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うむ。なるほど。  作者: たなかそう


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第四話

最近は、何となく俺の頭が母親の骨盤にぴったりフィットしたのか、動きにくくなった。

恐らく、もう外に出るのを待つだけといった感じなのだろう。

頭も身体も固定されて、たまにギュッと押し潰される。

痛いな。

特に、頭が痛い。

そう思った時には、もう他に何も考えられないほどの激痛が襲った。


痛い。痛い。痛い。


頭が砕けそうになりながら、何度も押し潰される。

身体も引き絞られて、たまに何かが容赦なく押さえつけてくる。


痛い。痛い。痛い。


死ぬほど痛い。

ふざけるな。

産みの痛みとはよく言うが、産まれの痛みなんて知りもしなかった。

痛い。痛い。

やめろ。やめろ。やめろ。


痛くて痛くて(たま)らないのに、声は出ない。

母親の苦しむ声が、骨を通して響いて来るが、知ったこっちゃない。

絶対に、俺の方が痛い。


痛い。痛いから。

ホント、もう勘弁してくれ。

もう無理だ。


押しつぶされそうな痛みに意識を奪われそうになった時。

唐突に眩しい光が俺の瞼を焼いた。


殊更(ことさら)眩しい光に、余計に苛立ちが募る。

それはもう、叫びまくってやった。

窓ガラスとか割れるんじゃないかという勢いで泣き叫んだ。

大人とか子供とか、そんなんどうだっていい。こんな痛みに耐えられる人間がいてたまるか。

苛立ちに任せて、それはもう泣き叫びまくった。

気付いたら誰かに抱きかかえられて、布で乱雑に拭かれていた。

その間も、手足をバタつかせて暴れ回ったし、耳がキーンとなるであろうほど泣き叫んだ。

だが、手足は全くバタつけなかったし、抱きかかえた誰かは微笑ましく、元気な男の子ですよとか何とか言ってた。


「信じられないほどの魔力量ですね」


どこかで、驚いたような声が聞こえたけど、無視だ無視。


でも、俺を抱きかかえていた誰かの手から、母親の胸の上に置かれると、途端に不思議と気持ちが安らいだ。

痛くて、苦しくて、辛くて、ムカついていたのが嘘のよう。

心の底から湧き出る幸福感に、俺は考えることをやめた。ここにずっといたい。


「血が止まりません!」

「このままでは――」


産まれて初めて感じた幸せにどっぷりと浸っていたのに、切迫(せっぱく)した声が、俺の意識を現実へと引き戻した。


母親の出血が止まらないらしい。


「早く治癒を!」

「治癒魔法が効きません。」


父親の慌てた声、知らない男の焦った声。

なぜだとか、もう一度だとか、みんながみんな焦って怒鳴り合っている。

その声につられるように、ものすごい恐怖が俺の心を満たしていく。

「リル、リル……!」と、情けなく母親に縋るように呼び掛ける父親の声に、落ち着いていた俺の心も波のように揺れ始め、泣きたくないのに泣き始めてしまった。


そんな混沌(こんとん)の中で、母親は辛そうに息を切らしながらも、俺をそっと撫でてくれた。

――私の可愛い子。産まれてきてくれてありがとう。愛しているわ。

声になっては聞こえなくても、俺を優しく撫でる手から、圧倒的な慈愛が伝わってくる。


いっぱいいっぱいだった俺の心に、わずかな余裕が戻ってくる。

母親に抱かれる安心感と、母親を失うかも知れない恐怖と、グチャグチャの感情になりながらも、俺は母親に向けて、持てる限りの目一杯の力を向けた。

俺も愛しているよ。大好きだよ。産んでくれてありがとう。だから、もうしばらく側に居てくれ。死なないで。俺を置いて行かないで。


「傷が、治っていきます……!」

「この治癒魔法は、私のものではありません!」

「もしかして、この魔力は……」

「まさか、産まれたばかりだぞ。」


まるで何事も無かったかのようにみるみる出血が治まり、部屋にいる誰もが息を呑んだ。

母親は、変わらず胸の中の赤ん坊を、愛おしそうに優しく撫で続けた。


「ありがとう。私の愛しい子。私の愛しい――ルイーナ」


ん? あれ?

そういえば、俺の性別はどっちだ?


ちょっとした疑問を抱きながら、母親の胸に抱かれた俺は、心地よい眠りについた。

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