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三章 白鴎の宮(14) セイファンってもしかして……?

「――あれはまだわたくしがリュシーリアスであった頃のことです。星見の乱の後、誰が王位を継承するのか、ということで我々は少々揉めました。アウィルド様は、廃太子の身でありながら王位を継ぐことはできない。むしろ、王殺しの罪により死罪となるのが適当であると固辞なさり、スヴァロン様は自分のような素行不良な人物では不適格だとこちらも辞退なさりました。第四王子以降はまだ国王はおろか王太子となるにも幼すぎました。残ったのは第二王子のわたくしでしたが、わたくしの生母は平民上がりの妃だったので元々王位継承権を持っておりませんでした。皆はアウィルド様かわたくしのどちらかを王にと望んでくださりましたが、わたくしは兄を国王とすべく、早々に王籍を棄てて、皆に王位を継ぐべき人物が誰であるべきなのかを説いて回りました。

 その甲斐あってか、皆は意志をひとつに固め、アウィルド様にご即位を願い出ました。皆の切なる願いを知ったにも関わらず、それでもなお、彼は死を賜ろうとなさりました。その後ろ向きな姿勢が許せず、わたくしは彼を捕縛し、東の塔に十日ほど幽閉することにしたのです」

「そんな手荒な真似が許されるのですか?」

「ええ。……手荒と言えば手荒でしたね。包み隠さず白状するなら、窓のない塔の最上階の、座敷牢ですらない粗末な牢屋に閉じ込めましたね。手錠と足枷と首輪をつけて鎖で縛り上げた上に御髪の一房一房を戸板に打ち付けた釘に念入りに巻き付けるという方法で拘束までしましたか」

「ちょっと、どころではなくやり過ぎではありませんか。陛下が可哀想です」

「そうでもしないと逃亡されるおそれがあったのであの対応は致し方なかったのです。どこで覚えてきたのか知りませんが、あの方は錠前外しなど朝飯前で脱獄の常習犯でしたから、案の定、我々の努力も虚しく彼はすぐに逃亡なさりました。ですが、半日もしないうちに戻ってきて王位を継承したいと仰ってくださりました」

「どうして気が変わられたのですか?」

「彼は王都の惨状を目の当たりにして考えを改めたそうです。ひとまず混乱を収拾させることを優先し、中継ぎのための仮の国王となり、事態が落ち着いてからこの問題は改めて考えることにしました。わたくしを宰相とし、国王の独断で政を行うことをやめて見張りのための各地域の代表を集めた議会を設けることを条件に彼は国王となってくださりました」

「ご無礼ながら、申しあげてもよろしいでしょうか。もう少し穏便なやり方は出来なかったのですか?」

「まったくもって仰る通りです。ですが、先にも話したとおり、兄は星見の乱以後、様々な後悔に苛まれ、心を痛めてしまわれました。彼をもう一度奮い立たせるためには、荒療治とはなりますが、あの方法が適切であろうと判断したのです」

「……なにがどうなってそのような判断に……」

「おかしな理由でありますが、根暗で頑固なあの方にとってはそれが最適解だったのですよ」

 フィーネは呆れて力なく笑った。もしかすると、柔和な雰囲気に包み隠されているが、セイファンはとんでもなく粗暴で荒くれ者かつ、冷酷で手段を選ばない男なのではないだろうか。

「冗談はさておき、これはとても深刻な問題です。陛下の力の暴走は、年々……いえ、この半年の間のうちは日毎に増しております。さらに近頃では原因不明の風害が起こるようになりました。先々月は四十三件、先月は六十八件。このまま風害がひどくなれば民は翼王に対する不信感をより一層(つの)らせることでしょう。そうなれば、再び国難が起こるかもしれません。過去百年を省みても、王位継承者争い、先王の暴走、近隣諸国との小競り合いなど幾度も争乱が起きました。仮に、次に何か起これば今度こそ、この国は滅びてしまうかもしれません。それだけはなんとしても阻止しなければならないのです」

「セイファン様、昨夜、鷦鷯宮(しょうりょうきゅう)のほうがなんだか騒がしかったようなのですが、陛下に何かあったのではありませんか?」

「ああ、お気づきになりましたか。ご心配おかけして申し訳ございません。実は、少し問題がありまして……」

「陛下の身に何かあったのですか?」

「いえ。そうではないのですが……」

 語尾を濁して視線をそらそうとする様子に疑念を抱き、フィーネは話してほしいと求めた。

「じつは、陛下と少々口論になったのです。秘密裏にあなたをお呼びしたことについて、彼はたいへんお怒りになりましてね。王宮は危険だからすぐにでも実家に帰すように、とふてくされてしまわれました」

「陛下がそのようなことを?」

「ええ。それはもう、レリファ=シシカとムヴァン殿とガイズ殿とともに、皆一同揃って物凄い説教を食らいました。それがまた、くどくどと長いときたらもう……。しかもその後の狼騒ぎ。おかげでわたくしどもは昨夜はあまり眠ることができませんでした。ひとつお聞きしたいのですが、あなたは陛下とはどのような間柄なのですか?」

「どのような、と訊かれましても、私は陛下のご友人の一人として仲良くさせていただいているだけで、これといって特別な関係ではありません」

「本当にそうなのですか?」

 それ以下でもそれ以上でもない。それは偽らざる真実だ。

「ですが、あなたは星鏡(ほしかがみ)をお持ちでしょう?」

「はい。そのことと何か関係があるのですか?」

「特に深い意味はございませんが……そうですね、何でもございません」

 妙な語尾の濁し方が気になってフィーネは服の内に隠した巾着袋に触れた。 首から提げて肌身離さず身につけているこの花柄の薄緑色の布袋の中には、アウィルドからもらった星鏡が入っている。今もしゃらん、と涼やかな音色が鳴った。


『フィーネどの、わたしは誓う。かならず、立派な王になり、このウルガを皆が笑い、健やかに暮らしていくことのできる楽土のような国にしてみせる』


 七年前の、まだ少年だった頃のアウィルドの声が脳裏に蘇る。フィーネがエレスに帰る前夜、降り注ぐような星の下、彼の決意とともに受け取った大切な宝物だ。



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