2-1.簒奪者/Upside Down, Inside Out
誉曜の日の夜。
西方諸国連合を騒がせる盗賊、簒奪者の予告状に指定された時がやってきた。
ホワイトベル・ファミリーの邸宅内は物々しい雰囲気に包まれている。
ファミリーの構成員たちは、門から内部庭園を抜けて玄関までの道のり、邸内の各場所に武装して配置についており、一部には回転式機関砲まで設置され、厳戒態勢が敷かれていた。
そこに一人の男が現れる。
褐色肌に漆黒の髪、深緑色のロングコートに、ストライプ柄のスーツを身に纏っている。コートの左側の下襟上部に、右目を象った意匠があしらわれていた。整えられた髭に、壮年の渋みのある顔立ち。その表情は自信が漲るように、生気に満ちている。
「誰だ」
門の前に立っていた二人のホワイトベルの構成員が誰何する。
「吾輩は、マジャド・アズィーム・アル=ラシード。通告通りに参上した。歓待の用意はできているかな?」
男が口にしたのは、予告状に記された簒奪者の名だった。
白いスーツ姿の男たちは懐から拳銃を取り出し、簒奪者マジャドに向かって銃口を突きつける。
二人とも同色のハットを深く被っており、その表情は伺い知れないが、その立ち振る舞いからは警戒の色が強く滲んでいる。
「これは何の真似だ?」
「何だも何もないだろう。盗みに入ると言っておいて、まさか本当に歓迎の宴でも開いてもらえると思ったのか?」
白スーツの男の一人が冷ややかな声音でそう言った。
それに対してマジャドは眉間に皺を寄せて首を傾げる。
「……盗む? 何を言っている。吾輩は雅鸞を頂きに来ただけだ」
その言葉に、ホワイトベルの男たちは困惑する。
マジャドは溜息をつきながら肩を竦めた。
「道具とは、人間が使うために存在する物だ。優れた道具は、優れた使い手のもとにあってこそ真価を発揮する。名剣は優れた剣士に、名弓は優れた射手に、名杖は優れた術師の手にあるべきだ。ましてや、ただの宝として死蔵させるなど言語同断。蒐集家とは、単なる所有者ではなく、名手であるべきなのだ」
その語り口調は滑らかであり、真実それを真理と彼は思っていることを伺わせた。
「不知斎の傑作人形。聖遺物ではないが、吾輩が所有するに相応しい逸品だ。吾輩のためにそれを今日まで保管していた貴様らには、有難く吾輩に手渡す栄誉をくれてやる」
「旭花の人形をお前が使いこなせるとは思えないが?」
「何も問題はない。吾輩ほどになれば、どれほどの道具であれ、容易く使いこなしてみせよう」
あまりにも傲岸不遜な態度。
「開いた口が塞がらないとはこのことだな」
「……ふん、凡愚どもに理解できるとは思っておらん。それで? 用意してあるのかないのか、どちらだ? 吾輩はどちらでも構わんぞ」
白スーツの二人は黙って引き金を引いた。
「──」
マジャドが右手を振るう。
手の甲の部分に円形の刻印が刻まれた、白い手套がつけられている。
そして、いつの間にかその手に握られていた大剣が銃弾を弾き返す。その黄金の大剣は柄と鍔には壮麗な細工と宝石が散りばめられ、武器というよりは飾り物のような見た目をしていた。
「致し方あるまい。此度も力尽くでいくとしよう」
「くっ」
マジャドが振るった剣に、ホワイトベルの男が咄嗟に後方に飛ぶが、その踏み込みの速さ故に、躱し切れず直撃を食らう──その直前、もう片方の男が腰から刃を抜き放ち、マジャドの剣を受け止めた。
「ほう? 吾輩の剣を受け止めるとはやるではないか」
ハットが地面に落ち、黒い髪と仮面が露わになる。
ホワイトベルの構成員に扮した斬雄、彼は現在クローディアの食客としてジョン・スミスと名乗っている。そのため、普段とは異なり、その手には湾曲した片刃のサーベルが握られていた。
「仮面とは面妖な」
「はっ、お前の言動の方がよっぽど面妖だがな」
互いに剣を弾き距離を取る。
その隙を見て、共に門番をしていた男がホイッスルを吹いた。
ピィーという音が一帯に響き渡る。簒奪者襲撃の合図。
「数々の宝物殿を荒らしただけあって、確かに大した腕だが……」
流麗かつ無駄のない攻撃。マジャドの剣はまさに舞うが如きものだった。
だが、数合刃を交えて斬雄は確信する。剣の技量だけで言うなら自身の方が上だ。
本領が発揮できない武器とはいえ、その程度のことで遅れを取るような剣鬼ではない。
「期待外れだな」
斬雄の挑発を前に、マジャドは薄ら笑いを浮かべる。
「……ならば吾輩の戦い方を見せてやろう」
剣を左手に持ち換え、右手を前に突き出す。
「セジェムケルウの右手」
その手のひらに、いずこからか現れた球体が握られている。中央には赤い水晶が嵌め込まれており、それを囲むように四本のラインが等間隔で走っている。
「炸裂せよ、ルベルグラナトゥム」
その言葉と共に、赤い水晶が発光し、水晶と同じ色の光の粒が飛散する。
斬雄は咄嗟に門の内側まで後退する。
光の粒が門と外壁に浸透し、内部から急速な熱と光が発生して爆発した。
「ぐぁぁっ」
逃げ切れなかったホワイトベルの男が呻き声を上げる。
マジャドはその横を悠々と通り抜け、門の中へ侵入し、斬雄に向かって刃を振るった。
「ちっ、物質転移の聖遺物か」
突如として出現した聖遺物と思しき魔導具。それを出現させたのも別の聖遺物の効果だろう。左手に剣を持ち替えたことから、恐らく右手につけた手套こそが転移の聖遺物と斬雄は推測する。
「聖遺物専門の盗人だ。まあそりゃ戦闘にもそれを使ってくるよな」
「ふん、失敬な男だ。吾輩は盗人などではない。蒐集家だ!」
マジャドは苛立ちを声に乗せながら、斬りかかる。斬雄はそれをいなしながら、その隙を探っている。
「破影手裏剣」
次にマジャドの手のひらに現れたのは三方手裏剣だった。真ん中の穴に指を通し、マジャドはそれをクルクルと回転させる。そして、その手裏剣を写し取ったような黒い刃が射出された。
無尽に飛んでくる刃を、斬雄はサーベルで全て払う。二人の距離がわずかに空く。
「アロガンテ」
「なっ」
その瞬間、突如として斬雄の上から強力な圧力が掛かる。
立っているのが困難になるほどの圧力。周囲を見渡すと、駆けつけたホワイトベルの構成員たちは地に伏せていた。
だが、致命的な攻撃ではない。発生速度の代わりに威力を犠牲にした聖遺物による攻撃と仮説を立てるが、どこか違和感がある。
「ふん」
マジャドが踏み込んだ瞬間、圧力が消える。
斬雄は瞬時にサーベルで迎え撃つが、直前でマジャドの剣が不自然に加速する。
「何?」
再び違和感。
刃がぶつかり合う。しかし、斬雄の剣はその一撃を受け止め切れず、振り切った勢いで上空へ弾き飛ばされた。
そのまま斬雄は邸宅二階の窓ガラス突き破り、邸内で叩きつけられる。
マジャドにとって最も難所だった斬雄が消えた。彼はそのまま一気に正面玄関を破壊して、邸宅内へ侵入する。
一方その頃、邸宅二階では弾き飛ばされ、瓦礫に埋もれた斬雄は今の剣撃に思考を向けていた。
「加速? いや、今のは奴の剣を受け切れなかったというより──そうか」
マジャドの剣はオルランドのような重い一撃とは違う。むしろ話は逆だ。敵の攻撃が重いのではなく、斬雄の側が軽くなった。
玄関フロアを突破したマジャドはホワイトベルの構成員を蹴散らしながら、上階に向かって階段の壁を駆け上がっていく。
「くっ」
「な、なんだこれは!」
ホワイトベルの構成員たちも浮かび上がり、階段は空間全体に人が入り乱れる混沌と化していた。
その中をマジャドは自在に飛び回る。
彼が二階に登った瞬間、刃が襲ってくる。
斬雄の斬撃を受けながらマジャドは笑う。
「ふん、しぶといな」
「は、俺を退けるには軽いんだよ、お前の剣はな」
「ならばこうしよう」
マジャドの振り下ろした刃が急速に重くなる。刃だけではない、斬雄の全身にも凄まじい圧力が掛かっていた。サーベルの峰を抑えることで、その剣圧に耐える。
「……重力加速度の操作、発生源はその剣か」
「まさしく、これこそが我が宝剣アロガンテの力だ」
斬雄は心意を全身に叩き込むようにして全身を活性化させた。自身のポテンシャルを超えた身体強化、筋肉の制動に対して、構造の強化が追いつかずに肉体が軋みをあげる。
だが、それによって強引に体を動かし、力を受け流して刃をいなし、そのまま流れるような動きで蹴りを叩き込む。
「ふははは、やるではないか。だが、吾輩の目的は貴様と踊ることではない」
マジャドは斬雄を無視して、三階へ飛び上がっていく。
三階へ辿り着いたマジャドは一直線に目的地へ向かう。ホワイトベルの防備が最も厚い場所、その扉を破壊する。
瞬間、銀の閃光が襲い掛かる。
「ぬぅ!?」
咄嗟に剣を盾にする。不意の刺突を放った相手を確認する。
ミスリルのロングソードの先、プラチナブロンドが波打つように靡いている。
「クローディア=ホワイトベルか! ならば──」
マジャドはその室内を観察する。
マホガニー製のベッド、調度品。部屋を占領する大小様々なトレーニング器具。
──雅鸞がない。
あるはずの目的の宝がないことに気がつき、マジャドは目を見開いた。破影手裏剣を取り出し、黒い刃を射出する。
クローディアは後方に飛びのきながらそれをロングソードで弾く。
その間にマジャドが室内に侵入して、改めて室内を見渡した。やはり雅鸞の姿はない。
「夜中に婦女子の部屋に押し入るとは不躾ですね」
「宝はどこにある! ホワイトベル!」
マジャドがそう叫ぶと同時に、背後から殺気を感じる。
頭を下げて、追いついてきた斬雄の刃を躱す。
「目の前にあるだろ? ご所望のアリスター=ホワイトベルの至宝がな」
前後からの挟み撃ち、回避不能と判断したマジャドはアロガンテの力を開放する。
急激な重力変化。斬雄に強い圧力が掛かる。
だが、クローディアは何の変化もないようにマジャドと剣を交える。
斬雄はそれを見て、目を見開く。
ここまでの戦闘でマジャドが見せた重力操作、それらの散り散りの点が脳内で一本の線に結びつく。
そして、斬雄はクローディアに向かって叫んだ。
「剣だ! アロガンテはその剣を中心とした効果範囲内の重力加速度を操作する!」
その言葉を受けて、クローディアは自身とマジャドの立ち位置から、重力操作の範囲を把握する。正確な長さはわからない。故に、近距離の戦いに転じる。互いの刃が届く距離にありながら、彼女の閃光の如き剣捌きがマジャドを追い詰める。
「貴様……!」
マジャドは斬雄を横目で睨みつけながら、クローディアから距離を取る。その瞬間、斬雄を抑えつけていた重さが消える。
「聖遺物は特異な効果を持っているが、その効果は決して無制限じゃない。必ずその力が及ぼせる効果には制約が存在する。そして、それを推測するヒントは多くあった」
斬雄は走り出す。重力が減少する。三人は軽くなった重力圏の中で、天井、壁、床を飛び回る。交錯する刃で火花が散り、万華を描く。
「階段全体を影響下においていたことから、アロガンテの重力操作は平面だけではなく、上下も含めた立体で発現している」
加速度の反転。クローディアの足が止まるが、今回は斬雄に重力の影響が及んでいない。
「一階の階段下から発動して、効果が及んでいなかった範囲から推測する限り、基点となる場所から球形状の範囲に広がり、その半径はおよそ五メートル」
マジャドが右手にルベルグラナトゥムを取り出す。だが、すでに斬雄の刃が彼の右手を捉えている。マジャドが大きく後方へ跳び退くと同時に、クローディアの体を上から抑えつける圧迫感が解除される。
「さらに、お前自身が重力加速度を上げた発動圏内に入るとき、お前は必ず重力操作を切る。それはお前自身もまた発動した重力変化の影響を受けること、発動した効果範囲の座標は移動しないことを意味している」
即座に重力加速度が再上昇する。斬雄とクローディアのどちらもが重力場の範囲内に含まれている。
地面に着地したマジャドがルベルグラナトゥムを掲げ、放たれた赤い光が二人を襲う。
──先程その聖遺物の攻撃を受けた建造物は光が浸透して、内部から爆発していた。
その様子から斬雄はこの攻撃は防御不能と推測する。
「鉄杭白貫」
床から現出した白い金属の杭が光を遮る。光は杭内部に溶け込み、爆発した。
「そして、お前の対面にいるとき俺たちは重力操作の影響を受けなかった。つまりその効果は、お前自身とその対面、即ち聖遺物を基点として発動されている」
「雷走」
クローディアが床に手のひらをかざし、そこから発生した雷がマジャドに向かっていく。
「だが、それだけでは説明がつかないことがある。重力場が発生しているとき、お前は中心部にいても重力操作の影響内にいることが度々あった」
マジャドはそれを回避した先に待ち構えていた斬雄と鍔迫り合いになる。
「つまり、中心部が空白で、外縁部が重力場なわけじゃない。効果圏内は常に球の中心部と外縁部の二層どちらもであり、それをお前は自在に操作できる」
「は、ご明察と言っておこう」
斬雄の予測は当たっている。
アロガンテの重力場は、その刃を原点とする球対称の場であり、二重殻構造の二つの半径領域を独立して、自在に操作できる。
「──だが、わかったとて見切れるものではない!」
効果範囲の二つの層。範囲内の重力が変幻自在に変動を繰り返す。
撹拌する三半規管。ただその場で立っているだけでも肉体と脳に過大な負荷を与える重力の乱高下。部屋内部にある物体が掻き回されるように浮き上がり、視界を遮る障害物となる。
もはやこの場の変化を理解できるのは発動者のマジャドだけだ。
だが、その中にあって、斬雄とクローディアの斬撃は勢いを減じるどころか、益々増していることにマジャドは気づく。
「グッ」
斬雄のサーベルが腹部を切り裂いた。傷は浅い。しかし、確実にその刃は重力圏を貫いて、マジャドへ届いていた。
理屈はわからない。理解はできていない。ただ、マジャドの戦闘本能が、この二人を共に戦わせてはいけないと結論づける。
「辰砂影従者の雫」
マジャドの右手から銀色の液体が滴り落ちる。
それはぐにゃぐにゃとその形を変え、無貌の人型を象った。その背格好はマジャドに非常によく似ている。
辰砂影従者の雫、術者と全く同等の身体と思考、技量を写し取る聖遺物。
マジャドは聖遺物によって生成された、その人型に一本の剣を手渡した。黒曜石を削りだしたような、歪な形状の細長い剣だった。
「断剣アニュパルクシア」
クローディアの元へマジャドが、斬雄の元へ人型が向かう。
斬雄はその黒曜の刃をサーベルで受ける。
「なっ!?」
いや、受けられなかった。
衝撃はなかった。受けたという感覚すらなく、サーベルはいとも容易く断ち切られる。
想定外の事態。刃がそのまま斬雄の身を切り裂こうとした瞬間、
「漩嵐」
ギリギリで魔術発動が間に合う。ゼロ距離の魔術行使、渦巻く暴風が炸裂する。それは自爆に等しく、人型と共に斬雄もまた弾き飛ばされ、反対の壁に叩きつけられる。
「全く次から次へと……」
多種多様な聖遺物による初見殺しの乱れ打ち。
とはいえ、狼狽えている暇はない。人型は怯むことなく、再びこちらへ向かっている。原理は不明だが、受ければ断ち切られるものとして対処する。
その頃、マジャドとクローディアが激しく剣を交えながら対峙する。
「それで、なぜ雅鸞はここにない?」
「答え合わせが必要ですか?」
マジャドが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「……ふん、気づいたのか。吾輩が宝の在り処など知らないことを」
「あなたは確かに雅鸞がこの屋敷にあることを知っていた。我々がそうと知りもしなかったその正体まで。だから私たちはあなたが何らかの手段で雅鸞の所在を知る術があるのだろうと強く考えました」
正面からの防衛こそが最適と考えたのはそれが念頭にあったことが大きかった。
「ですが、改めて考えたのです」
「考えた、何をだ?」
「予告状の意味です」
盗賊ならばこっそり盗み出すのが常道だ。強盗にしても、わざわざ盗むと事前に宣告するメリットはない。
「単なる自己顕示欲、傲岸不遜な人格故、あるいは何らかの美学。なるほど、そうかもしれません。でも、そうではないかもしれない、と」
会話を続けながらも、部屋の中では幾度も重力場の切り替えが行われていた。
「だから予告状の意味ではなく、予告状にメリットが生まれるとすれば、どんな状況か。それを考えたのです」
四人の人影が入り乱れるように舞う。だが、マジャドと人型は徹底的に斬雄とクローディアの連携を妨げるように動いていた。
「予告状を送られた我々が何をするのか。当然、雅鸞を守るために警備を固めるでしょう。雅鸞に至るルートに人員を配置し、武器を配備する。……それは逆に言えば、この防衛計画そのものが宝の在り処を指し示す地図になるということでもあります」
即ち、それこそが予告状の意味。
「あなたはそうやって防衛する側の配置から宝の在り処を把握している」
マジャドは口の端をつり上げ、目尻を下げてニヤリと笑う。
「もうすでに邸宅内に雅鸞はありません。安全な場所へ移送済です」
「は、嘘をつくな。この邸宅から雅鸞が持ち出された形跡などなかった」
宝の移送はマジャドにとって最大のリスクだ。予告の日まで、その可能性は最大限警戒していた。
「それは表から見て、の話でしょう」
「何?」
「ここをどこだと? ホワイトベル・ファミリーの本拠地、当然、緊急用の逃走ルート程度のものは用意してあります。地下水道を抜ける秘密のルート、今回はそれを使いました」
ここに雅鸞はない。クローディアはそう宣言する。
「だからここはあなたを捕えるために用意した袋小路に過ぎません」
その言葉を受けて、マジャドの足が止まる。
そして、互いの間合いを測るようにしながら、突如として笑い出す。
「く、くくく、あーっはっはっはっはっはっは」
それは彼にとって感服であり、敬意であり、同時に活路でもあった。
「予告状の存在から吾輩の意図を見抜く慧眼、素晴らしい推理だったと褒めておこう、クローディア=ホワイトベル。確かに吾輩は貴様の言うように、警備体制からの逆算で、宝の在り処を導き出している」
アウレロアの宝物殿からアロガンテを盗み出した理屈も同じ。
アロガンテが国宝として在ることは誰もが知っている。その保管場所は、予告状によって動いた警備配置から逆算する。
「だが、貴様らの推理には決定的に一つ、欠けているものがある」
右手の人差し指をクローディアに向けて突き出す。
「──それは根拠だ」
その言葉を受けて、クローディアが目を細めた。
「いくらもっともらしい推理を組み立てようと、それは完全ではない。なぜか? 単純明快、貴様らの推理では、それ以外の可能性は何一つ否定されていないからだ。内部の共犯者の可能性、聖遺物の可能性、それらを潰すことは全くできていない」
予告状の意味の読み解きは合理的だ。しかし、それはあくまで説得力のある仮説が増えたに過ぎない。
「吾輩が言いたい意味がわかるか? クローディア=ホワイトベル。……それを考えなかったはずはない。考えたはずだ、そこまで読み解ける貴様らならば」
それだけでは、その仮説が正解だという根拠にはならない。
「ならば、貴様らは当然その可能性も考慮に入れなくてはならない。吾輩が予め宝の本当の所在を知ることができる可能性を」
故に、マジャドは断言する。
「移送するはずがないのだ」
戦力の分散、移送中の警備、それらのリスク全てが彼女の言が虚言だと物語っている。
マジャドの右手には再びルベルグラナトゥムが握られている。
「そして、吾輩をここに呼び込むことに失敗したとき、貴様らは正面から雅鸞を防衛しなければならなくなる。その場合は無論、クローディア=ホワイトベル、貴様という最大戦力をすぐさま本来の雅鸞のもとへ送り届けなければならない。そういう風に考えたはずだ」
警備配置から宝の位置を逆算したように、防衛する側の心理から逆算する。
「故に、それら情報を前提にすれば、自ずと雅鸞の本来の位置も絞られる。この部屋から邸宅内で最も遠い場所にあり、最も短い経路で情報伝達と戦力の結集が行える地点」
矛盾する解。その答えが一つだけある。
効果範囲内の重力加速度を上昇させる。
そして、ルベルグラナトゥムを床に向けた。
「──つまり、下だ」
床が内部から爆発する。爆風の中、マジャドが重力場を切って、影従者と共に二階に飛び降りる。
そして、マジャドはそれを見た。
「!!」
真下の部屋に配備されていた、三丁の回転式機関砲、それを構えるホワイトベルの構成員たち。
マジャドが降りてきた瞬間を狙い澄ますように、それら全ての銃口が火を噴いた。




