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第31話 バレンタイン前日

 二月十三日。




 放課後。




 学校の空気は少しだけいつもと違っていた。







 廊下。




 教室。




 階段。




 どこか落ち着かない。







「なんか騒がしいな」




 シルヴァが言う。







「明日だからじゃない?」




 ティナが答える。







「明日」




 クジャも言う。







 明日。




 二月十四日。




 バレンタインデーだった。







「そうか」







 シルヴァは納得する。







 だが。




 それ以上は特に気にしていない。







 ティナは少しだけため息をついた。







 クジャは見ていた。







「鈍感」







「何が?」







「なんでもない」







 クジャはそれ以上言わなかった。







 放課後。




 映像アーカイ部。







 三人はいつものように部室へ集まる。







 コメント欄。







『バレンタイン回やって』




『チョコ企画』




『季節イベント期待』







「期待されてるな」




 シルヴァが言う。







「されてるね」







「されてる」







 クジャも頷く。







「でも明日じゃないと意味なくないか?」







「それはそう」







「そう」







 結論は出た。







 今日は準備回だった。







 三人は校内を歩く。




 撮影しながら。




 いつも通り。







 教室では女子生徒たちが何か話している。







 バレンタイン。




 チョコ。




 そんな単語が聞こえてくる。







 ティナは少しだけ視線を逸らした。







 シルヴァは特に気にしていない。







 クジャだけが見ている。







 そして。







「青春」







「うるさい」







 今日も即答だった。







 夕方。




 三人は部室へ戻る。







 窓の外はオレンジ色。




 冬の夕焼けだった。







「明日何する?」




 シルヴァが聞く。







「バレンタイン」







 ティナが答える。







「そのままだな」







「そのまま」







 クジャも言う。







 三人は笑った。







 帰り道。







 ティナは少しだけ考えていた。







 明日。







 どうしようか。







 別に特別な意味はない。




 たぶん。







 でも。




 少しだけ悩んでいた。







 その隣では。







 シルヴァがコンビニの新作チョコを見ていた。







「美味そう」







 ティナは呆れる。







「そういうとこだよ」







「?」







 意味は伝わっていなかった。







 クジャは静かに頷く。







「重症」







「何が?」







「なんでもない」







 今年も平和だった。







 夜。




 動画投稿。




 タイトル。







『バレンタイン前日』







 コメント欄。




『明日楽しみ』




『シルヴァ気付いてない』




『クジャが全部分かってる』




『青春だな』




『次回待機』







 登録者数。




 七百三十五人。




 ↓




 七百八十二人。







 バレンタイン当日。




 映像アーカイ部の冬は、もう少しだけ続く。

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