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第33話 春の気配

 二月下旬。




 放課後。




 映像アーカイ部の部室。




 窓から差し込む光が少しだけ変わっていた。







「日が長くなったな」




 シルヴァが窓の外を見る。







「確かに」




 ティナも隣へ来る。







「春」




 クジャが言った。







 まだ寒い。




 でも。




 少しだけ冬の終わりを感じる。







 部室にはいつもの空気が流れていた。







 登録者。




 八百四十一人。







 気付けばかなり増えている。







「千人いけるかな」




 シルヴァが言う。







「いけるんじゃない?」




 ティナが答える。







「たぶん」




 クジャも頷いた。







 最初の頃なら考えられなかった数字だった。







 登録者ゼロ。




 再生数十七回。







 そこから始まった。







 今では毎日コメントが来る。




 楽しみにしてくれる人もいる。







 少し不思議だった。







「なんかやるか」




 シルヴァが立ち上がる。







「雑」







「雑」







 二人が言う。







 だが却下はされない。







 いつものことだった。







 三人は校内を歩く。







 放課後の廊下。




 静かな教室。




 夕方の校庭。







 特別なことは何もない。







 でも。




 それが映像アーカイ部だった。







 中庭へ出る。







 まだ冬の景色。




 だけど。




 花壇の端に小さな花が咲いていた。







「咲いてる」




 ティナが言う。







 シルヴァもしゃがむ。







「本当だ」







 クジャもカメラを向ける。







「春」







 小さな花だった。




 目立たない。




 知らなければ通り過ぎる。







 でも。




 三人は少しだけ立ち止まった。







「こういうの好きだな」




 シルヴァが言う。







「分かる」




 ティナも笑う。







「分かる」




 クジャも頷いた。







 動画になるかどうか。




 再生数が伸びるかどうか。







 それも大事。







 でも。




 こういう何気ないものを見つけるのも好きだった。







 映像アーカイ部だから。







 夕方。







 三人はベンチに座る。







 風はまだ冷たい。




 でも。




 少しだけ優しい。







「もうすぐ一年か」




 ティナが言った。







 静かになる。







 春に出会った。







 夏祭り。




 海。




 花火。




 文化祭。




 クリスマス。




 初詣。







 本当に色々あった。







「早かったな」




 シルヴァが言う。







「早かった」




 クジャも頷く。







 ティナは少しだけ笑う。







「でも良い一年だった」







 シルヴァも頷いた。







「そうだな」







 クジャも言う。







「そう」







 三人は少し笑った。







 夕焼け。




 静かな中庭。




 高校一年生の冬の終わり。







 その景色を。




 クジャのカメラが静かに記録していた。







 夜。




 編集。




 投稿。







 タイトル。







『春の気配』







 コメント欄。




『こういう回好き』




『映像アーカイ部らしい』




『なんか落ち着く』




『もう一年経つのか』




『エモい』







 登録者数。




 八百四十一人。




 ↓




 九百二十六人。







「近いな」




 シルヴァが言う。







「近いね」




 ティナも笑う。







「近い」




 クジャも頷いた。







 千人まで。




 あと少し。







 映像アーカイ部の一年目も。




 あと少しだった。

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