第12話 文化祭前日
文化祭前日。
学校全体がいつもより騒がしかった。
教室には段ボール。
廊下には装飾。
どこを見ても準備中だった。
授業もどこか上の空。
先生ですら少し楽しそうに見える。
文化祭前日の独特な空気だった。
◇
放課後。
映像アーカイ部の三人も準備風景を撮影していた。
カメラ越しに見る学校は少し違って見える。
昨日まで普通だった廊下。
普通だった教室。
それが少しずつ文化祭仕様になっていく。
「明日なんだな」
シルヴァが言う。
「早いね」
ティナが答える。
「早い」
クジャも頷いた。
◇
三人は校内を歩く。
体育館ではステージ準備。
中庭では看板作り。
各クラスも最後の仕上げに入っていた。
忙しそうだ。
でもみんな楽しそうだった。
「文化祭って感じするな」
シルヴァが言う。
「するね」
「する」
クジャも頷く。
◇
夕方。
準備も終盤に差し掛かる。
三人は自分たちの教室へ戻った。
クラスメイトたちは最後の確認をしている。
そんな中。
ティナが脚立に乗って装飾を付けていた。
だが。
少し高い。
手が届きそうで届かない。
「んー……」
背伸びをする。
それでも届かない。
すると。
後ろから手が伸びた。
シルヴァだった。
ひょいと飾りを受け取る。
「ここ?」
「え?」
「この辺でいい?」
「う、うん」
あっさり届いた。
身長差だった。
シルヴァはそのまま飾りを取り付ける。
「終わり」
「ありがとう」
「どういたしまして」
それだけだった。
本当にそれだけ。
だが。
ティナは少しだけ視線を逸らした。
クジャはそれを見ていた。
「青春」
「うるさい」
即答だった。
シルヴァだけ何も分かっていない。
◇
気付けば外は夕焼けだった。
準備も終わる。
教室には達成感が漂っていた。
誰かが拍手をする。
それにつられて拍手が広がる。
文化祭前日。
毎年ある光景。
でも。
高校一年生の今年は一回しかない。
◇
映像アーカイ部の三人は部室へ戻った。
撮影した映像を確認する。
準備風景。
笑顔。
失敗。
雑談。
どれも文化祭らしかった。
「いい動画になりそう」
ティナが言う。
「なる」
クジャも頷く。
シルヴァは映像を見ながら笑った。
何気ない準備の日。
でも。
後から見返したら。
きっと思い出になる。
映像アーカイ部はそういう部活だった。
◇
動画投稿。
タイトル。
『文化祭前日』
シンプルだった。
◇
夜。
コメント欄。
『前日の雰囲気好き』
『明日楽しみだな』
『文化祭回待ってる』
『青春してる』
三人はコメントを見ながら笑う。
登録者は百十二人。
百二十六人になっていた。
「地味に増えてるな」
シルヴァが言う。
「ありがたいね」
ティナも笑う。
「ありがたい」
クジャも頷いた。
◇
帰り道。
夜風が少し涼しい。
明日は文化祭。
高校生にとって特別な一日。
そして。
映像アーカイ部にとっても特別な動画の日だった。
少しだけ期待しながら。
三人は家路についた。




