第41話 裏切り
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「久しぶりだね、クラリス」
彼はいつもと変わらず、読めない表情をして微笑んだ。
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「お嬢ちゃん」
今日も村の人と交流をしていたレラに、おばちゃんが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「どうしたの?」
「それが……」
言いにくい事を言おうとしているのだと、すぐに分かった。
「何でも言って。私は皆に助けられたから」
「……最近、少しばかりお金に困っていてね」
意外だった。のどかで自給自足を行っている平和な村だと思っていたのだ。
おばちゃんはチラリと窓の外を見て憂いた。
「国に治める税金が足りなかったらしいんだ。この前偉い人がここに来て、ただそう告げた。あたし達じゃ、叶わない人間様だ。悔しいが従うしかないんだよ……」
レラの脳裏にとある人物の姿がよぎる。最近この村に足を運んだ「偉い人」は、クラリスしかいない。
まさか彼女が?……アルトリウスの命令だろうか。彼女の口からはそんな話は一切聞いていない。
後でユージンに問おうとも思ったが、彼は今、実家の総会に出席している。
ユージンは代々続く魔法使い家系の末裔で、その組織はヴァンガーディ王国最大規模と言える。
本家の長男であるユージンと長女のメリッサ先生が欠席できる道理もない。
現在、2人は厳重な結界で守られたどこかにいる。
ユージンは今の時期、私を残して長期間ヴァンガーディ王国から離れることを嫌がっていた。
メリッサ先生は、私にいくつかのアドバイスを残して華麗に出かけて行った。
「いくら必要なんですか」
気が付けば口から出ていた。いざとなれば、魔法でコッソリ価値のあるものを造ればいい。
だが、それは本当に良い事なのだろうか。
「それが、銀行から直接、指定された口座に入金をしないといけないらしいんだよ……」
おばちゃんは困惑した様子で目をキョロキョロさせた。
脳裏に、大昔にハンスと銀行に足を運んだ思い出が蘇る。
フォード家にいた時に、私が造った宝石の売り上げのほとんどを、ユージンが私の口座に振り込んでいてくれたのだ。
私の人差し指――というか、魔力と私の口座が連動してるんだったか。
暫くの間使っていなかったけれど、まだ口座は生きているだろう。
なにしろ目をひん剥く程の大金が入っていたのだから。
「分かりました、私がなんとかします」
「本当かい!?ありがとう……。その時はあたしも着いていくよ」
「いつ行きますか?」
「今すぐでも平気かい?」
「もちろん」
クラリスはアルトリウスに報告をしに行っている。ということは、城下町に言ってもハンスとアルトリウスに遭遇することは無いだろう。
逆にアルトリウスの動きが読める今しか、機会はないのかもしれない。
やや急かされるようにし、レラはおばちゃんと城下町に急いだ。
久方ぶりに見る銀行は夕日を抱えていた。日没が近く、辺りは仕事を終えて帰って行く人ばかり。
滑り込むようにしておばちゃんと窓口に辿り着く。
予想より賑わっておらず、しんとした冷たさに包み込まれる。雪が溶け、徐々に温かさを取り戻しつつあるが、夜はまだ肌寒い。
「レラです」
名を告げると、恭しく一礼をされた。
「レラ様ですね。では、本人確認をいたしますのでこちらの魔法具に指を入れてください。指が憚られるのであれば、髪の毛でも差し支えございません。ただし、生憎この器具は生きた魔力に反応するため、抜いた頭髪では機能しません」
レラは迷わず右の人差し指を入れた。あぁそういえば、あの時のハンスは「指を食いちぎられる」とか言って私を脅かしたんだっけ。
クラリス様とユージンから聞くハンスは、私の記憶の彼と大分印象が異なるようだけど、私の中ではハンスは昔のままだ。
丁寧で気さくで芯がある。オレンジの瞳が太陽のようで、陽光を受ける茶髪は大型犬のよう。
「……一致いたしました。少々お待ちください」
受付の彼が奥に消えていく。
おばちゃんは煌びやかな銀行に落ち着かないのか、ソワソワと周囲を見渡している。
「すみません、御婦人。ご同行願えますか」
不意に、両脇から低い声が響いた。
びくりと体を震わし、声の方を見る。大柄で警備員のような男性が私達を見下ろしていた。
スッと血の気が引く思いがした。
――のは、私だけではないらしい。
おばちゃんが叫ぶ。
「あたしはちゃんと約束を守った!あの男が言ったことをちゃんと守った!」
「何を仰っているのでしょうか。我々は通報があったのでここに来ただけに過ぎません」
「騙したんだね!」
おばちゃんが受付の男性にヒステリックに叫ぶ。しかし、男性は丁寧な態度を崩さない。
「わたくしは指名手配犯を見つけたので、然るべき機関に連絡をしたまで」
「じゃあ、お前か! 小娘!」
矛先が、私に向けられる。
正直、何が起こっているのか理解できていない。
なぜ、おばちゃんがこんなに取り乱すの?なぜ、私が責められているの?
何も言わない私を口汚く罵りながら、彼女は連行されていく。
私は一体、何をしてしまったのだろうか。
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