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第44話 終幕

閲覧ありがとうございます!

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。

 


「えぇ~! あのアルトリウスが!」


 ユージンの店に足を運んだレラが事の顛末を話すと、彼は驚き安心したように笑った。

 あれからアルトリウスは少しずつ変化し始めたのだ。


「アルトリウスに君の言葉が届いてよかったよ。僕らがいくら言っても無視されたのは、かなり腹立たしいけれど。まぁ、彼が変わるきっかけになればいいかな」

「前よりね、私も自由になったの」

「へぇ。大嫌いって言葉が相当響いたようだね」

「そうかなぁ」


 事態は進展したが、まだすべては解決していない。

 次はクラリス様を解放しないと。


「やりますね。流石俺が見込んだ女性です」


 店内にいたハンスが、手を振った。表情が柔らかく、見知った彼に戻ってきた気がする。


「最近、暇なんですよー。アルトリウス様はクラリス嬢を連れまわしているみたいだし。俺は彼女に助けられているんです。情けない事に」

「クラリスは元から君の事を案じていた。彼女にはハンスの笑顔が一番効くだろうね」


 ユージンの言葉に、ハンスが気まずそうに顔を逸らした。


「あ、あぁ。そうですね。意外でした。その、クラリス嬢が俺を……」

「うわ、君は鈍いな」

「だってあのクラリス嬢ですよ!? 平民の俺なんかを気にするなんて思わないじゃないですか」

「彼女は君の性根に魅かれたそうだよ。身分を気にしているのはハンスだけじゃないかな」

「まぁ、クラリス様ならそうでしょうけど……」

 

 私は彼に問う。

 

「ハンスはこれからどうしたい?」

「前のアルトリウス様に戻って欲しいのもあるんですけど、今はクラリス嬢を解放してもらうことが最優先ですかね」


 ユージンが、「お」と身を乗り出した。ハンスは何があっても第一声が「アルトリウス様」であったのに。


「……アルトリウス様の事は今でも尊敬していますけど、やっぱり心のどこかで迷いはありましたよ。でも、俺がそっぽを向いたら今度こそ彼は独りになってしまう。アルトリウス様の過ちを誰も止められない。それだけは嫌だったんです。まぁ、俺が傍にいたからと言ってアルトリウス様の力にはなれなかったんですけどね」

「クラリスが君を気に入った理由が分かった気がするよ。ハンスは優しすぎるね」

「うんうん」


 やめてくださいよ、と言うハンスは満更でも無さそうだった。


「アルトリウスはハンスの優しさに漬け込んでいることを、理解していたはずだよ」

「……そ、ですかね」

「あぁ」


「分かった!」


 レラはぱちんと手を打ち、神妙な面持ちの2人を現実に戻した。


「ユージン、ハンス。アルトリウス様には、やっぱり皆が必要だと思う。私がアルトリウス様を連れ出してみせる」


 明るく笑うレラの姿に、彼らは笑みを取り戻した。



 **



「という訳で、ですね。じゃん! ピクニックです」


 レラがアルトリウスの腕を強引に引いて連れてきた場所は、かつて彼らが特訓をした森だった。


 既に席についているユージンが手を振り、ハンスが立ち上がり一礼をする。

 クラリス様はハンスの隣で優雅に紅茶を飲んでいる。


「レラ、君は一体何を考えているんだ?」

「私、学校生活が楽しかったんです。というか、こうして皆で集まることが大好きだった。だから、好きな事をしています。アルトリウス様は、私の目的のための手段ですから」

「そ、そう……」

「ほら、早く座って下さい」


 アルトリウス様を座らせ、紅茶を置く。困惑していた彼の表情が、ちょっとだけ和らいだ。

 血のような眼の色が、心なしかルビーのように美しく煌めいた気がする。


「この紅茶はクラリス様のお気に入りの銘柄だそうです」

「あぁ」

「アルトリウスに紅茶の味が分かるのかしら」


 つっけんどんに言うクラリスを宥めたのはハンスだ。

 紅茶につきそうだった彼女の髪を横からそっと持ち上げ、ハンスが顔を覗き込む。


「こら、クラリス嬢。意地悪は良くないですよ」

「なっ、ハンス。無礼ですわよ。許可もなく女性の髪を触るなんて」


 勢いよくハンスから顔を逸らしたクラリス嬢の顔は真っ赤だった。


「すみません……」


 2人のやり取りを見て苦笑するレラの前に、ユージンがの手が伸びる。

 その手には短剣が握られていた。


「これ、メリッサねぇさんが防護の魔法をかけた剣だ。前にアルトリウスから依頼をされていてね。完成したから君に渡そう」

「ありがとう。メリッサ先生にもお礼を伝えなきゃね」


 レラは鈍色に光る剣を受け取った。切れ味もあり、強力な魔法の気配もする。

 アルトリウスが何も言わないのを見て、レラは目を三角に尖らせた。


「アルトリウス様! ユージンとメリッサ先生にお願いをしたんでしょう? 『ありがとう』を言わないとダメですよ」

「あ、うん……」

「ほら」

「ユージン、ありがとう。その、メリッサさんにも礼を……」

「まぁいいでしょう。合格です」


 アルトリウスの髪をポンポンと叩いたレラがにっこり笑うと、彼は固まってしまった。

 ユージンはアルトリウスを面白そうに眺めている。

 命知らずというか、純粋というか。

 ふと、ユージンは、自分達は今までアルトリウスを叱るような形でしか物事を伝えられなかった事に気が付いた。心のどこかで彼から距離を取っていたのかもしれない。本当は、彼を王子ではなく友人として諭すべきだったのだ。

 上機嫌なレラが鼻歌を歌う。


「私、この瞬間のアルトリウス様なら大好きですよ。本当は私、アルトリウス様とお付き合いするつもりだったんですから」

「――え」

「でも、色々あって大切な約束を破っちゃう形になりました。本当に申し訳ありません。……でも、だからと言って私の話を聞かずに暴走するなんて思ってませんでしたよ!」

「……君に相応しい人間になれるよう、努力する」

「もう十分にアルトリウス様はいい人ですよ。今この瞬間を忘れないで下さい。あなたは1人じゃない」


 レラはアルトリウスの頬に触れ、微笑んだ。


「これからもよろしくお願いします」

「レラ、結婚して欲しい」


 アルトリウスから放たれた言葉に、レラ以外の3人が勢いよく立ち上がった。


「アルトリウス、早くない?」「ムードの欠片もない男ですわね」「ア、アルトリウス様!」


 ざわつく彼らをよそに、レラはアルトリウスの手を取り優しく握った。


「ふふ。それは、今後のアルトリウス様次第ですね」


 ――彼女は含みのある笑顔で言う。

 アルトリウスの覚悟が決まった瞬間だった。



 **



 ――それから1年が経った。



「まさか、レラがアルトリウスを認めるまで1年がかかるなんて。わたくし、正直驚いていますわ」


 クラリスのため息にハンスが笑う。


「俺もです。……変わりましたよね」

「アルトリウスが?」

「レラが。昔はなよなよして、すぐに謝っちゃう女の子だったのに」


 真っ赤なドレスに身を包んだクラリスと、正装のハンスが青空の下で語り合う。

 彼らの関係性に、名前は無い。


「女の子、は失礼ですわよ。レラはもう立派なレディですわ」

「クラリス嬢もね」

「……えぇ」


 そこに2つの足音が近づいてきた。柔らかい芝生の青々とした匂いが漂う。


「2人とも、もういたんだね」

「遅れちゃったかしら?」


 ユージンとメリッサであった。

 古代魔法の使い手を求める2人はレラと共に各地を旅し、彼女の同胞を探し求めている。


「メリッサ姉さん。レラのドレス、楽しみだね」

「えぇ。あの服はレラにしか身に纏えない」

「メリッサ女史はあのドレスの製作に携わったんですっけ?」


 メリッサは長いポニーテールを風に弄ばせながら、優雅に笑った。

 ドレスの製作は、色んな意味で彼女にとってかけがえない経験となっていた。


「レラの仲間も喜んでいるだろう。……彼女の母親もね」


 ユージンの声に、皆が頷く。


 レラの一世一代の舞台には、彼女の希望で13の宝石を使用した。

 もちろん、装飾品にもその宝石粒があしらわれている。


「ユージンの持っていた石はどこに?」

「なんで知ってるんだよ、クラリス。僕が昔、レラに貰った蒼い宝石は彼女の胸元さ」

「あら、よくアルトリウスが許したわね」


 昔々、レラはフォード家の屋敷を去るユージンに、緑を閉じ込めた藍色の宝石を餞別の品として渡していた。

 その石をユージンが懇切丁寧に管理していた事実は、今や周知の事実となっている。

 アルトリウスは初め苦い顔をしていたが、レラの幼少期を支えたユージンに敬意を表し、今は黙認している。




「あ、来ましたよ」


 ハンスが指差した方向には、照れくさそうに顔を見合わせたレラとアルトリウスがいた。

 大きな鐘の下、青空と太陽に祝福された彼らは、ついに生涯を共にする。


 アルトリウスが手にする指輪には、かつて彼らを繋いだあの宝石。

 アルトリウスがレラの指に指輪を通す。

 方々から千切れんばかりの拍手が鳴り響いた。


「おめでとうございます!」「おめでとう、ですわ」「幸せになってくれ」「2人の未来に幸あらんことを」



 ――破願するレラの指で、透明な宝石が眩いばかりに輝いていた。


お読み本当にいただきありがとうございました!

もっとイチャコラして欲しかったのですが、、、

今後は消極的だったレラがもう少し積極的になるんだと思います!

改めてこれまでありがとうございました。

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