第7話 放課後海
夏休みも中盤に差しかかっていた。
午後。
映像アーカイ部の部室。
シルヴァはスマホを見ながら首を傾げていた。
「海人気だな」
ティナが覗き込む。
クジャも近付いた。
コメント欄には同じような内容が並んでいる。
『海回やって』
『夏といえば海』
『三人で海行ってほしい』
分かりやすかった。
とても。
「行きたいんじゃない?」
ティナが言う。
「行きたい」
クジャも頷く。
シルヴァは立ち上がった。
「行くか」
「軽いね」
「いつも通り」
三人は笑った。
◇
翌日。
電車の中。
窓の外には青空が広がっている。
海へ向かう電車は思ったより混んでいた。
夏休みだからだろう。
家族連れ。
友達同士。
カップル。
様々な人が乗っている。
「遠足みたいだな」
シルヴァが言う。
「高校生だけどね」
ティナが笑う。
「高校生」
クジャも頷く。
それだけの会話なのに。
少し楽しかった。
◇
海に着いた。
青い空。
青い海。
白い砂浜。
思わず足を止める。
「海だ」
シルヴァが呟く。
「海だね」
「海」
クジャも言う。
夏だった。
間違いなく。
◇
着替えを済ませる。
シルヴァはラッシュガード。
ティナは水色を基調とした水着。
クジャは黒いパーカー付きの水着だった。
シルヴァは少しだけ驚いた。
普段見慣れている制服とは全然違う。
「どうしたの?」
ティナが聞く。
「いや」
少し考える。
「似合ってるなと思って」
ティナが固まる。
数秒。
動きが止まる。
「ありがとう」
少しだけ照れたように笑った。
その様子を見ていたクジャが言う。
「また照れてる」
「照れてない」
「照れてる」
「うるさい」
シルヴァはよく分かっていなかった。
◇
海。
三人は思い切り遊んだ。
ビーチボール。
水の掛け合い。
砂浜。
どれも高校生らしい遊びだった。
そして。
当然のように。
シルヴァは転んだ。
「痛っ」
「弱い」
ティナが笑う。
「弱い」
クジャも言う。
「砂が悪い」
「言い訳」
「言い訳」
二人同時だった。
◇
海の家。
三人は休憩していた。
冷たい飲み物。
かき氷。
潮風。
どれも気持ちいい。
「生き返る」
ティナが言う。
「分かる」
クジャも頷く。
シルヴァはかき氷を食べながら海を見る。
夏休み。
海。
友達。
思い返してみる。
少し前まで。
こんな夏になるとは思っていなかった。
部活にも入っていなかったし。
動画を撮ることもなかった。
でも今は。
それが当たり前になっている。
◇
夕方。
空が少しずつオレンジ色に染まる。
三人は波打ち際を歩いていた。
人も少なくなっている。
波の音だけが静かに聞こえる。
「楽しかったな」
シルヴァが言う。
「うん」
ティナが答える。
「うん」
クジャも頷く。
少しだけ静かな時間だった。
「夏休みって早いよね」
ティナが海を見ながら言う。
「まだあるだろ」
「そうなんだけど」
ティナは笑った。
「気付いたら終わる気がする」
クジャも頷く。
「分かる」
少しだけ静かになる。
だが。
シルヴァは笑った。
「じゃあいっぱい遊ぶか」
ティナも笑う。
「賛成」
「賛成」
クジャも頷いた。
夏休みはまだ続く。
だから。
思い出もまだ増える。
◇
夜。
動画投稿。
コメント欄はいつもより賑やかだった。
『海回最高』
『夏って感じ』
『この三人好き』
『夕方のシーン良かった』
そして登録者。
五十八人。
それが七十九人になっていた。
「七十九人」
シルヴァが言う。
「もう少しで百人だね」
ティナが笑う。
「見えてきた」
クジャも頷く。
百人。
最初は想像もしていなかった数字だった。
だけど。
少しだけ現実味が出てきていた。
映像アーカイ部の夏は、まだ続いていく。




