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第32話 バレンタイン当日

 二月十四日。




 バレンタインデー。







 朝から学校は少し騒がしかった。




 廊下。




 教室。




 昇降口。




 どこか落ち着かない。







 だが。







 シルヴァは特に変わらなかった。







「眠い」







 ティナはため息をつく。







「今日だよ?」







「今日だな」







「鈍感」







 クジャが言った。







「何が?」







「なんでもない」







 いつもの流れだった。







 放課後。




 映像アーカイ部。







 三人は部室へ集まる。







 窓の外はまだ少し明るい。




 春までは遠いが、冬の終わりも近付いていた。







 シルヴァは椅子に座る。







「バレンタインだな」







「今さら?」







 ティナが言う。







「今さら」







 クジャも頷いた。







 シルヴァは首を傾げる。







「なんかあるのか?」







 二人は同時にため息をついた。







 その時だった。







 ティナがカバンから小さな袋を取り出す。







「はい」







 シルヴァは固まる。







「え?」







 ティナは少し視線を逸らした。







「チョコ」







「マジで?」







「マジで」







 シルヴァは袋を受け取る。







 手作りではない。




 市販のチョコだった。







 でも。




 ちゃんとラッピングされている。







「ありがとう」







 シルヴァは素直に笑った。







 本当に嬉しそうだった。







 ティナは少しだけ安心する。







「義理だからね」







「分かってる」







 シルヴァは即答した。







 一瞬。




 ティナの表情が固まる。







 クジャは見ていた。







「重症」







「何が?」







「なんでもない」







 今日も伝わらない。







 それもいつも通りだった。







 その後。




 クジャも小さな袋を出す。







「はい」







「あるの!?」







 シルヴァが驚く。







「ある」







 短い。







 中身はチョコだった。







「ありがとう」







「うん」







 クジャは少しだけ満足そうだった。







 三人は机を囲む。







 チョコを食べる。




 ジュースを飲む。




 動画を撮る。







 特別なことは何もない。







 でも。




 映像アーカイ部らしい時間だった。







 夕方。







 ティナは窓の外を見る。







 義理。







 そう言った。







 間違ってはいない。







 でも。




 それだけでもなかった。







 ただ。




 今はまだそれで良かった。







 クジャはそんなティナを見る。







「青春」







「うるさい」







 今日だけで三回目だった。







 シルヴァはやっぱり分かっていない。







 三人は笑った。







 夜。




 編集。




 投稿。




 タイトル。







『バレンタイン当日』







 コメント欄。




『ティナ頑張った』




『義理じゃないだろ』




『シルヴァ鈍感すぎる』




『クジャが全部分かってる』




『青春だなぁ』







 登録者数。




 七百八十二人。




 ↓




 八百四十一人。







「八百人超えたな」




 シルヴァが言う。







「千人見えてきたね」




 ティナが笑う。







「見えてきた」







 クジャも頷く。







 冬の終わり。




 映像アーカイ部の放課後は今日も続いていた。




 そして。




 少しだけ春が近付いていた。

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