第32話 バレンタイン当日
二月十四日。
バレンタインデー。
◇
朝から学校は少し騒がしかった。
廊下。
教室。
昇降口。
どこか落ち着かない。
◇
だが。
◇
シルヴァは特に変わらなかった。
◇
「眠い」
◇
ティナはため息をつく。
◇
「今日だよ?」
◇
「今日だな」
◇
「鈍感」
◇
クジャが言った。
◇
「何が?」
◇
「なんでもない」
◇
いつもの流れだった。
◇
放課後。
映像アーカイ部。
◇
三人は部室へ集まる。
◇
窓の外はまだ少し明るい。
春までは遠いが、冬の終わりも近付いていた。
◇
シルヴァは椅子に座る。
◇
「バレンタインだな」
◇
「今さら?」
◇
ティナが言う。
◇
「今さら」
◇
クジャも頷いた。
◇
シルヴァは首を傾げる。
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「なんかあるのか?」
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二人は同時にため息をついた。
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その時だった。
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ティナがカバンから小さな袋を取り出す。
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「はい」
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シルヴァは固まる。
◇
「え?」
◇
ティナは少し視線を逸らした。
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「チョコ」
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「マジで?」
◇
「マジで」
◇
シルヴァは袋を受け取る。
◇
手作りではない。
市販のチョコだった。
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でも。
ちゃんとラッピングされている。
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「ありがとう」
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シルヴァは素直に笑った。
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本当に嬉しそうだった。
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ティナは少しだけ安心する。
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「義理だからね」
◇
「分かってる」
◇
シルヴァは即答した。
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一瞬。
ティナの表情が固まる。
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クジャは見ていた。
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「重症」
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「何が?」
◇
「なんでもない」
◇
今日も伝わらない。
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それもいつも通りだった。
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その後。
クジャも小さな袋を出す。
◇
「はい」
◇
「あるの!?」
◇
シルヴァが驚く。
◇
「ある」
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短い。
◇
中身はチョコだった。
◇
「ありがとう」
◇
「うん」
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クジャは少しだけ満足そうだった。
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三人は机を囲む。
◇
チョコを食べる。
ジュースを飲む。
動画を撮る。
◇
特別なことは何もない。
◇
でも。
映像アーカイ部らしい時間だった。
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夕方。
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ティナは窓の外を見る。
◇
義理。
◇
そう言った。
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間違ってはいない。
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でも。
それだけでもなかった。
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ただ。
今はまだそれで良かった。
◇
クジャはそんなティナを見る。
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「青春」
◇
「うるさい」
◇
今日だけで三回目だった。
◇
シルヴァはやっぱり分かっていない。
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三人は笑った。
◇
夜。
編集。
投稿。
タイトル。
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『バレンタイン当日』
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コメント欄。
『ティナ頑張った』
『義理じゃないだろ』
『シルヴァ鈍感すぎる』
『クジャが全部分かってる』
『青春だなぁ』
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登録者数。
七百八十二人。
↓
八百四十一人。
◇
「八百人超えたな」
シルヴァが言う。
◇
「千人見えてきたね」
ティナが笑う。
◇
「見えてきた」
◇
クジャも頷く。
◇
冬の終わり。
映像アーカイ部の放課後は今日も続いていた。
そして。
少しだけ春が近付いていた。




