第四十一話
次の日、いつものようにリリシアの指導を受けながら文字の練習をしていたら、唐突に休憩に入った。いつもは課題が終わるまで絶対に休んだりしないのに。
「本日は、後宮の庭園に、ルイーナ様に見て頂きたいものがあります」
リリシアにそう言われて、休憩がてら後宮の庭園へ赴くことになった。
妊娠中のリリシアに合わせて、だいぶゆっくりした歩調だ。たまに、侍女に支えられたりしてる。
「リリシア様、そんなにしんどいのに、毎日後宮から俺の部屋まで来てくれてたの?無理しなくていいよ?」
めちゃくちゃ大変そうなんだけど。
ムレもそうだったけど、どうして後宮の女性たちは悪阻を我慢して歩くんだろう。
別に歩いた方がいい時期でも無いだろうに。
「申し訳ありません。普段は特にひどい訳ではないんです。今日は少し、調子が悪い様で。でも、すぐに治まりますわ」
本当かな?無理しそうだけどな?
と疑いの目で見ていたら、ユハが『本当の事ですよ。普段はお元気です』と耳打ちしてくれた。
ユハが言うなら、本当の事らしい。
まぁ、悪阻の重さは本当に人それぞれだからな。
「ふぅ。少しマシになりました」
侍女が手渡した何かを口にしたら、ケロッと元気になってスタスタと歩き始めた。
いやいや、元気になったからってスタスタ歩いちゃダメだろ。スッキリしたのかも知れないけど。今はダメな時期だと思うんだが。
直ぐに侍女さんに注意されてた。良かった。周りはちゃんと分かってるな。
って言うか、足長スタイルのリリシアにスタスタ行かれたら、四歳の可愛いあんよしか持ちえない俺には、全くついて行けないので。御配慮願います。
そんなこんなで、やっとこさ後宮に辿り着いた。
いつも通り、門番がたくさん詰めている。俺はちゃんと魔力を身体から放出しないように調節済みだ。召喚獣二人もちゃんと調節出来てる。
ただ、残念ながら、ユハは魔力の調節ができないので後宮には入れない。
「ここでお待ちしております。ルイーナ様」
すっかりその事を忘れていた俺は、唐突にユハに手を離されて半泣きだ。
握ってたことも無意識だったけど、離されるなんて思ってなかったし、離し方が冷たかった。
「ダメ。ユハ、もう一回やり直して。もっと優しく離して」
気付いたら、口からヤバいセリフが飛び出した。俺はいつの間にやら、駄々っ子になってしまっていた。
ユハはいつも通りにクスリと笑って、俺の手をギュッと握ってゆっくり離してくれた。
まぁ、許してやらない事も無いんだからね。
「では、ここからは私が案内させて頂きます」
ユハの代わりに俺の側に立ったのは、門番の中の一人。
彼らの事はあまり知らないんだけど、こいつは見覚えがあった。
カツィの部屋の前に居た男だ。
貴様がムレの護衛騎士か!




