第2話 最初の動画
映像アーカイ部に入部してから三日が経った。
放課後。
シルヴァはいつものように旧校舎三階の部室へ向かう。
扉を開けると、ティナは机に突っ伏していた。
クジャはパソコンを触っている。
いつも通りの光景だった。
だが、シルヴァはあることに気付く。
「そういえば」
二人が顔を上げる。
「まだ動画撮ってなくない?」
部室が静かになった。
ティナが瞬きをする。
「確かに」
クジャも頷いた。
「確かに」
映像アーカイ部。
名前に映像と付いている。
なのにまだ一本も動画を撮っていない。
シルヴァは思わず笑った。
「活動してないじゃん」
「してるよ」
「何を?」
「雑談」
ティナは真面目な顔で答えた。
シルヴァは呆れる。
クジャも小さく頷く。
「雑談」
「部活じゃないだろ」
三人は笑った。
するとティナが立ち上がる。
「じゃあ今日は撮ろう」
「何を?」
「それは今から考える」
思ったより無計画だった。
だが楽しそうだった。
三人はカメラを持って部室を出る。
放課後の校内。
運動部の声が響く。
吹奏楽部の演奏も聞こえる。
どこにでもある高校の放課後だった。
「何か面白いことないかな」
ティナが辺りを見回す。
クジャはカメラを構えている。
シルヴァも校庭へ目を向けた。
その時だった。
「いたぞー!」
遠くから先生の声が聞こえた。
続いて生徒たちの笑い声。
三人は顔を見合わせる。
何かあった。
そう思った。
校庭へ向かう。
すると一匹の犬が全力で走っていた。
首輪は付いている。
だが自由だった。
とても自由だった。
「犬だ」
ティナが言う。
「犬」
クジャも言う。
間違いなく犬だった。
そして次の瞬間。
シルヴァは走り出していた。
「撮るぞ!」
「待って!」
ティナも追いかける。
クジャは無言で撮影を続ける。
犬。
先生。
生徒。
そして三人。
校庭は少しだけ騒がしくなった。
結局、犬は飼い主らしい先生に回収された。
大事件にはならなかった。
だが。
三人には十分面白かった。
ベンチに座りながら息を整える。
夕日が校庭を照らしていた。
「撮れた?」
ティナが尋ねる。
クジャは映像を確認した。
「撮れた」
「おお」
シルヴァは画面を覗き込む。
犬を追いかける自分。
慌てるティナ。
無言で撮り続けるクジャ。
思ったより面白かった。
少なくとも自分たちは笑えた。
部室へ戻る。
クジャは編集を始めた。
映像が少しずつ一本の動画になる。
シルヴァは初めてその作業を見ていた。
何気ない出来事が。
動画になるだけで少し特別に見える。
それが不思議だった。
一時間後。
動画が完成する。
タイトルはシンプルだった。
『学校に犬がいた』
ティナらしい。
いや。
三人ともこういうのが好きなのだろう。
そして投稿ボタンを押す。
画面が切り替わる。
動画が公開された。
再生数はゼロ。
登録者もゼロ。
それでも三人は少し嬉しかった。
これが映像アーカイ部の最初の動画だからだ。
夕焼けが部室を赤く染める。
三人の放課後は、まだ始まったばかりだった。




