一章 ~七年前 王太子との約束~(5) フィーネの謝罪
フィーネは拗ねた風を装いながら、こっそりアウィルドを横目で見た。彼は静かに空を見上げていた。
ざざ、と少し強い波がフィーネのつま先を濡らした。
「案ずるな。わたしはまだ立派な大男になれると決まったわけではない。なりたいと思っても最終的な背丈がどれくらいになるかは、神のみぞ知るところだ。もしかするとフィーネ殿の方が大きくなるかもしれないぞ」
「ありがとうございます。努力はするつもりです。けれどもそれはただの無駄骨に終わる未来しか見えなかったりもするのです。アウィルドさまは私の父や伯父をはじめとしたユリフェ家一門の平均的な背丈をご存じでしょう? 私の将来は真っ暗ですとも」
「ならば、もし仮にわたしが大男になったらフィーネ殿が魚にならずとも済むように気をつけよう。そして、そなたが高いところを見たいと思った時にはいつでも肩を貸そう」
「そんな、気を使わなくても……」
「気なんか使うつもりはないとも。もし大男になれれば広い世界が見られる。大男になれなかったらわたしはそなたと近しい高さから世界を見られる。もしフィーネ殿の方が背が高くなったならわたしはいつでも空を見ることができる。いずれにしても楽しそうでいいじゃないか」
「アウィルドさまは何事も前向きでよろしいことで」
「それが取り柄だからな」
彼の得意げな横顔を見やり、フィーネは顔を曇らせた。せっかくの楽しい雰囲気に水を差すようではあるが、フィーネはどうしても彼に謝らなければならないことがある。少し怖いが、言わなければ自分の中の正義が許してくれない、と腹を括って彼に向き直った。
「……アウィルドさま。私は……」
どうしたのだろうか、声が出ない。緊張なのか身体が言うことを拒んでいるのか喉が詰まってフィーネは二、三度咳をして喉の支えを追い出した。
「フィーネ殿? 突然改まってどうしたのだ?」
「……っ、アウィルドリーシャ王太子殿下! 私はまだ、今日のお礼をちゃんと言えていませんでした。昼間は私を助けに来てくださり、ありがとうございました。そして、ごめんなさい。その上、こうして海に連れてきてくださって……本当になんとお礼を申し上げたらよいのかわかりませんが、とにかく申し訳ございませんでした!!」
「フィーネ殿!?」
顔が腹にくっつかんという勢いで頭を下げたフィーネに対して、アウィルドは困惑した表情で硬直した。




