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うむ。なるほど。  作者: たなかそう


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第三話

そんな日が何日も続いたある日、俺は気が付いた。

今までは、本当の意味で「音が聞こえていた」わけではなかったのだと。

それまではただ振動を感じていただけで、聴覚として認識してはいなかったのだ。

ザーザーも、ドッカンドッカンも、ゴクゴクもボコボコも、今までの比ではない鮮明さで知覚(ちかく)し始めた。外の声も、これまで以上にハッキリ聞こえだした。


周囲が話す言葉は、大体の意味ならすぐに理解できた。

まぁ、妊婦のお腹に話しかける言葉なんて、全国どころか、全異世界でも同じだろう。

前世の語学学習の成果が、早くもここで実を結んだか。


「スゲェ~!」と興奮した拍子に、何度か母親の腹を思い切り殴ってしまったが、まあそこは赤ん坊のご愛嬌というやつだ。

そんな俺の足の形が外から見えて驚いたのか、父親が母親のお腹を嬉しそうに眺めはじめた。


「小さい足が見えてる!めちゃくちゃ可愛すぎるんだけど」

「ホント、可愛い足だわ。やんちゃな子。」


なんて、ほのぼのした会話が聞こえる。

まぁ、多分こんな感じの会話っていうだけで、定かではないが。

俺もちょっと調子に乗って、グイグイ足を押し付けたりして楽しんだ。

だが、その後が大変だった。興奮しすぎたせいか、俺はしゃっくりをし始めてしまったのだ。


「あら。なんだかすごい楽しそうに暴れてるわ。」


母親の呑気(のんき)な声を聴きながら、俺は非常に驚いていた。

赤ん坊って胎内でもしゃっくりするんか?!と。

さらに、驚いた拍子に、今度は目も開いた。

今までは光だけを感じていた瞼だが、動くと思っていなかったので、突然世界が開いて唖然(あぜん)とした。


先入観ほど怖いものはない。

徐々に成長しているにもかかわらず、最初にできなかった事を、できないままだと思い込んでいたのだ。

手も足も自由に動くし、もう母の腹にもしっかり届く。外の音を聞き分けることもできれば、目を開くこともできる。口も開くし、自分の指を舐めることだってできるではないか。

やってみないと気付かないことってあるよな。


なんで指を舐めてみたかって?

いや、赤ん坊ってよく指をくわえているイメージだったから、試しにやってみたんだが。

これまた驚いた。

これ、めちゃくちゃ気持ちいいやんけ。


これはもしや、足の指とかも舐められるのでは?

別に舐めたい訳じゃないけど、赤ん坊って足掴んでる格好を良くするから、きっと出来ると思うんだよ。

まだ、しっかり見える訳じゃないから、何となくの手探りで足を掴もうとすると、臍の緒が首に絡みかけた。

やばいやばい。流石に、俺もまだ絡まった紐を取るとかいう繊細な動きは出来そうにない。

暴れるのも程々にせねば。



外から聞こえて来る感じでは、父親は母親を溺愛しているようだ。

毎日のように腹を撫でて、俺と母親に愛を語りかけてくる。

割と忙しい様で、常に話しかけてくるわけではない。が、夜だけという訳でも無い様で、光の感じで昼かなという時間帯にもちょこっと話しかけに来たりしている。

在宅リモート的な感じなのだろうか。


ある夜、ゆらゆらと気持ち良く揺蕩(たゆた)っていたら、父親が母親にいつも以上にベタベタとし始めた。

安定してると医者も言っていたからとか何とか言って、イヤンなことを始めるではないか。

何という不届(ふとど)きものか。

けしからんので、ピリッと静電気のような魔力を放ってやった。

即行で撤退していった奴は、お腹のこちら側に向かって平謝りしていた。


それからは父親も大人しくなり、甲斐甲斐しく母親の世話を焼いていた。

俺も鬼ではない。

ちょこちょこ内側から母の腹を押してみたり、足の形を外へ浮き出させてみたりして遊んでやった。母親も父親も、たまに聞こえる祖父母らしき声も、そのたびに大喜びだ。



充実した毎日のなかで、俺は周りの水を飲むと吐いてしまうようになった。

頭も下を向いて固定されていて、ちょっと気持ちが悪い。母親がゆったり座ったり、寝転んだりしてくれると非常に楽なのだが、たくさん歩かれると吐き気が増す。


しかも、頭が母親の骨盤か何かに当たるようで、ゴッゴッと痛いではないか。

この世界の医療がどれだけ進んでいるか分からない以上、逆子(さかご)になると出産が不安なので、反対向きたいという気持ちを押し殺して、気持ち悪さに耐えるしかなかった。

俺は、何故か自分に治癒魔法をかけられなかったので、ただ耐えるしかなかった。


でも、多分この「吐く」という感覚こそが、生まれてすぐに肺呼吸へ移行するために必要なステップなのだと思うから、我慢するしかない。


知らんけど。

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