第31話 バレンタイン前日
二月十三日。
放課後。
学校の空気は少しだけいつもと違っていた。
◇
廊下。
教室。
階段。
どこか落ち着かない。
◇
「なんか騒がしいな」
シルヴァが言う。
◇
「明日だからじゃない?」
ティナが答える。
◇
「明日」
クジャも言う。
◇
明日。
二月十四日。
バレンタインデーだった。
◇
「そうか」
◇
シルヴァは納得する。
◇
だが。
それ以上は特に気にしていない。
◇
ティナは少しだけため息をついた。
◇
クジャは見ていた。
◇
「鈍感」
◇
「何が?」
◇
「なんでもない」
◇
クジャはそれ以上言わなかった。
◇
放課後。
映像アーカイ部。
◇
三人はいつものように部室へ集まる。
◇
コメント欄。
◇
『バレンタイン回やって』
『チョコ企画』
『季節イベント期待』
◇
「期待されてるな」
シルヴァが言う。
◇
「されてるね」
◇
「されてる」
◇
クジャも頷く。
◇
「でも明日じゃないと意味なくないか?」
◇
「それはそう」
◇
「そう」
◇
結論は出た。
◇
今日は準備回だった。
◇
三人は校内を歩く。
撮影しながら。
いつも通り。
◇
教室では女子生徒たちが何か話している。
◇
バレンタイン。
チョコ。
そんな単語が聞こえてくる。
◇
ティナは少しだけ視線を逸らした。
◇
シルヴァは特に気にしていない。
◇
クジャだけが見ている。
◇
そして。
◇
「青春」
◇
「うるさい」
◇
今日も即答だった。
◇
夕方。
三人は部室へ戻る。
◇
窓の外はオレンジ色。
冬の夕焼けだった。
◇
「明日何する?」
シルヴァが聞く。
◇
「バレンタイン」
◇
ティナが答える。
◇
「そのままだな」
◇
「そのまま」
◇
クジャも言う。
◇
三人は笑った。
◇
帰り道。
◇
ティナは少しだけ考えていた。
◇
明日。
◇
どうしようか。
◇
別に特別な意味はない。
たぶん。
◇
でも。
少しだけ悩んでいた。
◇
その隣では。
◇
シルヴァがコンビニの新作チョコを見ていた。
◇
「美味そう」
◇
ティナは呆れる。
◇
「そういうとこだよ」
◇
「?」
◇
意味は伝わっていなかった。
◇
クジャは静かに頷く。
◇
「重症」
◇
「何が?」
◇
「なんでもない」
◇
今年も平和だった。
◇
夜。
動画投稿。
タイトル。
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『バレンタイン前日』
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コメント欄。
『明日楽しみ』
『シルヴァ気付いてない』
『クジャが全部分かってる』
『青春だな』
『次回待機』
◇
登録者数。
七百三十五人。
↓
七百八十二人。
◇
バレンタイン当日。
映像アーカイ部の冬は、もう少しだけ続く。




