第四十四話
ただ、残念ながら、この国にはスタンディングオベーションという文化が無いのか、『どうされたんですか?』とか言いながらゼンツに椅子に座り直された。
あと、『そんなに手を叩くと痛くなりますよ?』とか、『楽器は後程触れて頂きますから、もう少し我慢してくださいね』とか、あほボンみたいに扱われた。心外である。
でも、どうしてもこの感動を伝えたかった。
「ねぇ、お話ししても良い?」
と聞くと、ゼンツは迷いながら、色とりどりの花が窓から顔を出す後宮を振り仰いだ。
こいつは、何の判断も出来ない雇われのようだ。
こういう時はアレだ。聞くんじゃなく、宣言すれば良いんだ。
「ゼンツ、この感動を彼らに伝えたい。遠いから、俺が行って話してくる」
子供のわがままは、いつでも許されて然るべきものなのだよ。
と言うことで、ゼンツの反応を見ることなく、俺は彼らの方に歩いて行った。
「ちょ、え、しかし」
なんて言いながら、ゼンツは止めることも出来ないようでオロオロしている。
「魔力結界は、主が触れると崩壊するぞ。手前で止まっても声は届く。あと三歩が限界といったところか」
メフィスレスが足元でギリギリの位置を教えてくれる。
俺のような魔力の塊が触れたら、結界は反発で壊れてしまうらしい。
流石に結界を崩壊させちゃったら大問題だろう。
メフィスレスが指定した位置で止まるが、結構な大声じゃないと届きそうにない。
「あの!素晴らしい演奏をありがとうございます!感動しました!」
頑張って声を出したら、真ん中の太鼓の男がスッと跪いた。
多分、俺が近付いて来るのを見て、何か悪かっただろうかと怯えていたんだと思う。
凄い安心した顔で跪かれた。
「このような高貴なる場にて演奏の機会を賜りましたこと、光栄の至りに存じます。感謝の念に堪えません」
なるほど。
いつものメンツでない場合、割と硬い表現も使うんだな。
他の楽器を持っている人たちも、楽器を汚さないように気を付けながら、何とか跪こうとしているのが見えて、ちょっと申し訳なくなってきた。
「そのままの姿勢で構いません!もし良ければ、もう少し聞かせてくれますか?」
グネグネの三人がどうやって跪こうかと慌てているのを止めて、リクエストする。
と言うか、普通にあと二、三曲やる予定だったよね、多分。
いや、ホント、とりあえず感動を伝えたい一心で、余計な事しました。
ごめんなさい。
「身に余る光栄です。あと二曲、披露させて頂きたく存じます」
跪いたまま言うので、大人しく椅子に戻ることにした。
ちなみに、ゼンツは俺について来てはいない。
椅子のあたりでオロオロしている。
「楽しみです!」
そう叫んで、椅子の所まで戻った。
だが、そこにはゼンツ以外の人影が出現していた。
よりによって、ゴアだ。




