第8話 放課後肝試し
夏休みも終盤に差しかかっていた。
午後。
部室に集まった三人はいつものようにコメント欄を眺めていた。
最近は少しずつコメントも増えている。
シルヴァはスクロールしながら笑った。
「また来てるな」
ティナが覗き込む。
クジャも近付いた。
『肝試し回やって』
『夏だし』
『シルヴァ怖がりそう』
『肝試し希望』
ティナが吹き出した。
「最後だけ悪意ある」
「ある」
クジャも頷く。
「ないだろ」
シルヴァは否定した。
だが二人は納得していない。
少しだけ嫌な予感がした。
◇
その日の夜。
三人は住宅街の外れにある公園へ来ていた。
肝試しと言っても本格的なものではない。
噂のある場所でもない。
ただ夜の公園を歩くだけ。
予算もない。
時間もない。
映像アーカイ部らしい企画だった。
「普通の公園だな」
シルヴァが言う。
「予算」
ティナが答える。
「予算」
クジャも続く。
三人は笑った。
◇
公園の中へ進む。
昼間は何でもない場所だ。
だが夜になると少し違う。
街灯。
木の影。
風の音。
思ったより静かだった。
「意外と怖いな」
シルヴァが呟く。
「もう?」
ティナが笑う。
「早い」
クジャも言う。
「いや、暗いだろ」
それは事実だった。
ティナも少し周囲を見回す。
「まあ、ちょっと分かる」
「分かる」
クジャも頷いた。
◇
その時だった。
ガサッ。
近くの茂みが揺れる。
シルヴァは反射的に飛び退いた。
「うわっ!」
ティナが吹き出す。
「早い!」
「早い」
クジャも笑っている。
茂みから出てきたのは猫だった。
ただの猫。
とても普通の猫だった。
猫は三人を一瞥すると、そのままどこかへ去っていく。
「猫か……」
シルヴァが安心したように息を吐く。
「猫だったね」
「猫」
二人はまだ笑っていた。
◇
公園の奥。
ブランコが風で揺れていた。
ギィ。
ギィ。
静かな音が響く。
少しだけ不気味だった。
三人は足を止める。
「これが一番怖いかも」
ティナが言う。
「分かる」
クジャも頷く。
シルヴァも同意だった。
幽霊より雰囲気の方が怖い。
◇
その時。
クジャがスマホを取り出した。
ライトを点灯する。
そして顔の下から照らした。
「うらめしや」
無表情だった。
だから余計に怖い。
「うわっ!」
シルヴァが本日二回目の悲鳴を上げる。
ティナは笑いすぎてしゃがみ込んだ。
「はははっ!」
クジャは少し満足そうだった。
「成功」
「やめろ!」
シルヴァが抗議する。
三人はしばらく笑い続けた。
◇
結局。
幽霊は出なかった。
怪奇現象もなかった。
普通の公園だった。
だが。
それなりに楽しかった。
「平和だったな」
シルヴァが言う。
「平和だったね」
「平和」
クジャも頷く。
映像アーカイ部らしい肝試しだった。
◇
帰り道。
三人はコンビニへ寄った。
それぞれアイスを買う。
夜風が気持ち良い。
「肝試し後のアイス」
シルヴァが言う。
「意味分からない」
ティナが答える。
「意味分からない」
クジャも続く。
「ロマンだろ」
「便利な言葉だね」
「便利」
三人は笑った。
◇
夜。
部室。
編集が終わる。
動画にはシルヴァの悲鳴がしっかり入っていた。
「消そう」
「消さない」
ティナが即答する。
「消さない」
クジャも即答だった。
二対一だった。
今日も勝てる気がしない。
◇
投稿後。
コメント欄。
『シルヴァ弱すぎる』
『クジャが一番怖い』
『平和な肝試しで好き』
『猫でびびるな』
三人は画面を見ながら笑った。
登録者は七十九人。
そして。
九十七人になった。
「あと三人」
シルヴァが言う。
ティナもクジャも画面を見る。
百人。
もうすぐだった。
夏休みが終わる前に届くかもしれない。
そんな期待を胸に。
三人は夜の部室を後にした。




