第四十二話
俺は、連行する気分でガシッと手を掴んでやった。
傍から見たら、懐いたと思われたようだ。
「こいつから赤ん坊と同じ匂いがするにゃ」
アイッシェンが護衛騎士の足元をフンスフンスと嗅ぎながらクルクル回る。
護衛騎士は物凄く困惑しているが、俺は助けてやったりしない。せいぜい困ればいい。
「申し遅れました。第一王子殿下。私はムレ様の護衛騎士を務める、ゼンツと申します」
足元のアイッシェンを踏まないように気を付けながら、膝を折って挨拶をしてくれる。
俺がこないだやった時のように地面に膝をつくのではなく、ギリギリの所で止めている。
挨拶を終えて立ち上がっても、膝に汚れがついていない。
くそ。平民上がりで礼儀はからっきしとか誰か言ってなかったか?
カッコいいじゃないか!
「ルイーナだ。よろしく頼む」
ちょっと悔しい想いをしながらも、俺は胸を張って返答した。
手は護衛騎士を掴んだままで。
そしたら、何かナチュラルに持ち上げて額に付けられた。
え、そう言うのってご令嬢にする挨拶じゃないの?子供にもするの?
「ゼンツ、ルイーナ様は男児です。その仕草は女性に行うもの、相応しくありません」
あ、注意された。
護衛騎士はシュンとして俺に謝り、注意してきたリリシアにも謝っていた。
なるほど、勉強中なんですね。頑張れ。
「では、こちらへ」
リリシアが凛として後宮の庭園へ案内してくれる。
護衛騎士と手を繋いだまま、俺もその後に大人しくついていく。
ちゃんと、俺の歩幅に合わせて歩いてくれる。二人とも良い人である。
たどり着いた庭園には、とてもたくさんの人が跪いて待っていた。
その手には、色々な種類の楽器を持っている。
でも、後宮には魔力を持つ人達は入れないはずでは?
「あの者達へはお近づきにならないで下さい。彼らとこちらの間には、魔力結界というものが張ってあります。彼らの魔力を結界の中に隔絶するという魔術です」
なるほど。そんな魔術があるのか。
距離は離れてしまうけど、魔力以外は通すから、音は聞こえるって事ね。
俺はその楽団というべき団体の目の前に、踏ん反り返るように鎮座している椅子に連れて行かれた。
やっぱり、俺の椅子なのね。
「ルイーナ様はこちらで観覧してください。我らは、部屋の中より拝見させて頂きます」
目立つ玉座みたいな椅子の後ろの建物を見たら、窓もカーテンも開いていて、色々な後宮の花が外を覗いていた。
なるほど、みんなで観覧するのね。俺だけじゃなくてよかったよ。
もしも俺が寝てしまっても大丈夫だね。安心。
俺が椅子に座ると、俺の右側にテーブルが持って来られた。上には飲み物とおやつが少々。
椅子の左側には、ゼンツが護衛騎士として控えた。
準備が整うとすぐに、優しい音楽が流れ始めた。
演奏会の始まりだ。




