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撃墜女王と操り人形の王子  作者: 霧島まるは
操り人形の王子
14/14

シンデレラは王子様と一緒に馬車に乗る

「あんたらがパペットで、俺らに移送の依頼をしたのは、これで2回目ってことだな」


 アルバは、長い間プァンスに泣かれて、その音量で頭を痛めていた。泣いていた張本人は、いまは桃のタルトとやらで、ご機嫌そうだ。


「そーだよ…前も、途中でアルバが、パペットって知ったじゃない」


 山積みのタルトを、一個ずつ口の中に放り込んでいきながら、アルバの記憶にない話をしていく。


 大体、勝手に記憶をいじんなっつうの。


 いじられたにも関わらず、チナがうっすら覚えているのに、自分が綺麗さっぱり忘れている事実も腹立たしい。


「記憶はね……私達が消してもいいよって、ちゃんと同意したのよね」


 タルトをひとつ、アルバの前にも置きながら、チナが笑う。


「そ……そうだったか?」


 妻にまた心を読まれた気がして、アルバは顔をそらした。本当に、何も覚えていないのだ。


「『また、記憶を消してもいいから、オレたちを頼ってこいよ』って、あなた言ったじゃない」


 そんな、チナの声を聞いた時。


 あ。


 アルバの脳裏が、微かに点滅した。どこかで、聞いたことのある言葉に感じたのだ。


 これか。


 この感覚を、ずっとチナは感じていたのか。


 だが。


 それは、ある意味、何よりもすごい太鼓判だった。過去の自分が、彼らを気に入っていた、という。


 その言葉を頼って、彼らはもう一度アルバに依頼をしてきたのである。


 相手は、あの『パペット』だ。


 都市伝説のような、本当に存在するかどうか分からない、幽霊のような怖い噂。


 だが、宇宙を飛び回る仕事をしているアルバは、それがただの噂でないことには気づいていた。


 多方面から、パペットの話を聞くことができたからだ。その多重放送を形にした時──恐怖の人形が浮かび上がる。


 敵も味方も、素手で引き裂くパペット。


 誰も、こんな情緒不安定な小娘なんて、思ってもいない。


 相棒は、大男と言われていた。


 噂ほど大男には見えないが、戦場の姿に尾ひれがついたのか、はたまたそこでは大きく見えるのか。


 どちらにせよ、戦場まで付き合うわけじゃないアルバには、確かめようがなかったが。


「わかったわかった、パペットでも何でもいい…ちゃんと仕事は果たすぜ」


 アルバは、結局その結論を選択することとなった。


 過去の自分と、妻の目と──そのこまっしゃくれた小娘が、妻の料理を好きという言葉を信じて、だ。


 過去一度、彼らを移送したアルバは、きっちり今も生きている。


 本当に知られたくないと思ったのならば、記憶を操作するなんて回りくどいことをするより、さっさと殺してしまえばいいのに、だ。


 と、かっこよくアルバが、心の広い男っぷりをアピールしていたというのに。


「眠いか?」


 サンドの手が、プァンスの肩にかかっていた。


 彼女は、うつらうつらと船をこぎはじめているではないか。


 このアマ。


 肩すかしをくらって、アルバはグレかけたが──しかし、気が抜けてもいた。


 食って寝て泣いてわめいて。


 ただの小娘にしか見えないのに、世間では死の人形と呼ばれているのだ。


 尾ひれ、つきすぎだろ。


 アルバは、苦笑した。


 くったりした彼女を、サンドが抱き上げる。


 いつものように、寝室へ連れて行くのだろう。


「……」


 そんな、サンドの足が止まって。


 ゆっくりと振り返って、そのまだらの目に二人を映した。


「……彼女を、怖がったり哀れんだりしないでくれて……感謝する」


 礼を言う表情ではなかった。


 ただの、真顔。


 それでも、彼なりの感謝だということは、同じ男としてアルバには伝わった。


「んなこたぁ、どうでもいいから……ちったぁ夜は静かにしろよ」


 男に感謝されるなんて、こっぱずかしくて真正面から受け止められるものではない。アルバは、照れ隠しに夜のことをひやかしてやった。


 サンドが、ふと動きを止めた。


「食事中の彼女は……私にはどうにも出来ない」


 言い置くと。


 彼は、寝室へと消えて行った。


 へ?


 食事?


「食事っつったか、いま?」


 アルバは、唖然としながら側のチナに問いかける。


「サンドは、プァンスのご飯なんですって」


 うふふ。


 微笑む妻とは裏腹に、アルバの脳裏には「カニバリズム」なる、危険な単語が飛び交ったのだった。



 ※



 翌日、プァンスはまた、こぢんまりとした姿に戻っていた。


 髪も、だ。


「どうなってんだ?」


 パペットだと分かってはいても、珍しい現象にアルバは、その短い髪を指差す。


「あたしの内燃機関は、普通の人間のと違うの」


 ぷいっと横を向くが、プァンスの朝食の手は止まらない。


 蓄積機関だの、内燃機関だの──まるで、自分を機械のように話をする。しかし、機械はあんな成長をしたりはしないし、人間の食物は必要としない。


 まあいいか。


 どうせ考えたところで、正しい答えが見つかるはずなどないのだ。そして、正しい答えがいつもいいものであるとは限らない。アルバはそう結論づけた。


 それよりも。


「あぁ、そうだ……サンド」


 アルバは、彼に大事な話があった。妻と昨夜、話したことがあるのだ。


 まだらの視線だけが、ちらりと彼に向けられる。


「この仕事が終わっても、オレたちが生きてたら……」


 ちょうどチナが、厨房から次の食事を運んできたところだった。


「あんたらの、専属操縦士になってやってもいいぜ」


「専属シェフもつきますよ」


 くるりと、お皿を回すチナ。


 と、夫婦でカッコよく言ったというのに。


 サンドは無反応のままだし、プァンスはエーッという顔をしていた。


「ねぇ……アルバ」


 王子様が、少しいやそうにフォークを彼に向ける。


「なんだよ」


 てっきり喜ぶかと思ったのに、またもや肩すかしだ。彼らは、とにかくアルバを空回りさせないと気がすまないのか。


「そういうのを、何ていうか知ってる?」


 そのフォークを、ぷすっと次の食事に突き立てる。


「何が、だ」


 いらいらしながら、アルバは続きをせかす。


「そういうのを……死亡フラグっていうんだよ?」


 この仕事が、無事終わってから言ってよね。


 まったくもー、と。


 小娘は、ガツガツ食事を続行している。


「え……縁起の悪いこと、言うんじゃねぇぇ!」


 火を吹きながら怒鳴り散らすアルバを、チナがハイハイと微笑みながら諌める。


「でも……」


 吠えるアルバには、よく聞こえないほどの音量で、プァンスはこう続けていた。


「でも……考えといてやるわ」


 フォークを、くわえたままの──笑顔。



 だが。


 アルバの耳は、とてもとてもよかった。



『パペット 終』



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