第10話 開示
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「古代魔法……。古代……」
膨大な蔵書数を誇る図書館を歩き回ること10分。
同じ景色が続いて迷子になりかけたその時、私はお目当てのコーナーをようやく見つけることが出来た。
「あった。『古代魔法とその歴史~お伽噺から紐解く~』」
古代魔法を研究している機関の本らしい。
それほどページ数もなく、このまま図書館内のスペースで読んでしまうことにした。
――古代魔法とは、無から有を生み出す禁忌の術とされている。
『その力は人智を越えており、古くから自然の摂理を捻じ曲げる神の力であると崇められていた。
古代魔法の使い手は、その力を救済のために用いた。
しかし無論、次第にその強大な力を政に利用しようと企むものが現れた。
その申し出と共に差し出された金銀財宝をにべもなく断った彼ら一族は利用不可と判断され、手に入らないならばいっそ、と厳しい迫害を受けた。
奸計において数枚上手だった相手は、裏切りと脅迫によって一族を滅亡に追いやった。
(以来、【古代魔法=禁忌】という認識が広まったとされている)
一族を保護する謎の団体の援助によって彼らの少数が生き残ることが出来たそうだが、現代において古代魔法を使えるという人間は存在しない。
――はたしてそもそも古代魔法は存在しないのか?
しかし、『妖精姫・レラシャナク』には実際の土地名を用いた物語が綴られており、ヴァンガーディ王国の国宝とされている【妖精姫の嬉涙】と完全に一致する宝石が登場する。
その宝石は拳ほどの大きさで、透き通った七色の輝きをもつ。
一族の身の安全を守ってくれたとある騎士に、レラシャナクが感謝の証として作成したものだ。
レラシャナクが妖精『姫』と呼ばれる所以は、彼女が透き通った髪を持つ(この特徴は古代魔法使用の特徴だ。体内を流れる彼らの魔力は色素を持たない)大層美しい女性であったからとされている。
――本来、妖精の間に貴賤・善悪は無く、生命は須らく平等なのだ』
「妖精姫……レラシャナク」
過去にフォード家の屋敷で読んだことがある。ユージンがつけてくれた私の呼称の元ネタだ。
あのお話が現代にリンクする部分があるなんて思いもしなかった。
妖精姫の嬉涙。ヴァンガーディ王国の国宝。
一度でいいから見てみたいな。
「古代魔法に興味を持ってくれたのね?」
「うわっ!!」
図書館だからか、普段よりやや控えめなよく通る声が鼓膜をついた。
顔を上げると、古代魔法に熱心な先生が爛々とした瞳でこちらを凝視している。
「その本を読んでいたら分かると思うけれど、レラさんの魔力も色素を持たないと思うの。入学時に魔力を測定したじゃない?その機械が反応しなかったのは、古代魔法の魔力性質のせいだと考えているのよね。ねぇ酷いわよね?あの測定器は、古代魔法を持つ人間をあえて想定していないのよ。だから、あなたは魔法が使えるにも関わらず問答無用でクラス10になった。違う?」
「えっ」
「あら、これは聞かなかったことにして頂戴。あれって私の愚弟が作成したポンコツ測定器なの。本当、アイツの才能って無駄なところにこだわるんだから!」
「古代魔法を想定していない……どうしてそんなことを……?」
「……あまり私達のことを深く話すことは出来ないのだけれど、私が隠し事をしていたらレラさんも心を閉ざしちゃうわね。――私達は古代魔法の使い手を探し、見つけ出し保護するのを目的とする団体の末裔なの」
メリッサ先生のポニーテールが風に揺られた。今まで見せなかった決意の表情をしている。
彼女とばっちり視線が交わった。新緑の賢そうな瞳が、どこか懐かしい。
「古代魔法を悪用している人間が今も尚存在していることは分かっている。だから、私達はあの悲劇を二度と繰り返してはいけない」
「悲劇……」
「えぇ。古代魔法は無限の創造性を持つ。ゼロから金銀財宝を作り出すことだって不可能ではない。そして残念なことに、彼らは悪人に目をつけられてしまった。日々搾取され続け、魔力が尽きたら使い捨てられた。法律が整う前に古代魔法の使い手は絶滅したとされている。でも微かに彼らの魔力が込められた商品が市場を出回っていることがあるの。もしかしたら、過去の創造物かもしれないし、まだ生存者がいるかもしれない。可能性がある限り、私達は活動を諦めてはいけない」
「どうしてそこまで……」
そこまで決意を固められるのだろう。いるかも分からない未知の存在に対して、なぜそこまで真剣に考えることが出来るのだろう。
言葉が見つからないレラをよそに、メリッサ先生はふと窓の外を見て言葉を紡いだ。開いた窓の外は夜が近い薄紫色をしている。そよ風が心地よい。
「質問の答えから逸れちゃったわね。魔力測定器が古代魔法を想定していない……いいえ、むしろ炙りだしている理由。それは、古代魔法を扱える人物を見つけ出すためよ」
「……!」
「当然、私はあなたに目をつけたわ。魔法を使おうとする人間ならば皆、存在している魔力を変えることしかできない。大なり小なり、測定器が反応しなければおかしい。反応しないことはあり得ないのよ。その事実を知っているのは、『護衛人』である私達だけ。もう、分かるわよね」
メリッサ先生の横顔は、誰かに似ている。
深緑のように静かで神秘性のある叡智を宿した瞳に、澱みの無い落ち着いた口調。
そんなことを考えていると、不意にメリッサ先生がこちらを向いて私の髪に触れた。
「私はあなたを護るわ。安心して学校生活を全うできるように。生意気な弟からもお願いされちゃったのよ」
メリッサ先生が私の手を握る。少し骨ばってて、温かくて、傷だらけの優しい手。
「安心して頂戴。私はあなたの日常を奪うつもりは無いわ。ただレラさんの正体がバレないように、あいつらに見つからないように、影からそっと見守るだけ」
「あいつら……?」
「古代魔法を悪用する奴らよ。そこら中にいるわ。もしかしたら、学校内にも根を張っているかもしれない。私達がなぜ、絶滅したと言われている古代魔法の使い手を未だに探しているのか?それは、まだ悪がのさばっているから。つまり、まだ古代魔法を使える人間が生きている。奴らはレラさんやその仲間達を現代になって尚、私利私欲のために見つけ出そうとしているの。そいつらが根絶やしにならない限り、私達は活動を辞めることは無いわ」
強い風が吹いた。メリッサ先生のポニーテールが大きく乱れ、彼女の首元が露になった。
大きな傷跡が残っている。メリッサ先生は傷跡を隠すようにそっと触れ、薄い笑みを浮かべた。
「どうしてそこまで関係ない人達のために動けるんですか?メリッサ先生達に見返りは無いかもしれないのに」
私を助けたとて、何もしてあげられない。私がしてあげられることと言えば、宝石を作って稼ぐことだけ。
しかし、彼女らに金銀財宝は価値がないのだと、緑の瞳から伝わる。それ以外の見返りとは何か?
メリッサ先生からの答えはすぐに得ることができた。
「知りたいから。古代魔法の原理、法則、遺伝との関連性。それらを理解し、さらなる魔法の深淵に近づく事こそが、私達の真の目的。残念ながら、私達は完全な善人じゃないわ。己の知的欲求のためにあなたを保護……いえ。確保、しようとしている。失望した?」
彼女はこちらを伺うようにチラリと視線を寄こした。その視線から目を逸らすことは出来ない、と感じた。
「いえ。むしろ、メリッサ先生を信用できるような気がします」
「ありがとう。レラさんさえよければ、定期的に私の研究室に来て頂戴。そこで古代魔法を見せて貰う代わりに、私は知っている情報を貴方に伝える。私達一族は歴史が古いから、有用な情報をいくつかもたらせると思うわ。……どうかしら?」
「私の話し相手になってくれるなら、喜んで」
メリッサ先生は目を瞬かせ、私の手を優しく握った。
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