第四十六話
とりあえず、ゴアが部屋に戻ったことが確認されたようで、楽器を準備する音が聞こえ始めた。
次の曲だ。
今度こそは、大人しく聞いて、余韻を楽しめるようにしばらく静かにしよう。
そう決意して、椅子に深く座る。
次の曲は、ちょっと暗い入りだ。
中くらいのシュルットを静かに弓で弾き始めた。バイオリンとよく似ている。
そこに、大きな膜を張ったティンパニのような楽器がポポポポと鳴らされる。
厳かな曲が始まりそうだなと思っていたら、唐突に足元に寝そべっていたメフィスレスがむくりと立ち上がった。
「ん?」
どうしたんだと問おうとしたら、いきなりメフィスレスが俺の前に歩み出た。
何かあったのか?と警戒しようと思ったら、メフィスレスの呟きが聞こえた。
「私の曲だ」
そう聞こえた途端、メフィスレスが背中に羽根を生やしてバサッと空に飛びあがった。
背中に羽根が生えるとか、聞いてないんですけど。
そんなことして魔力は溢れ出してない?とちょっと不安になったけど、全然魔力も溢れてない。
って、私の曲って、何?どういう事?
不思議に思いながらも、とりあえずメフィスレスが変な事をするとも思えないので、大人しく曲を聞いておこうかと思って、椅子にちゃんと座り直す。
いつの間にか曲はアップテンポに変わっていて、一人の女性が進み出ていた。
何の楽器も持たない彼女は、どうやら、歌を歌うらしい。
「あ~あ~あ~~あ~あ~~。」
綺麗な声が響く。何となく、何かを讃えているように感じた。
どんどん、曲が壮大に、豪華な音を奏で始める。それに比例するように、彼女の声も激しく大きくなっていく。
これ以上は喉にヤバそうと思い始めた頃、ジャーン!と大きな音が鳴った。シンバルのようなドラのような音だ。
凄い音だと思ったら、上空でメフィスレスが一気に巨大化した。
あまりに高くまで行くから見えなくなっていたメフィスレスが、上空で本来の姿に戻ったらしい。
見上げた空で、変則的に飛び回る様子は、まるで踊っているようだ。
楽器の音がすべて消えて、綺麗に歌い上げる声だけが空に響く。
彼女も、上空のメフィスレスに向かって歌うように見上げている。
歌詞はあまりはっきりとは聞き取れないが、冥府の王に祈りを捧げている感じ。
『平等な死』『安息の闇』『安寧の地』とか、そういう言葉が聞こえてくる。
そう言えば、メフィスレスは冥府の番人とか言っていたな。確か。召喚した時に。
だから、私の曲って言ってたのか。
なるほど。
昔からこうやって、人類は冥府の王に永遠の安らぎを祈祷してたのかな。
なんて、しんみり考えていたら、空から光が降ってきた。
黒い光なんてちょっと怖い。触っても大丈夫なやつか?
って言うか、魔力だったらダメじゃん。
慌ててゼンツを振り返ったら、躊躇いなく黒い光に触れてた。
「だ、大丈夫なのか?」
大丈夫そうだけど、でも、魔力っぽいけど、とかグルグル考えながら声をかけたら、満面の笑みで『大丈夫ですよ』と言われた。
「これは、魔力の光じゃなくて、神力の光ですから」
と。
この世界の力って、何種類あるんだよ。




