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カシーヤの裏路地に一つの影が歩く。幽鬼の如き凶相は簒奪者マジャドのものだった。
左腕の傷口は深く、肩は辛うじて繋がっている状態、そのはずだったが、外目にはその傷のほとんどが塞がっていた。
外装骨格により、神経、血管、筋繊維が繋げられているのだ。今は体に馴染み切っていないが、直に外装骨格は肉体と同化していく。
しかし、それでもその表情には疲労が色濃く映り、満身創痍の有り様だった。
マジャドの進行方向から革靴の音が路地裏に反響する。
「漆黒双刃」
街路灯と月明かりのもとに暗い黒色の肌の男が姿を現した。丸刈りの頭にはサイドに二本の剃り込みがある。全身はブラックのスーツ、シャツ、ネクタイで統一されており、高い身長としなやかな立ち姿は黒豹を思わせた。
その手には柄の両端に片刃がついた特殊な剣が握られている。その双刃剣は、刃の湾曲した形状から弓のようでもあった。
「随分勝手をしてくれたな、翠玉簒奪」
叱責ではあったが、漆黒双刃の声は低く落ち着いている。
「ふん、吾輩がどこで何をしようと貴様らには関係ないわ」
対するマジャドの方が感情的ですらあった。
「確かに君と教団の契約はそういうものだが、それは任務に関わりがない場合に限っての話だ。ホワイトベル・ファミリーと先んじて交戦し、あまつさえ敗北するなど執行者にあるまじき失態だとは思わないか、マジャド・アズィーム・アル=ラシード」
「敗北? 勘違いをするなよ、小僧。貴様の手助けなどなくとも、吾輩はあのまま逃げ遂せておったわ」
「ふぅ、まあそういうことにしておこう」
漆黒双刃はわざとらしくため息を吐いた。
「……それに次の作戦は君は参加しなくてもいい」
「何?」
「負傷した君を無理に前線に出す必要はないということだ。ゆっくり体を休めてくれ給え」
マジャドは一瞬怪訝な様子を見せたが、すぐに得心したように頷いた。
「そうか、今回はあの女がいたのだったな」
「ああ、故に全て問題はない。私たちが何をせずともこの都市は陥落する。私としては少々退屈な結末となりそうだが、あえて最適解を打たないというのも趣味ではなくてね」
漆黒双刃が静かに笑う。
「かつて国一つを滅ぼした魔性、“傾国”の業を存分に振るってもらうとしよう」




