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18/18

18.絶叫系は苦手でした。

 羽の生えた、金色の大きな子猫に抱えられると、すぐに浮き上がった。

 モフモフの胸元に遠慮なく顔を押しつけていても、羽ばたきの振動は感じなかったから、あれは飾りのようなものなのだろうか。

 実際は、石から子猫に、子猫から大きな子猫に変わっていった力と同じような力で飛んでいるのだろう。

 歩くより格段に速いスピードで元来た道を戻っていく。

 わたしが最初にいた場所には、石があった空洞に繋がるこの道しかなかったけれど、暗かったからわからなかっただけで、他にも出口があったのだろうか。

 そう思って顔をあげると、金色に輝く猫に照らされた空間はやはり思っていた通りの洞窟で、暗い一本道だ。

 脇目も振らず、子猫は飛んでいく。

 フカフカの毛とプニプニの肉球は驚くべき安心感でわたしを抱えている。

 もう一度モフモフを堪能するように、胸に顔を埋め直す。

 ここがどこか、どこからどう帰るのか、確かめてもきっと意味はない。

 フカフカの子猫は暖かく、ふんふんとご機嫌な鼻歌交じりで進んでいく。

 あれ??この歌どこかで聞いたような??

 少し調子っぱずれのメロディだし、同じフレーズを繰り返しているだけだが、確かに聞き覚えが。

 不思議に思って子猫の顔を見上げると、飛んでいるスピードが緩み、すぐ間近で金の目が、それはそれは嬉しそうに笑った。

『つかまっててね』

 いつの間にか、元いた暗い洞窟に戻ってきていた。

 通れそうな道は、やはり行き来した一本道だけのようだ。

 どこへ向かうのかと思った矢先に、ぐん、と強い衝撃がきた。

「!?」

 言われるまでもなく、必死でモフモフに抱きついた。

(上!?)

 確かに見上げても天井らしいものは目に見えなかったが、かわりに出口になるような隙間も見えなかった。明かりひとつ降りてきていない高さの向こうに、出口があるということか。

 わたしは空を飛ぶことができないので、なるほどこの子猫にしかわたしを外に連れ出すことは不可能だった。

(呪い解いてよかった……)

 目の前に黒いモヤモヤがあったので反射的にキレイにしてしまったノリだけれど、結果オーライである。

 そもそも何がどうなってこの穴へと迷い込んだかもわからないけれど、なるべくしてなったような気がしないでもない。

 要はもうわたしの知っているこちらのことから大きく外れ過ぎていて、思考が追いついていないからあるがまま今の状況を受け止めてているわけだけれど、それにしたって、高度はどんどんと上がっている。

 何か考えようとする矢先に振り落とされていくスピードで、子猫はぐんぐん上へと向かう。

 思考どころか、三半規管ももうついていけていない。

(こねこさん、スピード狂……?)

 ご機嫌なフルスピードを共有できているけれど、もはや体感のほうはかけ離れている。

 いつまで飛び続けるのか、ゴールが気になった頃、意思疎通している子猫が答えるように言った。

『もうすぐだよ!』

 さらに加速、もういっそ内蔵もついてきていないのでは?というくらい風と一体になって音速を超えたあたりで、目の前が真っ白になった。


 ポン!!


 何かを通り抜ける感覚がして、小気味のいい音が響く。

 息苦しい圧から解放されて、動きが止まったのがわかった。

 眩し過ぎて、目が開けられない。

 目の裏にまで届くのは、これは陽の光だ。

「「ディアナ様!!」」

 アレクシアとミシェルの声がした。

 深く息を吸うと、暗い洞窟の埃の匂いではなく、瑞々しい森の緑と、清々しい風の匂いがした。

(もどって、これた……っ)

 一気に安心感が湧いてきた。

 それと同時に込み上げるものも。

(きもちわる……っ)

 子猫の肉球がそっとわたしを地面に下ろしてくれたのと同時に、足腰に力が入らなくてそのまま前のめりに倒れ込んだ。

「おっと」

 地面に手をつく直前で、聞いたことのない声の誰かが抱きとめてくれた。

『だいじょうぶ?どこかいたい??』

 金の子猫も慌てて体を支えてくれたけど、不快感だけ伝わっているようで、細かいところまでは理解ができてないのか狼狽えているようだ。

「だいじょーぶ、ちょっと酔っただけだよ」

 今にも泣き出しそうな子猫が安心するように言ってから、ようやく光に慣れてきた目を開けて抱きとめてくれた相手を見る。

(白い)

 頭のてっぺんから足の先まで、視界に入るものがすべて白い。

 あれ、でも。

 キラキラとした金の眼が、子猫とお揃いだ。

 その白い人にフワフワと集まってきているのは小さな精霊たちで、慰撫するようにこちらにもすり寄ってきてくれると、少しずつ気持ちの悪いのが治ってくる。

「ディアナ様、ご無事ですか?」

 白い人の後ろから、アレクシアが心配そうにのぞき込んできた。

 白い人と金色の猫に困惑しているような顔で、手を出せずにいるようだ。

「アレク様、ごめんなさい、無事です」

 きっと心配をかけてしまった。

 洞窟を歩いて、呪いを解くのにもどれくらい時間がかかったかわからない。

 お日様はまだ中天くらいで、森の中を探索していた頃とあまり変わらない気はするが。

 ところで。

「……ええと、こちらの方は?」

 目の前の白い人に焦点を戻す。

 柔らかく抱きとめられているが、興味深そうな金色の目がうるさいほどにこちらを見ている。

「わしか!わしは精霊王じゃ!」

 アレクシアに訊ねたはずが、目の前の白い人がそれはそれは嬉しそうに名乗った。

「せいれい、おう?」

 困惑。

 思わず先に出会っていたはずのアレクシアとミシェルを見るが、なるほど、二人も困った顔をしているはずだ。

「其方はディアナじゃな?」

「はァ」

 ついていけない度が加速して、気の抜けた返事になってしまった。

 精霊王。

 そんな人に心当たりはある。

 知ってる。

 ゲームでやった。

 ラスボス戦でこの祠まで導いてくれたのは他でもない精霊王で、そもそも子猫を封印していたのも精霊王だ。

 いやでも待って。

 わたしが知っているのはこんな男か女かわからないような美形ではない。

 立ち絵があるわけではなく、その他モブキャラと同じような扱いでシナリオのウィンドウ脇にそっと添えられていたのは、おじいちゃんだった。真っ白なおじいちゃん。

 長い髪も眉毛も顔半分を覆い豊かにたくわえられた髭も服もぜんぶ真っ白で、痩せ細り弱っていた。

 けれど今目の前で精霊王と名乗るのは、真っ白い装いは同じだが、飄々とした風体の、あまりある好奇心を隠せない美人だ。

『でぃあな?あなた、でぃあな?』

 自称精霊王の衝撃を扱いきれていないのに、金色の子供大の羽の生えた子猫の存在がさらに輪をかけている。

「そう、ディアナ」

 名前を知れて嬉しい!

 そういうキラキラした眼を向けてくる子猫に抗えずに、きちんと名乗ってあげた。そういえば、あんなに好意を伝えあったのに名乗ってすらいなかった。

『ディアナ!』

 うん、子猫さんはいい。このままでいい。こんなピュアでキレイな生き物が存在していることが奇跡なのでこのままでいい。全肯定。

「ほぉ〜。これまたケッタイなものが産まれたのぉ」

 自称精霊王の白い人は、その子猫をまた面白そうにジロジロ見て好奇心も露わだ。

 わたしの手足に力が戻ったのを見計らい立ち上がらせると、今度は子猫に向き合ってその耳やらヒゲやら毛並みやらを触りはじめた。

『あの、ねえ、やめて?』

 くすぐったそうにしているが、基本、子猫は無防備にされるがままだ。

「ディアナ様、これは一体……」

 アレクシアは、わたしの体のどこにも傷がないことを確かめてようやく肩の力が抜けたようだが、それでもいっさい事態を飲み込めていないままだ。

 だからといって、わたしにも何がなんだか説明のつかないことばかりで答えに困ってしまう。

 ミシェルだけはなぜか金色の子猫をガン見しているから、たぶんわたしと同類。普段と同じクールで常識的な表情に、にじみ出るネコチャンを撫でくりまわしたい欲を感じる。

 護衛騎士との意外な共通点を見つけて喜ぶところだが、それよりもなによりも、このゲームにもない展開を、誰かどうにか説明していただけないでしょうか……?

「ふむふむ、これほど見事に払われたんじゃ、おぬしが精霊を喰うことはもうないの」

 困惑を極めたところで、ようやく子猫を撫でる手を止めた精霊王が、改まってこちらを向いた。

「このものを聖獣にしてくれたこと、感謝する。女神の力を持つ少女よ」

 静かにわたしを見据えた金の瞳は、やっぱり子猫と同じものだった。 




長らく更新出来ずに申し訳ありません。

これからもゆっくりとした更新ではありますが、読んでいただけるとうれしいです。

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