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一章 ~七年前 王太子との約束~(7) 星空の思い出をお土産に

 突然のフィーネの謝罪に対して、アウィルドは静かに首を横に振った。

「フィーネ殿、謝らなければならないのはわたしのほうだ。昼間は頭ごなしに叱りつけてすまなかった」

「アウィルドさまは悪くありません。全部私が悪かったのです」

「いいや、それは違う。ガイズが急用でそなたとの約束を違えねばならなくなった原因はわたしにあったのだ」

「え?」

「そなたは明日の明け方には故郷に向けて出立する予定だろう? だからそなたに会いたくてこっそり王宮を抜け出そうと企んでいたのだが、さすがに王太子になったばかりのわたしが毎日のように王宮から脱走するのも外聞が悪いから、とガイズに止められてしまった。だから、ユリフェ邸で課外授業を受けるという名目にしてガイズに迎えにきてもらう約束をしていたのだが……ガイズは通りすがりの国王陛下から唐突に今夜が期限の仕事を押し付けられてしまったのだ。そなたら父子が外出の約束をしていたことなど知らなかったとはいえ、余計なことをしてしまい、申し訳なかった」

「国王陛下からのご命令では仕方ありませんね。父上にも事情があったのですね」

「ああ。結局あいつは泣く泣く王宮に戻るはめになってしまったがそなたを邪険に思っているわけではないからな。だから、ガイズのことは怒らないでくれると嬉しい」

 アウィルドは父を擁護しているが、フィーネは内心で無理な物は無理だと腹立たしく思っていた。約束が反故になった理由は仕方ないが、ガイズは娘との大事な約束を事前にアウィルドに伝えてはいなかったという落ち度がある。だが、フィーネの怒りはあくまでも子供の我が儘にすぎず、それを父本人ではなく目の前の彼にぶつけても彼を困らせてしまうだけなので不承不承ではあるがひとまず頷いた。

 アウィルドはほっとした様子で表情を弛めてありがとう、と頭を下げた。

「ですがアウィルドさまはどうして私を海に連れてきてくださったのですか?」

「謝罪というのか埋め合わせでもないが……そなたはまだウーザン湾の星を見たことがなかっただろう? 王都で過ごした日々のせめてもの土産にこの星空の思い出を故郷に持ち帰ってほしかったというのだろうか……」

「アウィルドさま……」

 彼の笑みを見ていると胸の奥が温かくなる。彼はなんと優しい人なのだろう。この一ヶ月間、フィーネは今まで経験したことがなかった楽しいことをたくさん知ることができた。故郷では祖父の命令で邸の敷地から出ることは許されず、夜明真珠(やめいしんじゅ)の加工を行う季節になれば地下室に閉じ込められて幽閉に似た暮らしを強いられてきた。フィーネが邸の外に出て王都に来ることができたのは、立太子の儀の祝いとして国王リルダムが特別に参列者たる諸侯の十二歳以下の全ての子女をもれなく招待してくれたからなのであるが、それは実質的には命令のようなものであったため、祖父もフィーネを邪険にすることができなかったのだ。祖父はエレス領にいた時と同様に王都のユリフェ邸でもフィーネを地下牢に閉じこめようとしたのだが、なぜか毎日アウィルドがフィーネに会いに来てしまい調子を崩されたようだった。居留守を使おうにも彼には鳥と会話できる能力があるため嘘偽りが通じなかったため、致し方なく会うことを許したのだった。

 アウィルドは馬の乗り方や、竹蜻蛉や風車の作り方などの工作や、楽器の演奏方法や、時には街から知り合いの子供たちを引き連れてきて鬼ごっこや木登りなど子供らしい遊びを教えてくれた。彼が訪ねてくるようになってからはまるでフィーネがエレスの邸で暮らすようになってから失われた三年間を補うように常に楽しく、新しい発見や学びがあり、とても充実した日々だった。だが、一介の田舎領主の姪に対して王太子がそこまでしてくれる理由が皆目見当がつかないのも事実であった。

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