆
結局、依頼は受けることになった。
急に様子がおかしくなった私に気づいたみんなは、辞退しようとしてくれたけれど。おいしい話には違いない。
ブラントの守るご令嬢やブラントのその後のことも気になるし、ブラントの意図も気になっている。
それに、本当に気づいていないかもしれないんだし。
私に、気づかないのかも、しれないし...。
...そんな私の期待は、ブラントと目が合ったその瞬間に、儚く消え去ってしまったけれど。
来て欲しいような欲しくないような気持ちで迎えた、出立の日。
私たちパーティは、私の故郷から、活動拠点である王都の城下町へと舞い戻っていた。
集合場所は、レティアノ公爵家のどデカい門前。
大きな門の内側のだだっ広い敷地内に通された私たちは、これまた大きな扉の前から手を引かれ階段を降りてくる美しいご令嬢に、様々な思いで目が釘付けになった。
可愛いくて可憐な、美しい女だった。母に少し似た純金のような黄金の髪が、朝日に照らされ輝いていた。
正に、あの訓練所でブラントとヨードが語っていたような女だ。『守られて当然』のような顔をしていても、『可愛』くて『退屈』でも許されるような、そんな高貴な女。
その細く華奢な手を引く背の高い男は、騎士然とした格好の上からでも伝わる鍛え抜かれた体つきをしていた。
約3年振りのブラントだ。動作ひとつでその者のだいたいの強さを測れるようになった私でも、ブラントには敵わないと感じる。
変わらない輝きをまとう薄紫に光る銀の髪は、昔望んでいた通り、父のように腰までの長さに伸ばした髪型にしてあり、黒曜石を閉じ込めたような瞳は、油断ならない光を帯びていた。
想像以上の美丈夫に成長したブラントを前に、私は呼吸もままならない気持ちにさせられているのに。
ブラントとは、目は、ずっと合わなかった。
私たちパーティは、いっさい気にも止められていない様子だった。ブラントの視線の先にあるのは、ブラントが守る対象であるご令嬢と、任務だけ。
気づいた時には、形ばかりの挨拶もそこそこに、目的地へと出発していた。
...き、気づかれなかった。
ホッとしたような、ガッカリしたような、虚しいような、寂しいような、切ないような、腹立たしいような...そんな複雑すぎる気持ちでぐちゃぐちゃになった。
この3年で、私は17となり、身長も伸びた。体格も女性らしく、剣士らしく成長し、変わった。
何より、薬草の知識を利用し、髪色を赤色から黒色へと変えていた。周りからは結構不評なこの髪色は、珍しい色だからということと、目立ちたいから、といった軽い動機から始めた事だったけれど。冒険者を初めた当初のその決断に、感謝して良いのかもしれない。
だから。
気づかれなくて当然なんだ。
3年前の私だったら。
今の私を見て!と、きっと思っただろう。
けれど今は、ブラントに顔向けが出来ない気がした。
強さを求めすぎて得たものを、後悔はしていないつもりだけれど。今や、必要な過程だったと思えているけれど。
真っ直ぐなブラントから、何を言われてしまうのか、きっと分かってしまうから。




