第4話 新天地
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「ここが国立魔法学校です」
連れて来られたのは、見たことも無い大きさの建物だった。
フォード家なんか比にならないくらい豪華で、精錬され、威厳があった。
それはまるでひとつの国だ。
中央にそびえる城のような学び舎に、公園のような中庭。
複数の何に使うか分からない建物。
そして何といっても驚いたのが、同い年くらいの人間が沢山いたことだ。
夢にまで見た学校。
一生を屋敷で終えると思っていた私が、学校に通うことになるなんて。
とてもじゃないけど信じられなかった。
「おーい。平気ですか?」
制服に着替えた騎士が、こちらを覗き込む。
明るい茶髪に黄色い瞳をした吊り目がちな彼は、私と同い年なのだという。
彼は背が高いため、話す時はやや首が疲れる。
「ご、ごめんなさい。ちょっと圧倒されていただけです」
「ずっとあの屋敷に幽閉されていたんですっけ。大丈夫。世界はもっと広いですよ。アルトリウス様の城に招かれたら、気絶するんじゃないですか」
「あは、は……」
「……俺、つまらないですかね」
「い、いえ。騎士様は悪くありません。わ、私が上手く話せないだけで……」
「ちょっと、騎士様なんて笑われますよ。やめてください。俺はハンスです。貴方と同じ平民ですから気軽に読んでください」
「ハンス、さん」
「はい」
「なんか慣れませんね。私、異性とお話したことが全然なくて」
「異性どころか、人間とあまり話したことが無さそうに見えますが」
ハンスの口から放たれるド正論に思わず項垂れる。
ミーシャに対しても引く姿勢を見せなかったこの人は、ズバズバ物申すタイプのようだ。
下からじっとハンスを観察していると、彼はため息を吐いた。
「はぁ~……。レラさん、そういうの止めた方がいいですよ。完全に勘違いされます。距離感を間違えてますから」
「えっ、ご、ごめんなさい……」
「そんな目で異性を穴が開く程見つめないで下さい。あんた、自分の容姿を理解していますか?していないんでしょうね。周りを見て下さい。誰もあなたみたいに、透き通った髪、肌、目をしていない。レラさんはちょっと人と違うんです」
「ご、ごめんなさい」
「いちいち謝らないでください。レラさんは多分、ようせ―…異国の血が混じってるんじゃないですかね。人間離れしているから、人から目をつけられやすい。いい意味でも悪い意味でも。言っときますが、ここは貴方が思っているほど良い場所じゃない。1人の人間からしか決められた敵意を向けられない分、ミーシャ嬢の方がマシだったとさえ思うことになるかもしれません。人間は怖いんですよ」
「……」
「あぁ、そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。俺がいる時は極力助太刀しますよ。良い人間もいるってことを教えてあげましょう」
「ありがとうございます……。でも、平気です。ハンスさんが怒られてしまうので」
「え?」
かつて、私を虐めるミーシャに歯向かった正義感のあった人たちの事を思い返す。
フォード家に君臨する女王様に意見した召使いは、老若男女問わず皆が追放された。中には彼女から手酷く罵られ、殴られた者もいる。
――助けて欲しい。
そう思う気持ちは持ってはいけない。私を助けてくれたいい人が不幸になるだけ。
「別にいいですよ。俺、アルトリウス様以外に叱られても全然気にしませんし」
「い、や、でも」
「自慢じゃないですけど、俺、ちょっと強いんです。レラさんを助けたことで大勢に恨まれて襲われたって、大抵の人物は返り討ちに出来る自信があります」
「そうかもしれませんが………」
確かにハンスは他の人と違うオーラがある。堂々としていて、芯がある。
それはおそらく彼の実力から滲み出るものなのだろう。いいな、と思うと同時に自分には決して持ちえないものだとも感じた。
「まぁ、レラさんはもっと強くなれますよ。自分に自信を持てるようになったら、きっと貴方は変われます」
「あ、ありがとう、ございます」
「いいえ。こちらとしても、ずっとうじうじ下向かれても困るので」
「うっ」
「さ、寮に案内しますよ」
すっかり日が暮れてしまったようだ。
ハンスは落ちかけた夕日に向かって歩き出した。
「はい。ここが寮です」
「……!」
「レンガ造りの2階建てが全部で5棟。1番小さい部屋でもそれなりの床面積です。18歳から20歳までの全3学年の女性が全員この区画に住んでいますね」
「へぇ……」
「じゃ、俺はこれで。今日は色々あってお疲れでしょうし。また明日、迎えに来ます」
「あ、明日?」
「はい。制服とか文具とか、学校で使うものはおよそ持っていないでしょう?学校の施設や売店の案内をしてあげますよ」
「で、でも」
「あぁ、大丈夫です。これも俺に与えられた仕事なので。レラさんが遠慮する必要はありません。というか、貴方がめちゃくちゃ嫌がっても俺は仕事なので、明日も迎えに来ます」
ハンスはそう言って一礼し、その場を去った。
その足取りがあまりにもしっかりしていて、なんだか尊敬の念を覚えた。
「わぁ」
ハンスに言われた部屋の扉を開けると、そこそこに広い自室が広がっていた。
大きめの一部屋に、トイレ、風呂場が備え付けられている。
木製の寝具や机、椅子、棚が香ばしい匂いを発していた。
正面には大きな窓があり、夕風がカーテンを優しくたなびかせていた。
室内は西日で赤く染まっていて、とても幻想的だ。
持っていた手荷物を1つ、机に置く。
ガチャリ、とぶつかる音が静かな室内に響いた。
今まで作った宝石たちが、私の全てだった。
あの屋敷にいた10年間、私は何1つとして思い出となる品を持てなかった。私に与えられたのは最低限の服、食料、寝床。今着ているボロ切れも、ミーシャが捨てると言っていたカーテンをリメイクしたものだ。新しいものは買ったそばからミーシャによって、こっそり切り裂かれてしまうから。
「?」
ベッドの上に、畳まれた服が置いてあった。
広げてみると落ち着いた藍色のワンピースがヒラリと舞った。
金色の精緻な刺繍が施されており、一目で高価なものだと分かる。
部屋を間違えたか、と冷や汗が頬を伝った時、ふと小さな紙切れが目に入る。
『レラへ』
私がユージンから貰った名だ。
「ありがとう、ユージン」
私の唯一の友だち。突然いなくなってしまった彼は、今頃何をしているのだろう。
彼も私と変わらない歳だと思うから、もしかしたら学校で会えるかもしれない。
……なんて。
お読みいただきありがとうございました!
レラの新生活スタートです。




