13.そうは見えないかもしれませんが、動転していました。
何が起こったかわからないまま倒れ込んだわたしの目には、樹々の間から覗く空が映り、そう思った次の瞬間、真っ暗になっていた。
「???」
意識がなくなったわけではない。
倒れた体はどこにも着かない。
ただ視界が真っ暗になって、宙に投げ出されたまま、止まって、いる。
動かないかと思ったが、意識すれば四肢は動いた。
柔らかいベッドから降りるようにすると、地面に足がついた。布靴の裏に、固い石のような感触がある。
そのまま立ち上がってみる。
見えないけれど、狭くてぶつかるような場所ではない。
その場で足音をたててみると、ささやかな反響音。
天井の高い空洞のイメージが沸いた。
そう理解すると、突然視界が開けた。
暗闇に慣れたのか、イメージどおりの空間が広がっている。
(ここはいったい……)
ゲームで知り得た知識から遠ざかり過ぎて、ちょっと思考が停止する。
かなり前世の記憶頼りなところがあったのに、これは全く知らない展開だ。
(祠の中、なのかなあ)
そんな描写はなかったけれど、どう考えてもそうだろう。
どこかと繋がっていたのか、何がきっかけでこうなったのかもさっぱりわからないが、薄らとある光源のおかげで、今いる場所のだいたいの範囲はつかめた。
祠の周りの剥き出しの地面と同じくらいの洞穴というところか、天井はちょっと見えないくらい高い。
光源は、穴の中の一方から僅かに漏れてきている。
注意深く辺りを見回してみたが、アレクシアとミシェルの姿はない。
(行ってみるしかないかなあ……、ないだろうなあ……)
乗り気はしないが、たぶんわたしが動き出さないと何も進展しないのは目に見えていた。
二人がここに助けに来られるとは到底思えない。
一人で覚えのない薄暗い場所にいる心細さを押し殺しながら、わたしは光源のある方向に歩き出した。
暗い空洞から、光源に導かれるように一本道が伸びていた。
ひたひたとその道を真っ直ぐ歩く。
方向感覚は役に立たないので、迷うような道ではないことが救いだろうか。
こんな状況になっている段階で救いも何もないが。
うんざりと今の状況に自嘲していると、道の先の光源が強くなった。
どれくらい歩いていたのかは、もうよくわからない。
あそこがゴールだろうか。
どうかそうあってくれという思いと、そこに何があるのかという怯えに、なるようになれと自棄な気持ちで足を進めると、
「なるほど……」
思わず呟いてしまうくらい、ゴール、らしかった。
広さは、スタート地点と変わらないくらい、だが様子が明らかに違った。
行き止まりの壁に、巨大な何かが埋め込まれている。
大きさで言えば、そう、この間見たものと全く一致する。
天啓の儀式で触れた、祭壇の間の御神体そのもの。
けれどそれと違うのは、その異様さだ。
神殿の御神体は、透明度が高く、祭壇の間の高い円窓から降りてくる太陽光を透き通らせ、青く輝いて見えた。
コーリング女史によると、北の神殿は青、西は黄、南は紅、東は緑と、それぞれ異なる色の巨大な水晶だ。
モニュメントのような、多角柱が祭壇に祀られている。
この暗い空洞にあるのは、同じような大きさだが、歪な形をして、壁に埋め込まれて真っ黒に染まっている。
ただそれ自体が中から光っているようで、僅かな明かりとなっていた。
(あー、嫌な感じがする)
たぶん、これが、祠に祀られているもので、結界に閉じ込められているものの正体だ。
呪いに触れるときと同じ、嫌な黒い靄のような感じが漏れ出てきている。
今の強さでは魔獣になるほどではないかもしれないが、これが凝り固まって強大な魔獣となり外に出てきたら、間違いなくラスボスレベルになるだろうという予感しかない。
「これって今祓ったらどうなるんだろう」
淀みなんてレベルではないが、ここから湧き立っているものを今のうちに鎮めてしまえば、とりあえず聖女王確定イベントのラスボス戦は回避できるのでは?
なんて完全な打算だし、成功するとも思えないけれど。
「まあ、ものは試しで……」
へへへ、と誰に対するものかもわからないが、大きな独り言とごまかし笑いひとつで、わたしは無謀なことに挑戦する言い訳にした。
そっと、巨大な黒い石に手を伸ばす。




