15.知能は捨てました。
「ねこ」
あまりに事態が急転し過ぎていて、わたしは語彙を失った。
『ねこ?すき?』
「すき」
喋る子猫を見て、IQの下がらない猫派がいるだろうか。いやいない。
『すき!』
ぱぁ、と効果音が付きそうな、嬉しい!という強い感情が伝わってくる。
は??可愛い。
思わずしゃがみ込んで、子猫を抱きあげる。
小さな体は両手に収まり、優しく指の腹で撫でると嬉しそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らした。
喋るけれど、そのまんま猫の様相だ。
この生き物はなんだろう。石だったもののような気がするが、いまは喋る猫になった。うん、猫だ。なるほど。猫ならば仕方ない。連れて行こう。
「ここから出る方法は?」
外に出してくれると言うけれど、この幼気な生き物に何が出来るというのか、撫でながら尋ねると、ゴロゴロ言いながら子猫は目をパチリと開けた。
金の眼。
体毛も、茶トラに見えたけれど金色に輝いている。
この真っ暗な空間を照らしていた大きな琥珀がなくなった今、その欠片のようなキラキラが子猫を作り、辺りはこの子猫の輝きによって照らされているのだ。
え、神の生き物?
わたしを照らす太陽なの?
『ぼく、たいよう?』
おっと、わたしの考えていることがダダ漏れになっているのだった。
「太陽みたいにキラキラしてるってことだよ」
『たいよう、すき?』
「うん、すきだよ」
『すき!』
またまたぱぁ、と音が付く程の感情表現。
なるほど、わたしの考えがダダ漏れのように、この生き物の感情もわたしにダイレクトに伝わってくるのだ。
わたしが好きだと嬉しい、というたったそれだけが全力で伝わってくる。
もうダメだ。
陥落だ。
今世は無事子猫エンド。
ありがとうございました。
『あのね、おそと、でるね』
わたしの思考が完全に停止した今、子猫のほうが事態を進展させてくれた。
「おそと。ハイ」
言われたことをおうむ返ししているわたしのIQはまだ一桁だ。
『……あのね、ちょっとだけおおきくなってもいい?』
いまだに抱えあげて撫でることをやめられないわたしに、子猫もこの状態を惜しむように、言いにくそうに訊いてきた。
「おおきく」
どれくらい大きくなるのだろう。
子猫も可愛いが、成猫でもなんの問題もない。
「おおきいのも、すきだよ」
往生際悪く頭を撫でながら、子猫を地面に下ろす。
『おおきいのも、すき!』
ほっとした様子で繰り返すと、子猫は体を震わせた。
キラキラが集まって大きくなる。
パン!とまた破裂音。
瞬く間に、子猫は大きくなった。
大きくな…………大きいな!!
子猫は、成猫にはならなかった。
子猫のまま大きくなった。
短い二本足で立っている。
金の眼はわたしより少し上。
児童サイズの、二足歩行できる子猫が目の前にいる。
大きくなった自分を気に入ってくれるか、という心配が目の前のモフモフから伝わってきた。
「すき!」
思わずわたしは目の前の金のモフモフに抱きついて顔を埋めた。
『すき!!』
モフモフが喜んだように抱き返してくれる。
素晴らしい生き物が目の前にいる。
夢にまで見た、ヒト型大の猫。
そしてこのぬいぐるみのような生き物は、意思を持ってわたしをそのモフモフで包んでくれる。
こんな至高の生き物が存在していいのだろうか。
これからわたしは猫過激派として生きていく。
そう固く決意をしていると、子猫(?)が抱きしめている前脚でそのままわたしを持ち上げた。
肉球が大事そうにわたしを抱え上げている!
『あのね、上にいくの』
「上?飛ぶの?」
安易にこの猫に羽が生えた想像をしたわたしは悪くないと思う。
『はね、すき?』
そう言った次の瞬間には、キラキラが背中に集まって羽の形になった。
この子は、どこまでも進化する……!
好きを込めてさらにぎゅう、と抱きつくと、モフモフが嬉しそうに一度わたしに顔を擦り付けてきて、そうして、ふわりと浮き上がったのがわかった。




