四章 不思議な少女 (7) 化け化けお化けの大宴会
ラキアとの朝の諍いもあり、もやもやした気持ちを抱いたままフィーネはノルンと共に王宮内でアウィルドの情報を集めていた。
本当はヒレナと一緒にラキアを尾行しようと企んでいたのだが、早朝にセイファンから聞かされた白金の簪の件が気掛かりでそういう気分にはなれず、さらにラキアがさっさと朝食を食べ終えて席を辞してしまったため、完全に出遅れてしまったのだ。
昼も近くなり、フィーネは少し早いが一旦、昼食のために緑水舎に戻った。フィーネに与えられた部屋は、誰かと会話をしたり昼食を食べたりする日常的に過ごす部屋と、奥の寝室が隣り合っている。他にヒレナをはじめとした侍女や女官が雑務を行ったり休むための部屋も接しており、まだ白鴎宮に来て日は浅いが、彼女達と一緒に過ごすことがとても楽しみになっていた。
フィーネが自室に戻ると、奥の寝室から少し賑やかな音が聞こえた。そっと戸口を開けて中を覗くと、トムカとサラーとルラが掃除をしていた。彼女達は花瓶の花を交換したり寝台の下を丁寧に箒で掃いたり、きびきびと働いていた。その中の一人――十七歳のルラ・ドヌープがフィーネに気づくとつぶらで愛嬌のある目を見開きながら駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ! ファーシャ様、ばたついていて申し訳ございません!」
「いえ、気にしないでください。それよりルラ殿、かなり大変そうですが私もお手伝いしましょうか?」
「いいえ。大丈夫です。ファーシャ様には大事な使命がございますから」
「大事な使命、と言われるとちょっと大げさなような気もするのですが……」
「いいえ! 馬鹿祭りのファムはとても大変なお勤めです! 昨年のヘーシャ・ブムや、一昨年のガルディ・ポウもかなり苦労したとうかがっております」
「ルラ殿は過去のファムと知り合いなのですか?」
「会計官のポウ殿は直接の面識はございませんが、ヘーシャは洗濯場で働く下女で、洗濯物のやり取りをするうちに知り合いになった友人なのです」
「そうだったのですね……」
自然と語尾が小さくなるような気がしたが仕方ない。
今朝のことを思い返すとますます弱気になる。ラキアの雑言を思い出すと気分が落ち込みそうになる。さらに、午前中もノルンはほとんど会話をしてくれなかった。今日も監督役であるはずのラキアはフィーネを無視して何処かへ行ってしまうし、馬鹿祭りのファムらしいことを何一つとして出来ていない自身の不甲斐なさに嫌気がさしているのも事実だ。
昨年と一昨年の馬鹿祭りの時のアウィルドがどうだったのかということと、ファムとしてどう振る舞えば良いのか、過去のファムを務めた人物から何か良い助言を貰うことが出来ないだろうか。
あれやこれやと考えに耽っていると、ルラが背の低いフィーネのために膝を折って目線を合わせて問いかけてくれた。
「ファーシャ様、何か悩み事がございますか?」
「え?」
「よろしければ、私どもにご相談くださいませ。これでも、わたくしとサラーとトムカはファーシャ様付きの女官を拝命するまでは国王陛下付きの女官でございましたから、色々とお役に立てるのではないかと思っております。ちなみにわたくしは他の二人やヒレナ殿よりも年下なうえ、優秀ではございませんが、顔だけは利くと自負しておりますので、会いたい人がいる時や、何かしらの仲裁が必要な時や、予定の調整が必要な時はぜひとも頼ってくださいませ!」
あとは、盤上遊戯が得意ですからいつでもお相手になれますよ! と彼女は胸を張った。彼女は底抜けに明るい性格の持ち主だった。なおかつ、裏表がない。野次馬根性の持ち主であることと、少しだけ口が軽いところが玉に瑕だとトムカとサラーが話してくれたが、とても優しくて愛らしい人だった。
「それならさっそくだけどお言葉に甘えさせてもらおうかな」
「勿論でございます! ちゃんとお役に立てるよう頑張ります! では、ファーシャ様、ひとまず先にあちらでゆったりおくつろぎくださいませ」
彼女は右手で丁寧に円卓を示し、ちょっとお待ちを、と寝室で掃除をする二人に挨拶をすると戻ってきた。
「さて、ファーシャ様? どのようなことをお話しいたしましょうか?」
「ええと、ルラ殿から見て、陛下はどのような方だと思いますか?」
ルラは癖の強い前髪の下から覗く太い眉を上下に動かしてから笑った。
「そういえばファーシャ様はまだ、陛下にお会いされたことがないのですよね」
フィーネが頷くと彼女は信じられない、とでも言いたげな眼差しをフィーネに向けた。
「申し訳ありません。ただ、陛下は王宮で働くことになった人には、たとえどんな末端の者であっても、何かしらの形で、必ず一度はお会いになると決めておられるようです。今現在、陛下のお顔をご存知ないのはこの白鴎宮ではおそらく、ファーシャ様くらいかもしれませんね」
「陛下付きの女官だったということは、あなたも陛下のお顔をよく知っているんですよね?」
変な質問になってしまった、と反省するも、彼女は嫌な顔一つせず柔らかな笑みで答えた。
「はい。よく存じております。ですが、馬鹿祭りの間は絶対にファムであるファーシャ様にはお伝えしてはならない決まりになっているので申し訳ありませんが、お教えすることはできません」
「それってつまり、私の知っている人ということ?」
「お……お答えできません!」
彼女は困惑した様子で視線をそわそわさせた。
「ごめんなさい。そんなに困らせるつもりはなかったんです」
「とんでもありません! ただ、わたくしから見て陛下は……とても素敵な御方だと思います。わたくしが初めてあの方にお会いしたのは三年前ですが、困っている人がいると、すぐに手助けしてしまうところが陛下らしいと申しましょうか。あの方はこれまで、様々な苦労をなさったためか、誰に対してもとてもお優しいのです。話し方は王族の方らしく威厳がおありなのですが、あまり気取ったところがなく、わたくしのような下々の者にも、分け隔てなく親切にしてくださります。時々、庶民じみたところもあって驚かされることもありますが、わたくしにとって理想の王様です」
彼女は花をほころばせるように目を細めた。
「ひとつ思い出しましたが、鷦鷯宮への渡り廊下や、中庭で咲いているお花は、陛下が丹精込めて育てておられるものなのです。今なら槿の花がきれいかと思われますよ。お時間がある時に行ってご覧になられてみてはいかがでしょうか? もしかしたら、陛下にお会いできるかもしれませんよ」
「ありがとう、ルラ殿!」
フィーネはルラの両手を握って礼を言った。彼女はとても驚き、つぶらな目をさらに丸くしていたが、フィーネと目が合うと淡い笑みを浮かべた。
彼女の情報はとても有益だった。花の話は以前も料理長から聞いていたが、王宮の皆の知るところなのだろう。
さっそく午睡の時間にでも行ってみよう。フィーネはノルンに頼んでみなければ、と胸を躍らせた。
しかし、その目論みはいとも簡単に退けられた。
午睡の時間に鷦鷯宮に花を見に行きたい、というフィーネの頼みは「いけません」というノルンの一言で突っぱねられた。
「どうしてですか?」
その問いに彼は忌々しげに顔をしかめた。しかも、こちらを軽蔑しているような目すら浮かべている。
「あなたは、午睡の時間がなぜあるのかご存じないのですか?」
「昼間の酷暑から命を守るためということは理解しております。ですが、毎日四時間も昼寝なんてしている場合ではないと思うのです。こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎています。私に与えられた時間はたったの十五日、あと十二日しかないのです。それなのに、あなたは四十八時間、いえ、丸二日の時間を無駄に費やせと仰るのですか」
大袈裟だが、今はほんの瞬きをする時間ですら惜しいと思えるのだ。
「無駄にするかしないかはあなた次第です。ですが、ここで無理をして倒れられたりなどしたら、それこそ無駄な時間となってしまうでしょう」
それに、とノルンは言い含んだ。
「あなたが花の世話をするならば、いつ水やりをなさりますか」
「……気温が上がる前の早朝を主として、あとは土が乾いてきたときに少しあげる感じでしょうか」
「その通りです。こんな真昼間の暑い盛りにすれば、水やり程度の量の水などすぐに熱せられて花の根が煮えてしまいます。つまり、いま、中庭に行っても陛下にお会いすることはできません」
彼はそこで一旦区切るとそのまま続けた。
「それに、わたしだって本当のことを言えば、あなたには午睡などせずに、陛下を探していただきたい。ですが、その陛下が御自らあなたに必ず午睡をとらせるように命じられたのです」
「陛下が?」
「はい。北部出身者は勤勉で昼間も休むことなく働くそうですが、南部の暮らし方はそうではないのです。ですから、王都でそんなことをされては身を壊してしまいますよ」
顔合わせの時や普段の態度とは異なり、料理の香辛料の件といい、午睡のことといい、アウィルドが少なからず自分のことを心配してくれていることを知り、フィーネは嬉しくなった。しかし、手放しで喜ぶこともできない。何故だかわからないが一抹の不安が頭をよぎった。ノルンはフィーネを従わせるための一種の人質のようなものではないのだろうか。ここでフィーネが勝手な行動をしてノルンが咎を受けるような事態は好ましくない。
「もし、私が午睡をとらないで王宮内を動き続けた場合、ノルン様がなにかお咎めを受けたりすることはありますか」
「……なぜ、そのようなことをお尋ねになるのですか?」
「いえ、もしそうなら、私はおとなしく従わなければならないと思ったからです」
彼の一重の切れ長の瞳には、険のある光が浮かんでいた。
「あなたに心配される筋合いはございません。それよりも、ご自分の心配をなさってください」
「わかりました。ですが、私が思うに、南部の方々の暮らし方を心得ていれば、必ずしも午睡をとる必要はないのですよね」
「……どういう意味ですか?」
「だって、午睡の時間、とは言ってもみなさんあまり眠っていらっしゃらないじゃないですか。聞いた話では、自分の好きなように時間を使って歌を歌ったり、庭でお喋りを楽しんだりしていいと……」
「そういうのは王都の暮らしに慣れてからになさってください。いいですか。あなたは午睡を軽んじておられる。それで体調を崩されると我々が困るのです」
険悪な雰囲気で言い合う二人だったが、そこにたまたまディムを伴ったセイファンが通りかかり、声を掛けてきた。
「おや、二人ともこのようなところで何を言い争っておられるのですか」
「セイファン様?」
フィーネが呆然としながら彼の名を呟いている間にノルンはさっと一礼した。
「今し方、大声で言い争っている声が聞こえましたが、何があったのですか?」
事情を説明しようとフィーネが口を開いたが、それを遮るようにノルンが状況を簡潔に説明してしまった。
セイファンは一言ノルンに礼を述べると、小さくため息をついた。
「ファーシャ様は午睡の時間がお気に召しませんか?」
「気に入るかどうか、というわけではないのです。ただ、時間を無駄にしたくないだけです」
フィーネの主張を聞いてセイファンはそうですか、と難しい顔で頷いた。
「……ファーシャ様、お気持ちはたいへん嬉しいのですが、どうか午睡をなさってください。その昔、午睡の習慣は王宮にはありませんでしたが、ある年の暑季に、異常な暑さのために暍病による病人や死者が相次いで出てしまったのです。今の時期はだいぶ暑さもおさまってきていますが、もしもあなたが国王や医師だったとしたら、王宮内の者を昼の一番暑い時間に働かせることができますか?」
フィーネは首を横に振った。暍病はときに死に至る。決して甘く見てはならない病だ。
「人にさせられないことなのに、それをご自分はなさるおつもりですか?」
「セイファン様っ、私はただ、午睡の時間を利用して少し自由に散策をしたかっただけなのです。午睡そのものの効能を否定するつもりはございませんし、暍病には気をつけます。無理をして体調を崩すような真似はいたしません。ですから――」
どうか許してほしいとフィーネが訴えたその瞬間、新たな声が割り込んできた。
「つべこべ言わずにあんたは寝ろ」
唐突に背後から飛んできたラキアの声に驚き、一同は声のしたほうに目を向けた。
中庭の茂みの前で腕組みをしながらこちらを睨むラキアは苛立ちを露わにしていた。彼の足下には柄杓の入った桶が置いてあった。
「おや、殿下。何故ここに? 逢い引きはどうなったのです?」
セイファンの問いにあからさまに不快感を露わにしてラキアは舌打ちした。
「次の水まき場所に行く途中でたまたま通りかかったんだよ。そしたらあんたらが小難しい顔をしてるから、まーたなにか悪巧みでもしてるかと思って盗み聞きさせてもらった。そしたらなんだよ、昼寝をするしねえで喧嘩とは、ずいぶんくだらねえ話じゃねえか」
「盗み聞きとは、あまり良い趣味とはいえませんね」
「兄貴には言われたくはねえよ。斥候なんて使って四六時中おれを見張ってるくせに」
彼は忌々しげに毒づくと、ずかずかと大股でこちらに歩み寄ってきた。フィーネと一歩ほど距離を置いた場所で足を止めると、膝を折って目を合わせて口を開いた。
「あんたな、無駄なことはするもんじゃねえ。人生はもっとゆったりとおおらかに過ごすべきものだ。あんまり蟻のようにせかせか生きているとな、他の奴らより一生があーっという間に過ぎちまって早死にするぞ」
「私はべつに生き急いでいるわけじゃありません」
「いや、急いでるな。おれとの賭けに焦っている」
焦ってなどいない、という言葉が反射的に口から出そうになったが、堪えて無理やり飲み込んだ。
そうだ。フィーネは焦っている。十五日という短い期間でアウィルドに署名を書かせなければならないということは無意識のうちにフィーネの中に不安と焦燥を与えていた。それが出来なければアウィルドは死んでしまう。目の前の『彼』はフィーネから貴重な時間を奪おうとしている。
「あなたにとってはその方が都合がいいのでしょうね」
ラキアはにやり、と意地汚い笑みを浮かべた。
「もちろんだ。けど安心しろ。兄貴は午睡の時間には王宮から脱走するから、今捜しても骨折り損にしかならねえ。あと、あんたは事情を知らねえから仕方ねえが、あんまりノルンに手を焼かせるな。ただでさえ、寝不足気味なのに、かわいそうじゃねえか」
「え?」
彼の言葉の意味がわからず、思わず問い返したと同時にノルンが、けほ、と小さな咳をした。ラキアはノルンに近づくと、弟をあやす兄のようにノルンの頭をぽんぽんと軽く手のひらで叩いた。
「こいつな、近ごろ書庫の整理が忙しくて夜な夜な徹夜をしてまで働いているんだ。んで、あんたの護衛を務めたうえ、午睡の時間も働いている。あんたに偉そうなことを言ってるけど、こいつ自身が午睡を疎かにしてるんだ。だから、今日くらいはゆっくり眠らせてやれ」
「殿下、なにをおっしゃ――」
ノルンの問いはラキアの目配せを見て途中で切れた。
「聞いたぞ。おまえ、午睡をさぼって暑い中ずっと書庫の整理をしてくれていたらしいな」
「いえ。わたしはそのようなことは……」
抵抗するノルンをラキアは再び強い眼差しで制した。ノルンの声は尻すぼみになり、申し訳ございません、と小声で詫びて彼は俯いた。
「謝らなくていい。けど、おまえはもっと自分を大事にした方がいい。おまえが倒れたりしたら気が気ではない」
「殿下……」
「さてと、ファーシャ殿とノルン? 監督役として二人に命令だ。今日は二人とも午後は四時間きちんと寝ろ」
「しかし殿下、わたしは……」
なおも反駁しようとするノルンに対して彼はなにやら小声で耳打ちした。
「ですが……っ」
話の内容はフィーネには聞き取れなかったが、言い淀んだノルンの肩にラキアはそっと触れた。右頬を愉しげにつり上げて彼は不敵な笑みを浮かべながらこちらに視線を向けた。
「さて、と二人とも? おとなしくおれの言うことを聞かねえと、ディムとおれとで一人ずつ担いで歌いながら王宮じゅうを走り回ってから部屋に運ぶぞ。曲目はそうだな……化け化けお化けの大宴会なんてどうだ? 二、三日は王宮じゅうのいい笑いの種になるだろうなあ!」
わざとらしく高らかに宣言され、フィーネとノルンは身をこわばらせた。
「ちょっとラキアさま、本気であれをやるつもりなんですか!?」
「ディム、懐かしいとは思わねえか? 久々に楽しくなるぞ。ずいぶん前にサクルとルクイードにやって以来だろ? あの時みたいにこいつら二人に半べそかかせてやろう」
「そりゃ懐かしくはありますけど、それはちょっと……。ノルンはともかくファーシャさまは女君ですよ。あなたは鬼ですか?」
「ディム、こいつをその辺の女君とやらと一緒にすると痛い目見るぞ。馬を乗り回すわ弓矢を扱って化け物蜂を退治するわ、取っ組み合いの喧嘩で年上の悪ガキを大泣きさせたとか、とにかくやばいらしいぞ」
「どうしてそれをあなたが知ってるんですか!?」
アウィルドには絶対に知られたくなかった黒歴史をなぜか知られている。話したのは一体誰なのだ。
「んなことどうでもいいだろ。それよりあんたはこれからの自分を心配することだな」
フィーネは頭を抱えた。化け化けお化けの大宴会という曲は夜になかなか眠らない腕白な子供を窘めるための歌だ。時には歌いながら子供を担いで村中を走り回り、さらし者同然にする。つまり、それを歌われるということは、フィーネたちが悪童だと皆に高らかに宣言されるようなものだ。
大人にもなってそんな見せしめのような恥ずかしい仕打ちはごめんだ。特に、ディムになら担がれても構わないが、ラキアだけは絶対に嫌だ、とフィーネは敵意を露わにして睨みつけた。
「……かしこまりました。仰せに従います」
「わかりゃいいんだよ。で、ノルンはどうする?」
「承知いたしました。お心遣いに感謝いたします」
そうか、とラキアは満足そうに頷いた。
「なら良かった。気象官の見立てによると、この後はちょっとした雷雨があって涼しくなるらしい。良い機会だからゆっくり休むといいぜ。あとさ、余計なお世話だとは思うけどお前たち、寝ないと大きくならねえぞ」
「余計なお世話です!」
「わたしはまだ伸び盛りです!」
フィーネとノルンが同時に怒鳴り返すと、ラキアは軽く笑っていなした。
「二人ともそれだけ元気なら大丈夫そうだな」
ラキアはげらげらと大声で下品な笑い声を立てながらさっさとその場を後にしてしまった。
フィーネはセイファン達に向き直って頭を深々と下げた。
「ノルン様、セイファン様、申し訳ありませんでした」
「いいえ。あなたが陛下を案じてくださる気持ちはとても嬉しく思いました。どうぞ、ごゆっくりなさってください」
セイファンは会釈するとディムとともに去っていった。
ノルンは無言で不機嫌そうにこちらを見るだけだった。それもそのはずだ。彼は仕事が溜まっていたので午睡の時間を利用して少しでも片付けをしたかったのだろうに、フィーネのせいでラキアから午睡を命じられて従わなければならなくなってしまったからだ。だが、恨まれても困る。
こうして二人の言い争いは終結した。
次回は4章のタイトルにある『不思議な少女』が登場します。




