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第8話 放課後肝試し

 夏休みも終盤に差しかかっていた。




 午後。




 部室に集まった三人はいつものようにコメント欄を眺めていた。




 最近は少しずつコメントも増えている。




 シルヴァはスクロールしながら笑った。




「また来てるな」




 ティナが覗き込む。




 クジャも近付いた。




『肝試し回やって』




『夏だし』




『シルヴァ怖がりそう』




『肝試し希望』




 ティナが吹き出した。




「最後だけ悪意ある」




「ある」




 クジャも頷く。




「ないだろ」




 シルヴァは否定した。




 だが二人は納得していない。




 少しだけ嫌な予感がした。







 その日の夜。




 三人は住宅街の外れにある公園へ来ていた。




 肝試しと言っても本格的なものではない。




 噂のある場所でもない。




 ただ夜の公園を歩くだけ。




 予算もない。




 時間もない。




 映像アーカイ部らしい企画だった。




「普通の公園だな」




 シルヴァが言う。




「予算」




 ティナが答える。




「予算」




 クジャも続く。




 三人は笑った。







 公園の中へ進む。




 昼間は何でもない場所だ。




 だが夜になると少し違う。




 街灯。




 木の影。




 風の音。




 思ったより静かだった。




「意外と怖いな」




 シルヴァが呟く。




「もう?」




 ティナが笑う。




「早い」




 クジャも言う。




「いや、暗いだろ」




 それは事実だった。




 ティナも少し周囲を見回す。




「まあ、ちょっと分かる」




「分かる」




 クジャも頷いた。







 その時だった。




 ガサッ。




 近くの茂みが揺れる。




 シルヴァは反射的に飛び退いた。




「うわっ!」




 ティナが吹き出す。




「早い!」




「早い」




 クジャも笑っている。




 茂みから出てきたのは猫だった。




 ただの猫。




 とても普通の猫だった。




 猫は三人を一瞥すると、そのままどこかへ去っていく。




「猫か……」




 シルヴァが安心したように息を吐く。




「猫だったね」




「猫」




 二人はまだ笑っていた。







 公園の奥。




 ブランコが風で揺れていた。




 ギィ。




 ギィ。




 静かな音が響く。




 少しだけ不気味だった。




 三人は足を止める。




「これが一番怖いかも」




 ティナが言う。




「分かる」




 クジャも頷く。




 シルヴァも同意だった。




 幽霊より雰囲気の方が怖い。







 その時。




 クジャがスマホを取り出した。




 ライトを点灯する。




 そして顔の下から照らした。




「うらめしや」




 無表情だった。




 だから余計に怖い。




「うわっ!」




 シルヴァが本日二回目の悲鳴を上げる。




 ティナは笑いすぎてしゃがみ込んだ。




「はははっ!」




 クジャは少し満足そうだった。




「成功」




「やめろ!」




 シルヴァが抗議する。




 三人はしばらく笑い続けた。







 結局。




 幽霊は出なかった。




 怪奇現象もなかった。




 普通の公園だった。




 だが。




 それなりに楽しかった。




「平和だったな」




 シルヴァが言う。




「平和だったね」




「平和」




 クジャも頷く。




 映像アーカイ部らしい肝試しだった。







 帰り道。




 三人はコンビニへ寄った。




 それぞれアイスを買う。




 夜風が気持ち良い。




「肝試し後のアイス」




 シルヴァが言う。




「意味分からない」




 ティナが答える。




「意味分からない」




 クジャも続く。




「ロマンだろ」




「便利な言葉だね」




「便利」




 三人は笑った。







 夜。




 部室。




 編集が終わる。




 動画にはシルヴァの悲鳴がしっかり入っていた。




「消そう」




「消さない」




 ティナが即答する。




「消さない」




 クジャも即答だった。




 二対一だった。




 今日も勝てる気がしない。







 投稿後。




 コメント欄。




『シルヴァ弱すぎる』




『クジャが一番怖い』




『平和な肝試しで好き』




『猫でびびるな』




 三人は画面を見ながら笑った。




 登録者は七十九人。




 そして。




 九十七人になった。




「あと三人」




 シルヴァが言う。




 ティナもクジャも画面を見る。




 百人。




 もうすぐだった。




 夏休みが終わる前に届くかもしれない。




 そんな期待を胸に。




 三人は夜の部室を後にした。

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