表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/46

第9話 先生

閲覧ありがとうございます!

 

 お昼休みに裏庭を歩いていた肌寒いある日。入学して既に数か月が経っていた。

 私は不意に、よく通る女性の声に呼び止められた。


「あ、ちょっとそこのあなた!」

「っえ」


 声の主は、厳格で有名なメリッサ先生だった。長い紺の髪を高く括り、紫色の口紅をした彼女は、歯に衣を着せぬ物言いが特徴でスパルタ女教師として陰で恐れられている存在だ。

 そんな彼女から勢いよく声を掛けられた。嫌な予感しかしない。

 何かしてしまっただろうか。不安がどっと押し寄せる。


「クラス10のレラさん、よね?」

「は、い」

「この前のレポートに関して、聞きたいことがあるのだけど。この後お時間ある?」

「え、は、はい」

「じゃあ、ちょっと私の研究室まで来て頂戴」


 言うや否や、ギラギラ輝くヒールを高らかに鳴らしながら、彼女はさっさと歩き出す。スパルタ女教師に連行される私の姿を見た数名がヒソヒソと何かを言い合っている。ぎゅ、と目を瞑って必死に彼女の後を追いかけた。


 ドカッと椅子に座った彼女は、私に対して真向かいの椅子に座る様手で示した。その手にいくつもの擦り傷が出来ていたのが、少し意外だった。

 私が腰を降ろすか下ろさないかのうちに、彼女が前のめりになって紫の口を開く。緑色をした瞳孔が広がっているようにも見えて、非常に怖い。


「この前の『風魔法を起こす過程と心理』についてのレポートに関してなのだけれど、どうしてあの内容を提出したの?あぁ、別に叱責するつもりはないから安心して。あなたのレポートが個人的にものすごく引っかかったの。他の先生は気にも留めていないって言うか、多分あれは全員分読んでさえ無いわね。仕方ないわ。だって、何百という人間が一斉に提出してくるのだものね。……ええと、話が逸れたわ。私が言いたいのはね、特にあなたは魔力を持たないって言うじゃない?だからこそのあのレポート内容なのか、はたまた適当に書いたのか。適当に書いたとしてもね、私は非常に興味深いのよ。なぜって、あまりに突飛すぎるから!」

「え……」

「聞かせて。どうして魔力の5要素の性質を変えるタイミングが、自分の魔力を外に魔力を放出する時ではなくて、外にある魔力に作用する時だと考えたの?一般的なイメージとしては、魔法とは既にあるものを大きくして使うって感覚なのよ。でも、あなたは無い所から魔法を生み出そうとしている。論理的には可能かもしれないけれど、物理的に無理だと思われているのよね。……で、こんな突拍子もない発想を出来るのはあなたが魔力を持っていない人間だからか?はたまた……」


 と、メリッサ先生が厳つい表情をしたまま口を閉じた。

 と思いきや。彼女は不意にガバっと立ち上がり、本棚から古びた一冊の本を取り出した。

 ドカッとソファに座り込むも、私の目の前に丁寧に本を広げる。細長くて美しい、傷だらけの指が用紙の上をスゥっとなぞる。


「お伽噺のような話になってしまうのだけどね、古代魔法にはそれが可能だったと言われている。……でも古代魔法を使える人間は、過去に厳しい迫害に遭ったせいで現在は存在しないとされているの。そして……、彼らの特徴は透き通る頭髪」


 メリッサ先生がパラパラとめくるページに一瞬、宝石のような絵が映った。ドキリと心臓が跳ね上がる。本に夢中の彼女は、私の異変に気付かない。


「教えて頂戴。レラさんは魔法が使えないのかしら?それとも、あえて使わないのかしら?」


 彼女の目が怪しく光る。紫の唇がギュッと閉じ、私の言葉を待っている。

 どうしよう。どうしよう。彼女の眼光を直接見ることが出来ず、俯いてしまった。


「あら、怖がらないで。私はレラさんを責めたりしてないわ。ただ、私は死ぬまでに一度でいいから見てみたいの。レラさんが考える方法での魔法を使える人間を。誰しもお伽噺を夢見るわ。だから信じている。古代魔法はまだこの世に存在しているって。……私って面倒くさい人間でね、不可能だと笑われることを恥ずかしいと思えないの」


 少女のように切なく笑い、メリッサ先生は本を閉じた。その本の表紙には紫の宝石が埋まっていた。

 私の視線に気が付いた彼女が、宝石を見つめてぽつぽつと呟いた。


「この本はね、私の祖先から受け継いでいる家宝。私は、『古代魔法』を使う人たちを探している一族なのよ。幼い頃の私は家族に騙されているんだと思って古代魔法を信じなかったけれど、この本を読んで考えがガラリと変わったわ。歴史が、あるのよ」


 メリッサ先生が目を瞑り、そして立ち上がる。


「いきなりごめんなさいね。私ってかなりせっかちなの。とりあえず、私はあなたに聞きたいことが沢山ある。今すぐに全部言わなくていいわ。私の事を少しずつ知って、信用に値する人間だと判断してくれたら……教えて頂戴」

「は、はい」

「ありがとう。嬉しいわ」


 彼女が妖艶に微笑んだのと同時に、昼休み終了が近付いているチャイムが鳴った。

 響き渡る鐘の音を聞きながら、私はメリッサ先生のことを考えていた。



読んでいただきありがとうございました!

メリッサ先生は早口です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ