第5話 放課後夏祭り
夏休み初日。
放課後という言葉が少しだけ変な気がする。
学校はない。
授業もない。
それでも三人はいつものように旧校舎三階へ集まっていた。
映像アーカイ部の部室。
窓の外では蝉が鳴いている。
夏だった。
「夏休みだな」
シルヴァが椅子にもたれる。
「夏休みだね」
ティナも頷いた。
「夏休み」
クジャも言う。
三人は少しだけ笑う。
明日も学校はない。
それだけで少し特別な気分だった。
シルヴァはスマホを取り出した。
「見ろ」
ティナとクジャが覗き込む。
そこには動画のコメント欄。
『夏祭り回やって』
『浴衣見たい』
『夏っぽい企画希望』
そんなコメントが並んでいた。
「分かりやすいね」
ティナが言う。
「分かりやすい」
クジャも頷く。
シルヴァは立ち上がった。
「行くか」
「軽いな」
「いつも通り」
三人は笑った。
◇
夕方。
駅前。
待ち合わせ場所にはシルヴァが先に着いていた。
私服だった。
黒いTシャツにジーンズ。
いつもより少しだけラフな格好。
夏の空気は暑い。
蝉の声が響いている。
しばらくして。
「お待たせ」
声が聞こえた。
振り返る。
そこには浴衣姿のティナが立っていた。
淡い水色の浴衣。
髪も少しだけまとめている。
一瞬。
シルヴァは言葉を失った。
「似合ってる」
思ったことがそのまま口から出た。
ティナは目を丸くする。
「え」
数秒。
動きが止まる。
「浴衣」
シルヴァが付け加える。
ティナは小さく笑った。
「ありがとう」
少しだけ照れているように見えた。
だがシルヴァは気付いていない。
その時だった。
「照れてる」
後ろから声がした。
クジャだった。
黒を基調にした浴衣。
紫の花柄。
左目の眼帯はそのまま。
いかにもクジャらしい。
「照れてない」
ティナが即座に否定する。
「照れてる」
「うるさい」
二人のやり取りを見て。
シルヴァは首を傾げた。
よく分からない。
だが楽しそうだった。
◇
夏祭り会場。
提灯の明かり。
屋台。
人混み。
夏の匂い。
どこを見ても祭りだった。
「夏だな」
シルヴァが言う。
「夏だね」
「夏」
クジャも頷く。
三人とも少しだけテンションが高かった。
たこ焼き。
焼きそば。
りんご飴。
屋台を見て回る。
射的にも挑戦した。
そして当然のように。
シルヴァは負けた。
「難しくないか?」
「知ってた」
「知ってた」
二人の返事は同時だった。
◇
夜。
花火大会の時間が近付く。
人の数も増えていた。
歩くのも少し大変になる。
その時だった。
人の流れでティナが少し遅れる。
シルヴァは振り返った。
「ティナ」
「ん?」
「はぐれるぞ」
自然に腕を引く。
それだけだった。
だがティナは少しだけ驚いた顔をした。
「……うん」
小さく頷く。
シルヴァは気付かない。
クジャだけが見ていた。
「青春」
「うるさい」
ティナが即答する。
シルヴァはやっぱり分かっていない。
◇
河川敷。
花火が始まる。
夜空に大きな光が広がった。
赤。
青。
金色。
次々と咲いては消えていく。
三人は黙って見上げていた。
綺麗だった。
本当に。
「綺麗だな」
シルヴァが呟く。
「うん」
ティナも答える。
「うん」
クジャも頷く。
夏だった。
高校一年生の夏。
今しかない時間だった。
◇
夜。
部室。
クジャが編集を終える。
動画はすぐに投稿された。
コメント欄にはたくさんの反応が並ぶ。
『夏祭り回きた!』
『浴衣いいな』
『花火綺麗だった』
『この三人仲良いな』
三人は画面を見ながら笑った。
そして登録者数。
二十三人。
それが。
四十一人になっていた。
「四十人超えた」
シルヴァが言う。
「すごいね」
ティナも笑う。
「順調」
クジャも頷く。
まだ小さな数字だった。
でも。
三人にとっては十分嬉しい数字だった。
窓の外には夏の夜空。
映像アーカイ部の夏休みは、まだ始まったばかりだった。




