Midnight→証拠隠メツ
9月は雨が多い。8月からずっと似たような天気が続き、お陰様で電気代はお安い。実際には明細も見ないし、ネットバンキングの通帳も大きな太字の残高しか見ない、正確には他は小さすぎて見えないから、最近の生活費は知らない。飲みに行けば年長者に近いので多めに出すし、128円のスナック菓子を“買い”と判断し、別の店で89円と書いてあると気が狂いそうになるくらい腹が立つ。
朝早く出勤し退勤の時間は午後の始まりくらいで、その日はプジョーのオイル交換の為、ディーラーに向かった。初めての外国車で、それも怪しげなフランス車だからもう少し高いと思っていたが、1万円ちょっとの費用で終えた。会社の携帯電話が雨で少し濡れていたがお構いなしに右ポケットに入れた。
口の周りがヒリヒリする。これは野菜不足だ。
こんな時は108円のミックス野菜と20%引きの名札のついた100g110円くらいの豚こま肉を買い、実績として100円以下の単価で購入した豚肉をフライパンに広げ、少し赤みが残るところでミックスを投入。あとはチューブの調味料を輪ゴム程度に雑に放り込み、この調理が終わるくらいに炊き上がるようにセットしていたクソ古い炊飯器からどんぶりにご飯をよそい、野菜炒めをその上に投下した。
驚くほど美味い。
この美味さは輪ゴムほどの調味料が成し得たサクセスストーリーで僕という色はない。
昔、小学校2年生の時に担任が月に1回、クラス会報みたいなものを丁寧な手書きで作っていたがタイトルが“10人10色“だった。当時はなんのことか分からなかったが、確実なのはこの野菜炒め丼には僕の色はない。
翌日は出勤と同時に会議室でこれまた月に1回の全体ミーティングだった。僕はキャリア組トップオブトップの役割なのでいつもは、1番前の席の真ん中に座り、偉い人が話している内容を、偉い人に伝わるように、後ろの席に座っている“意識低い系“の人たちにも伝わるように相槌を打っていたが、今回は気分が乗らず、1番後ろの席に座った。左隣にはありふれた名字のあまり知らない人が座り、その左隣には23歳の部下が座っていた。彼女が座った瞬間に僕はすぐに察知していた。
会議が終わり、席を立つとニタニタして近づいてくるのがわかった。
「“か“って何ですか?」
「は?」
「昨日、私の携帯メッセージに“か“って入れたじゃないですか?」
「ん?何なの?俺の携帯から“か”ってメッセージが届いた。そう言うこと?」
「そうですよ」
「もしかしたら携帯が雨でずぶ濡れで誤送信したのかもね」
「あーー、証拠隠滅ってやつですね?」
「隠滅?誤解だよ。誤解。」
俺は忙しいからと、突き放したようにその場を去った。
午後になった。
再び彼女と廊下ですれ違った。
僕の部下たちと彼女が最近少し揉めていることを直属の部下から聞いていたので、呼び止めた。
事情を聞けば聞くほど、彼女に同意できるものであった。
ただ他の同僚たちと育ちも頭の良さも違うのだ。
彼女が正しいことには変わりはない。
「100伝えることではなく、20くらいの言葉で相手と話してみて」
僕は彼女に相手のパーソナリティを受け入れる要素も必要と解いた。
彼女が明確さを求めるが故に離れる同僚との距離。
人数比で言えば1対10。彼女はもちろん1側である。
その年齢で1人で戦い、
会社に来ることも嫌になるだろう。悲しいと思った。
今日の出社時は僕に笑顔で
「“か“ってなんですか?」
愛おしく感じた。
僕は自宅に帰り、その誤送信した“か”を確認した。
確かにプジョーの時間に発信している。
メッセージの画面を開いた。
「時間ある時に食事しようよ。
無理なら気にしないでね。
その時は証拠隠滅するからw」
送って、眠りについた。
夜間頻尿気味で目が覚めた。
深夜0時だった。
携帯を見た。
「証拠隠滅しなくて良いですよ。
時間が合えば是非!」
夜間頻尿でも夜明けは来るのか?




