第33話 春の気配
二月下旬。
放課後。
映像アーカイ部の部室。
窓から差し込む光が少しだけ変わっていた。
◇
「日が長くなったな」
シルヴァが窓の外を見る。
◇
「確かに」
ティナも隣へ来る。
◇
「春」
クジャが言った。
◇
まだ寒い。
でも。
少しだけ冬の終わりを感じる。
◇
部室にはいつもの空気が流れていた。
◇
登録者。
八百四十一人。
◇
気付けばかなり増えている。
◇
「千人いけるかな」
シルヴァが言う。
◇
「いけるんじゃない?」
ティナが答える。
◇
「たぶん」
クジャも頷いた。
◇
最初の頃なら考えられなかった数字だった。
◇
登録者ゼロ。
再生数十七回。
◇
そこから始まった。
◇
今では毎日コメントが来る。
楽しみにしてくれる人もいる。
◇
少し不思議だった。
◇
「なんかやるか」
シルヴァが立ち上がる。
◇
「雑」
◇
「雑」
◇
二人が言う。
◇
だが却下はされない。
◇
いつものことだった。
◇
三人は校内を歩く。
◇
放課後の廊下。
静かな教室。
夕方の校庭。
◇
特別なことは何もない。
◇
でも。
それが映像アーカイ部だった。
◇
中庭へ出る。
◇
まだ冬の景色。
だけど。
花壇の端に小さな花が咲いていた。
◇
「咲いてる」
ティナが言う。
◇
シルヴァもしゃがむ。
◇
「本当だ」
◇
クジャもカメラを向ける。
◇
「春」
◇
小さな花だった。
目立たない。
知らなければ通り過ぎる。
◇
でも。
三人は少しだけ立ち止まった。
◇
「こういうの好きだな」
シルヴァが言う。
◇
「分かる」
ティナも笑う。
◇
「分かる」
クジャも頷いた。
◇
動画になるかどうか。
再生数が伸びるかどうか。
◇
それも大事。
◇
でも。
こういう何気ないものを見つけるのも好きだった。
◇
映像アーカイ部だから。
◇
夕方。
◇
三人はベンチに座る。
◇
風はまだ冷たい。
でも。
少しだけ優しい。
◇
「もうすぐ一年か」
ティナが言った。
◇
静かになる。
◇
春に出会った。
◇
夏祭り。
海。
花火。
文化祭。
クリスマス。
初詣。
◇
本当に色々あった。
◇
「早かったな」
シルヴァが言う。
◇
「早かった」
クジャも頷く。
◇
ティナは少しだけ笑う。
◇
「でも良い一年だった」
◇
シルヴァも頷いた。
◇
「そうだな」
◇
クジャも言う。
◇
「そう」
◇
三人は少し笑った。
◇
夕焼け。
静かな中庭。
高校一年生の冬の終わり。
◇
その景色を。
クジャのカメラが静かに記録していた。
◇
夜。
編集。
投稿。
◇
タイトル。
◇
『春の気配』
◇
コメント欄。
『こういう回好き』
『映像アーカイ部らしい』
『なんか落ち着く』
『もう一年経つのか』
『エモい』
◇
登録者数。
八百四十一人。
↓
九百二十六人。
◇
「近いな」
シルヴァが言う。
◇
「近いね」
ティナも笑う。
◇
「近い」
クジャも頷いた。
◇
千人まで。
あと少し。
◇
映像アーカイ部の一年目も。
あと少しだった。




