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16.曙光の少女(アレクシア視点)

お読みくださりありがとうございます。

ブクマ、感想等もありがとうございます。

年末年始で滞りましたが、また少しずつ進めていきたいです。


 ディアナ様のことをはじめて知ったのは、天啓の儀式より少し前のことだった。

 それまでも、何回か天啓の儀式に警護として同席したことがあったが、その時も、同じ任務を下されていた。

 今回の儀式に、次期女神候補の本命がいるらしい。

 そんな噂が、主神殿に詰める騎士たちや下働き、果ては神官たちの間でさえ実しやかに語られだした。

 儀式の度に聞くような噂で、最初はまたか、と思い聞き流していたが、神官、それも警護対象となるような高位神官たちでさえその噂を口にするものだから、ただの噂と無視することができなくなった。

 今回の儀式には、通常同席しないような高位神官、そしてコーリング様までお出ましになるとなって、警護任務は途端に重い責務を伴った。


 天啓の儀式は四節に一度。

 10歳の誕生日を迎え、なおかつ居住地の管轄の神殿で聖女になるに足る力の保持者であると認められた少女たちが主神殿に召集される。

 まずそこで篩い落とされるため、天啓の儀式に臨めるものはそう多くはない。

 一つの神殿で、多くて年間で五十人を超えるかどうか。

 大陸全土でいえばたかが知れている人数だ。

 一度神殿に召集されれば、聖女候補になるか、儀式でまた篩い落とされることはあるが、望めばそのまま聖都の主神殿で、高位神官の候補生として勤めることができる。

 貴族に生まれなければ、神官になるのが最も手堅い就職先だ。

 聖女に、とまでは言わない。

 地元の神殿で、あるいは国の大きな都市の神殿で、そしてできれば聖都の主神殿で、神官になることさえできれば将来の生活は安泰、人々の崇敬も受けることができる。

 その中でも高位神官となれば、大陸の少女たちが大成するための最も憧れの職業だ。

 儀式に召集された少女たちは、そのほとんどが神官の道を選ぶ。

 儀式に臨むのは、選ばれた少女たちなのだ。

 出自は問われない。

 ただ聖女の力があるかどうか。

 中には、我こそはという矜持でやってくる少女もいる。

 希望を持って、野心を持って、畏れを持って、まだ10年の歳月しか知らない少女たちが、主神殿の門前にやってくるのだ。

 その中に、ディアナ様もいた。

 ただ、前評判から破格というのは稀なことだった。

 生家が聖都内ということ、母親が神官であることを差し引いても、その力の強さは人々の口の端にのぼるほどで、噂ではなく関係者の見聞きした事実として語られるのだ。

 今回の天啓の儀式に臨むのは、ディアナ様を含めて十一人。

 大陸の各地から選ばれた少女たちは、儀式の日に間に合うように旅をしてくる。

 その中にはビビもいた。

 彼女は北の大国「ガルガリシア皇国」と聖都「シンシア」に隣接する小さな国の出で、父親は教師、母親も元は教師をしていたらしいが、ビビが生まれてからは家庭に収まっていたという。

 その両親に連れられ聖都にやって来たビビは、ディアナの噂を耳にすることもあっただろう。

 けれどビビは、敬虔な態度のまま、天啓の儀式へ臨んだ。

 少女たちの中には、噂の主にあからさまに敵愾心を持ったものもいたが、当の本人は、儀式の日の前日、それも日の入り間際に主神殿へとやって来た。

 儀式の手順も、所作も、その前々日まで生家の管轄の神殿で学んでいたという。

 聖都北西地区の主要な街から、主神殿へは乗合馬車で半日かからない程度。聖都北部の街道を東に向かい、途中の宿場町で一泊して、今度は中心に向かい南へ。

 主神殿への巡礼は大陸どこからでも街道が整備されていて、余程のことがないかぎり滞ることはほとんどない。

 遠方からの召集者以外で、儀式の前日に主神殿に入るということもあまり前例がないことだが、噂のこともあり、主神殿からの配慮があったとは後でディアナ様から聞いたことだ。

 できるだけ人の目に触れないよう主神殿へ招かれたディアナ様をはじめて見たのは、儀式当日。

 儀式を執り仕切る祭司である祭礼部の神官長の警護の一人として、祭壇の間の配置に付いていた。

 粛々と、少女たちが一人ずつ祭壇の前に並び、跪く。

 主神殿に到着した順に並ぶのが慣しだ。

 列席しないはずのコーリング様や他部門の神官長たちは、姿は見えないが、祭壇の間を一望できる隠し部屋に集まり儀式の進行を見守っているはずだ。

 今代の聖女様がその中にいる、とは、警護任務に付いた騎士の間では公然の秘密だった。

 あのお方がいるらしい……、と主要の騎士だけ集めて告げた部隊長の顔は蒼白だった。

 あのお方がいる、となれば、我々騎士職に就いている者たちにとっても憧れであり畏れの対象でもある、聖女様お抱えの聖騎士隊がいるということだ。

 聖騎士隊の主だった面子は今代の聖女様とほとんど変わらぬ老年の女性騎士だが、壮健で、頑強、名だたる名将、軍人揃い、嘘か真か人間離れした逸話も数知れず、若輩の立場からすれば、その目がある所のお役目というのは、控えめに言っても生きた心地がしなかった。

 その元凶とも言える件の少女、ディアナ様は、儀式に臨む少女たちの列の最後尾を歩いていた。

 儀式用の青色のローブを纏った少女たちのいちばん後ろを、金色の長い髪を半分だけ編み後頭部でまとめた小さな後ろ姿が付いて行ったのをよく覚えている。

 緊張した様子は、他の少女たちと変わらない。

 辿々しい所作は、年相応と言える。

 明らかに自分を注視する瞳が多いことには気付いているだろうが、決して俯くことはなかった。

 広間の端で、人々の動きを注意深く見ながら、それでもその少女を長く見つめてしまったのは己の鍛錬不足としか言いようがない。

 祭司の女神への祈りの言葉が終わり、ついに少女たちの天啓が試される時がきた。

一人ずつ祭壇に上がり、御神体に跪拝、祈りの言葉を捧げ、そして左手で触れる。

 十人の少女たちは、確かに眩い光を持っていた。

 御神体の色に近い薄青の光輝を放った少女、反対に、落ちる夕陽のように燃え盛る光輝の少女、淡い月光の瞬きをもたらした少女、ビビは揺らめく水面に乱反射するような明るい光輝だった。

 けれど十一人目。

 その場に居た全ての期待と好奇を小さな背中に一身に背負い、震える手を伸ばした少女は。

 瞬く間に圧倒的な光輝で祭壇の間を全て満たし、溢れ出るほどのその真っ新な曙光で御神体すらも染め、強く、けれど優しく視界を白く奪った……。

 噂など、その力のほんの表層をなぞった程度のものだった。

 誰の口も閉ざし、有無を言わせぬ輝きをディアナ様は示したのだ。

 天啓の儀式は騒めきを残して終わり、次代の聖女候補は一人と定められた。

 あの日、あの瞬間、間違いなくこの身はあの鮮烈で暖かな光に貫かれ、包まれた。

 心が震えていた。

 わけもなく、涙すらこみあげた。

 あの光の強さを、優しさを思い出す度、この方に尽くすために騎士となったのだとさえ思った。

 そして、前例のない唯一人の聖女候補に、なんの僥倖か自分が専任の護衛騎士として指名され、ますますこの身は震えたのだ。

 誠心誠意、この尊き方をお護りしようとはじめて声を交わしたディアナ様は、まだあどけなさを残した普通の10歳の少女で、事の成り行きに当惑しながらも、それでも自身の役目をよく理解し努める、そういう少女だった。





今話はありませんが、モフモフ成分は積極的に出していきたいです。

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