第34話 卒業式の日
三月。
卒業式の日。
◇
空はよく晴れていた。
少しだけ暖かい。
春が近付いていた。
◇
シルヴァたち一年生は教室にいた。
卒業するのは三年生だ。
だから主役ではない。
◇
それでも。
学校全体が少し特別な空気だった。
◇
廊下。
教室。
体育館。
◇
どこか静かだった。
◇
「卒業か」
シルヴァが窓の外を見る。
◇
「卒業だね」
ティナも言う。
◇
「卒業」
クジャも頷いた。
◇
三人にはまだ実感がない。
一年生だから当然だった。
◇
だが。
今日の空気は少し違う。
◇
卒業式が終わる。
◇
三年生たちが校舎から出てくる。
後輩たち。
友達。
先生。
◇
たくさんの人に囲まれている。
◇
笑顔もある。
泣いている人もいる。
◇
別れの日だった。
◇
三人は少し離れた場所から見ていた。
◇
クジャはカメラを回している。
◇
静かな映像。
◇
派手なものはない。
◇
でも。
記録として残したかった。
◇
「なんか不思議だな」
シルヴァが言う。
◇
「何が?」
ティナが聞く。
◇
「今日で終わりなんだろ」
◇
卒業。
◇
学校へ来ることも。
部活へ行くことも。
毎日の当たり前も。
◇
全部終わる。
◇
「そうだね」
ティナも少しだけ空を見る。
◇
春は出会いの季節。
でも。
別れの季節でもある。
◇
クジャは小さく言った。
◇
「だから記録」
◇
シルヴァは少し笑う。
◇
「映像アーカイ部だもんな」
◇
クジャも少し笑った。
◇
◇
夕方。
◇
三人は中庭のベンチに座っていた。
◇
卒業式の日の学校は静かだった。
◇
もう帰った人も多い。
◇
風だけが吹いている。
◇
「来年は二年生か」
ティナが言う。
◇
「早いな」
◇
「早い」
◇
クジャも頷く。
◇
春に出会った。
◇
気付けば一年が終わろうとしている。
◇
本当に早かった。
◇
「でも」
シルヴァが立ち上がる。
◇
「まだ終わってないだろ」
◇
ティナが少し笑う。
◇
「そうだね」
◇
クジャも頷いた。
◇
「まだ」
◇
三人は一年生だった。
◇
卒業するわけじゃない。
◇
だから。
まだ続く。
◇
映像アーカイ部も。
放課後も。
思い出も。
◇
◇
夜。
部室。
◇
編集。
投稿。
◇
タイトル。
◇
『卒業式の日』
◇
コメント欄。
◇
『泣きそうになった』
『記録って大事だな』
『映像アーカイ部らしい回』
『春が来るんだな』
『エモかった』
◇
登録者数。
九百二十六人。
↓
九百八十五人。
◇
「あと少し」
シルヴァが言う。
◇
「本当にあと少しだね」
ティナが笑う。
◇
「近い」
クジャも頷いた。
◇
千人。
◇
春に始まった目標ではない。
◇
でも。
いつの間にか見える場所まで来ていた。
◇
窓の外。
春の夜空。
◇
映像アーカイ部の一年目は。
もうすぐ一つの節目を迎えようとしていた。




