11.想定外が起きているようです。②
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「淀みに触れても、先ほどのような呪いを受けることは、まずありません」
言っている本人も困惑するように、アレクシアの声音は常よりも低い。
「でも、アレク様は先ほど淀みだと」
「そうです。姿形からすれば魔獣になっていないものだと言うしかありません。ですが、ディアナ様の目にはすでに形を成すものに見えていて、ヒトに与える影響も魔獣と変わりなかった。
……正直申し上げると、淀みがヒトを害するように動くということも、信じ難いことです」
アレクシアの説明に、わたしはますます首を傾げた。
要は、先ほどのアレは、魔獣でも淀みでもない、ということ??
さっぱりわからない、という顔でアレクシアを見つめるが、アレクシアにも分かってはいないようで難しい顔をしていた。
「ディアナ様、よろしいでしょうか」
そこにミシェルが、遠慮がちに入ってきた。
「ディアナ様は、ここに何かがあるとわかっていて、真っ直ぐに向かっていらっしゃる様子でした」
そうだ。そういえば、当初の目的はラスボスの出現する可能性のある場所の探索だった。
いろんなことが一気に起こって忘れていた。
「ここは、いったいどういったところなのでしょう。他の騎士たちが来られないのにも、訳が?」
「あっ」
言われてはじめて気がついた。
わたしの護衛についていたのはアレクシア、ミシェルを含む五名。通常は二名体制で、主にこの二人とそのサポートに三名の構成になっている。今日は広範囲を出歩くとなって、五名全員がついていてくれたのだ。
けれど、すぐ近くにいたアレクシアとミシェル以外が、追いついて来ていない。
そんなに迷うような道を、ダッシュで来たわけでもない。そもそも騎士として鍛えている人たちを振り切れる能力がない。
来た道を振り返ってみるが、木々が生い茂っているだけの何の変哲もない森の風景だ。
ただ、ミシェルが魔法を使うような緊急事態があったというのに、駆けつける人の気配はひとつもない。
静かに、木立が揺れているだけ。
鳥の声も、風の音もない。
「?」
あまりにも静かすぎた。
木々は風に揺れているようなのに、葉の擦れる音もしない。
もしかして、これは。
「結界の、中?」
隠されていたはずの祠を見る。
先ほどから変わらずに、ただそこにあるだけ。
けれど本来、これは見つからないように隠されていたもの、封じられていたのものだ。
そこへわたしが迂闊にも近づいて暴いてしまったが、開いた扉が閉まるように、また隠れてしまったのかもしれない。
「結界とは、穏やかではない」
アレクシアの表情が強張る。
ミシェルも、先を促すように黙ったままだ。
「ここに何かあると思って来たのは確かですが、それが何かと言われると予感しかなかったとしか言いようがありません。
ですが、先ほどのアレが淀みでもなく、魔獣でもなくて、わたしだけがハッキリとカタチを認識できるものなら、単純に、何かのまじないなのかと。
無自覚に解いてしまったので、反動がアレク様への攻撃になってしまった」
確信はないが、おそらくこれが正解だろう。
ここに何かある、というのは予感というより知識だが、そのあたりの事情を詳しく話すつもりはないので黙っておく。
「ディアナ様は、本当に聡明でいらっしゃる……」
わたしの説明に、アレクシアが感銘を受けたように言葉を洩らした。
そうだった、10歳ちょっとの少女の言動から、先ほどから微妙に逸脱してしまっている。元営業職の社会人の顔で話していた。
キャラがブレる。
でもアレクシアの心証は悪くないようなので、とりあえず話を続ける。
「ええと、正確には結界を解いたわけではなく、抉じ開けて入った、という感じなんだと思います。機械的に、排除しようと働きましたが、そのまま元に戻ってしまったのだと」
「そうなると、結界の中に我々は閉じ込められたということでしょうか。そして、その結界が守っていたものが、あの祠?」
「おそらくは」
ミシェルの理解は早く、アレクシアも納得したようだった。
「これほど手の込んだ、しかも自動で修復できるような高度な結界、いったい何のために」
何のために。
それは間違いなくラスボスだ。
それしかないが、そんなことは説明できないので、首を傾げておくだけにする。
「ディアナ様、ここから出られるでしょうか」
入る時に抉じ開けたのがわたしなら、出るために開けるのもわたししかいない。
けれどこれは、内側のものを出さない結界だ。
外からは近付いただけで穴を開けるような容易さだったが(いやそれも、只人なら出来ないことなのだけど)、中から開けるのはより難しいはず。
「やってみます」
それでもずっとここにいるわけにもいかないので、どうにか出るだけでも試みようと、わたしは頷いた。
10話を過ぎても攻略キャラが一人も出せていないことが、わたしにも想定外です。




