第9話 夏休み最終日
夏休み最終日。
旧校舎三階の部室には、いつもと同じ三人が集まっていた。
だが。
少しだけ空気が違う。
理由は簡単だった。
明日から学校だからだ。
「終わるな」
シルヴァが机に突っ伏す。
ティナは苦笑した。
「終わるね」
クジャも頷く。
「終わる」
夏休み。
始まる前は長く感じた。
だが。
終わる時はあっという間だった。
◇
シルヴァはスマホを見る。
登録者数。
九十七人。
あと三人。
本当にあと少しだった。
「惜しいな」
シルヴァが言う。
「惜しいね」
ティナも画面を覗く。
「惜しい」
クジャも頷いた。
百人。
ほんの少し前まで想像もしていなかった数字だった。
◇
その日。
三人は特別な企画をするわけではなかった。
夏休み最後の日を。
いつも通り過ごした。
校庭を歩く。
中庭へ行く。
購買を覗く。
誰もいない教室を見る。
ただそれだけ。
だが不思議と楽しかった。
動画のネタになりそうなものを探しながら。
三人は学校を歩いた。
◇
夕方。
校庭のベンチ。
三人は並んで座っていた。
オレンジ色の空。
少し涼しい風。
夏の終わりを感じる景色だった。
「結構遊んだな」
シルヴァが言う。
「遊んだね」
ティナも笑う。
「遊んだ」
クジャも頷く。
夏祭り。
花火。
海。
肝試し。
どれも楽しかった。
動画にも残った。
思い出にもなった。
「来年も楽しみだな」
シルヴァが言う。
「まだ一年生だけどね」
ティナが笑う。
「気が早い」
クジャも言う。
三人は笑った。
◇
夜。
部室。
今日の動画を投稿する。
タイトルはシンプルだった。
『夏休み最終日』
投稿ボタンを押す。
いつもの作業。
いつもの放課後。
いや。
今日は放課後ではなく夏休みだった。
でも。
もうすぐ終わる。
◇
しばらくして。
シルヴァが画面を見たまま固まった。
「おい」
ティナが顔を上げる。
「何?」
クジャも見る。
シルヴァは画面を指差した。
登録者数。
九十九人。
「あ」
ティナが声を漏らす。
「あ」
クジャも言う。
あと一人。
本当にあと一人だった。
三人は何となく画面を見続ける。
沈黙。
数秒。
数十秒。
そして。
通知音が鳴った。
ピロン。
三人は同時に画面を見る。
登録者数。
百人。
ちょうど百人だった。
部室が静かになる。
誰もすぐには喋らなかった。
ただ画面を見ていた。
最初の動画。
再生数十七回。
登録者一人。
そこから始まった。
大きな数字ではない。
有名でもない。
それでも。
三人にとっては大切な数字だった。
「百人だな」
シルヴァが言う。
「百人だね」
ティナも笑う。
「百人」
クジャも頷いた。
三人は顔を見合わせる。
そして。
笑った。
◇
窓の外。
夏の夜空。
明日から新学期。
夏休みは終わる。
でも。
映像アーカイ部は終わらない。
動画も。
放課後も。
まだ続いていく。
だから。
次の思い出も残していこう。
旧校舎三階の部室には、今日も三人の笑い声が響いていた。




