四章 不思議な少女 (1) 聞き込み
今回から四章です。
よろしくお願いいたします。
朝食を終えるとフィーネはノルンを伴い、王宮内を歩き回って国王の手がかりを求めた。
――とは言っても、フィーネは国王の居所をすでに知っていた。第三王子スヴァロン・ラウルガル・タイトこと、ラキアだ。
馬鹿祭りの宴の前に顔合わせをした時に、彼はフィーネに向けて、わざとぼろを出すような発言をしたし、昨日はセイファンとヒレナに訊ねてみたが、二人とも肯定も否定しなかった。さらに、ラキアはフィーネが医者であることを知っていた。
決定的な証拠はまだ見つけられていないが、彼はアウィルド本人で間違いないと、フィーネは確信していた。
しかし、その事実がフィーネの前に大きな障壁として立ちはだかった。セイファンが挑んだ賭けの勝利条件は、国王から直筆の署名を任命書に書いてもらうことだ。だが、彼は絶対に書くはずがない。何故ならラキアは、国王を殺すと宣言していたからだ。
自分で自分を殺すだなんて奇妙な話だ。だが、ラキアとしてフィーネを脅していた時の彼の目は本気だった。セイファンによればすでに少なくとも百十七回は本当に自害を試みたことは事実らしい。理由はわからないが、考えれば考えるほどアウィルドが気の毒で涙が出てきそうになる。フィーネはつんとした涙をこらえようと、鼻の奥に無理矢理吸い込んだ。
セイファンが昨日、星見の間で語ってくれた話から察するに、アウィルドリーシャは実の父を殺めたことを後悔しており、また、風の力をうまく扱えないことを気に病んでいるという。さらに、新王の証として天の主神から与えられた御霊うつしの剣も、刃を持たず、その能力すら明らかになっていない。
様々な要因が重なった結果として、彼は心を病んで自傷行為を繰り返しているのだろうか。
――そんなに困っているなら一言くらい相談してくれても良かったではないか。
フィーネは何も教えてくれなかった彼に対して少し恨めしくなった。
だが、彼の奇行の原因が本当に今し方フィーネが推測した理由で正しいかどうかの判断はまだ出来ない。
さらに、王宮入りした時のレリファ=シシカが言ったアウィルドの正体を見破っても絶対に彼の前で本名を呼んではならないと奇妙な命令も腑に落ちなかった。
悶々と何もしないで考えていても仕方ない。
今のフィーネは偽者ではあるがこの国の『片翼候補』であり、馬鹿祭りの『ファム』という地位にいる。ならば、とりあえずのところは、この役目を利用して少しでも彼に対する知識や情報を集めることが先だと考え、今日は王宮の様々な人から話を聞いてみることにした。
それからフィーネは挨拶をかねて城内で働く者に声をかけ、国王の容姿や人柄などの特徴や、王宮内の噂や、何か変わったことはないのかなどを質問した。
自分と違って彼らにはそれぞれの仕事があるため、なるべく仕事の邪魔をしないように手短にしたいのだが、これがなかなか難しい。また、片翼という身分は国王に次いで偉い立場であるというのは便利なもので、職種や身分を問わずに一通り尋ねても、誰一人として嫌な顔をせずに答えてくれた。
ただ――とフィーネは背後に刺さる視線にため息をついた。
ノルン・フェーテスはただ無言でついてきた。彼はとても寡黙だった。こちらから話しかけてみても、ほとんど返事をしてくれず、鋭い眼光を向けてくるばかりだ。初対面の時から薄々感じてはいたが、おそらく自分は彼から快く思われていないだろうとフィーネは感じていた。自分を嫌う人間と余計な会話をしなくて済むのは楽だが、しくしくと胸の奥で悲しんだ。




