第四十話
結局、カツィのおへそはちゃんと消毒されて何事もなく終わったらしい。
一度カツィの部屋に確認に行ったら、部屋の前に騎士が立っていて乳母と話し込んでいた。多分、あれがムレの相手でカツィの本当の父親だろう。邪魔するのも悪いので、何もせずに引き返した。
ちゃんとムレと話し合ってくれたら安心だけど、どうなんだろうな。
俺はまだ、この国の常識を理解しきれていない。
何がムレや護衛騎士を頑なにさせているのか。それを知らない現状では、俺には首を突っ込む資格がない。
「ユハ。俺、いっぱい勉強したい」
この国では、あまり王子教育を急かさないようだ。
文字を覚えたり、地図で国を覚えたり、礼儀作法を覚えたりはしたが、それくらいだ。
王子ってもっと、机に縛り付けられて勉強しなさいって怒られるもんだと思ってた。
鞭とか持った吊り目の厳しい女性に睨まれながら、ヒィヒィ言いながら頑張って、大人になる頃には感謝してるみたいな。そんな青春が送りたいです。
「ルイーナ様は、十分にお勉強なされておりますよ。お暇であれば、楽器など習われては如何ですか?他には、鍛錬でもなさいますか?」
何と魅力的な提案だ。
この国の楽器はどんなのがあるか、とても興味がある。
それに、ユハも騎士予備科で毎日どこかへ出かけているが、鍛錬していたのだろう。参加できるのなら参加したい。
『どっちもやりたい』とワクワクで答えると、すぐに楽器を置いてる部屋に連れて来てくれた。明日から準備すると言われるかと思ったら、即座に教えてくれるとは。流石有能秘書。
「こちらが、シュルット。このように、糸を弾いて音を出します。こちらが、メヤーラ。ここから息を吹き込むことで音が出ます。こちらが、ソネア。ここを叩くと音が出ます。」
いろいろな楽器を紹介しながら鳴らしてくれる。
シュルットは、弦鳴楽器。バイオリンのように弓は無く、爪に引っかけて鳴らすタイプだ。
メヤーラは、気鳴楽器。トランペットよりたくさんくねくねしている管に息を吹き込んで鳴らす感じ。
ソネアは、体鳴楽器か膜鳴楽器か分類が難しい。叩いて鳴らす楽器だ。外からでは見えない所に膜が張っているという可能性もあるが、もし張ってあったとしても物凄くピンと張っているだろう。高い音が鳴っている。
他にも色々と紹介してくれたけど、その中には、魔力を送る事で音が鳴るものもあった。電鳴楽器ならぬ、魔鳴楽器とでも言おうか。
どれも、不思議な音色をしていた。まさに、電鳴楽器のような音だ。
貴族の子女が習うものとしては、シュルットかメヤーラが一般的らしい。
ただ、シュルットを弾くには指が小さくて皮膚も柔らかすぎる。メヤーラは持ち上げるのが大変そうだ。持ち上げた途端に落としそうで怖い。
ソネアは演奏するには簡単そうだが、長い時間演奏するには手が痛そう。それに、簡単だからこそ、楽器としては高価だが貴族の子女にはあまり人気がないそうだ。
特権階級というのは、総じて難易度の高いものを習得する事を求められるからな。
とりあえず、今日はどれを練習するかは決めずに、どの楽器も鳴らしてみることにした。
シュルットのような弦鳴楽器は、だいたい弦が張り過ぎていて鳴らすのに力が必要だった。メヤーラのような気鳴楽器は全て持ち上げられなかった。ユハがかわりに持ち上げてくれて吹いてみた。音は鳴ったが、自分で持てなければ演奏は出来ない。
ソネアの他にある膜鳴楽器は、膜が張られているのが見えていたが、めちゃくちゃ高価そうだ。絶対に適当に叩いて遊べる楽器ではないとよく分かるものだった。土台の装飾なんて目を見張るほど細かかった。
体鳴楽器は、手にするのも恐ろしい程に装飾だらけだった。辛うじて鳴らしてみたのは、ツリーチャイムに似ているサラーハという楽器。シャラシャラととても綺麗な音が鳴っていた。




