第1話 旧校舎三階の部室
高校に入学して一週間。
風見シルヴァは放課後の教室で窓の外を眺めていた。
春の日差しは暖かい。
校庭では運動部の声が聞こえる。
友達はできた。
授業にも慣れてきた。
だが、部活だけはまだ決まっていなかった。
帰宅部でも構わないと思っていたが、放課後になると少し時間を持て余す。
その日も特に予定はなかった。
だから何となく校内を歩いていた。
気付けば旧校舎へ続く渡り廊下の前に立っていた。
旧校舎は今でも使われているが、人は少ない。
文化部の部室がいくつかある程度だ。
シルヴァは少しだけ興味を持った。
そして足を踏み入れる。
古い階段を上り、三階へ向かう。
一番奥の教室の前で足が止まった。
扉には小さなプレートが掛けられている。
そこにはこう書かれていた。
『映像アーカイ部』
聞いたことのない部活だった。
少なくとも部活動紹介では見た覚えがない。
何をする部活なのかも分からない。
だが、それが少し気になった。
シルヴァは扉を開ける。
ガラッという音が静かな廊下に響いた。
部室の中には二人の女子生徒がいた。
一人は茶髪の少女。
もう一人は紫髪で左目に眼帯を付けた少女だった。
二人ともこちらを見る。
しばらく沈黙が続く。
先に口を開いたのはシルヴァだった。
「すみません。間違えました」
静かに扉を閉めようとする。
すると茶髪の少女が勢いよく立ち上がった。
「待って!」
思わず手が止まる。
「入部希望?」
「違う」
「違うんだ」
少女は露骨に残念そうな顔をした。
隣の眼帯の少女がぽつりと言う。
「いつもの」
「いつものだね」
どうやら部員集めに苦戦しているらしい。
シルヴァは改めて部室の中を見回した。
机が三つ。
ノートパソコン。
カメラ。
三脚。
棚にはSDカードや機材が並んでいる。
予想していた文化部の部室とは少し違った。
「ここって何する部活なんですか?」
その質問に茶髪の少女の表情が明るくなる。
「動画を撮る部活だよ」
「動画?」
「うん。放課後にあった面白いこととか、楽しかったこととか」
少女は机の上のカメラを持ち上げた。
「そういうのを動画にして残すの」
「なるほど」
少しだけ興味が湧く。
眼帯の少女が続けた。
「記録」
「記録?」
「思い出」
短い言葉だった。
だが不思議と分かりやすかった。
思い出を動画として残す。
それが映像アーカイ部らしい。
「自己紹介しようよ」
茶髪の少女が笑顔で言った。
「私は朝日ティナ」
明るく元気な声だった。
続いて眼帯の少女。
「月影クジャ」
短い。
本当に短い。
二人の視線がシルヴァへ向く。
「風見シルヴァです」
名乗った瞬間だった。
ティナが満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ今日から三人だね!」
「いや、まだ入るとは」
「でも興味あるでしょ?」
図星だった。
少なくとも少しは気になっている。
クジャも小さく頷いた。
「顔に出てる」
「そんなに?」
「出てる」
即答だった。
二対一。
勝てる気がしない。
シルヴァは窓の外を見る。
夕焼け。
静かな旧校舎。
古い部室。
そして楽しそうな二人。
悪くないかもしれない。
本当に少しだけ、そう思った。
「じゃあ……よろしくお願いします」
一瞬でティナの顔が明るくなる。
「やった!」
クジャも小さく頷いた。
「部員」
「部員だね」
二人は嬉しそうだった。
その様子を見ていると、シルヴァまで少し笑ってしまう。
こうして風見シルヴァは映像アーカイ部に入部した。
まだ誰も知らない。
この部室で過ごす一年間が、かけがえのない思い出になることを。
そしてその思い出を、三人で動画として残していくことを。
夕日が差し込む旧校舎三階。
映像アーカイ部の活動が、静かに始まった。




