第35話 落下
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短めです。
――それから、1年が経った。
レラ達は最終学年である3年生に進級し、アルトリウスはつつがなく卒業式を終えた。
アルトリウスとレラが学校の中庭の噴水を眺めながら会話をするのも、これが最後になるだろう。
「レラ、1年前の約束覚えている?」
「はい」
「じゃあ今夜、約束した場所に来てくれないか。いや、時間になったら君を迎えに行くよ。夜は危ないからね。大人しく、自室で待っているように」
「分かりました」
アルトリウス様はそっと私の手を握る。
「もう、答えは決めている?」
「はい。ちゃんと。……安心してください。私自身が決断しましたよ」
「君は変わったね」
「みなさんのおかげです」
アルトリウス様の手を握り返し、私は笑んだ。
答えは、もう決まっている。
――フクロウが夜を告げる。日が沈み、約束の時が近付いてきた。
アルトリウス様が迎えに来てくれるとのことだったが、どうやら卒業してもなお作業が残っているらしい。多忙な方だから仕方がない。
彼の言伝を預かった生徒が、アルトリウス様が寄越した馬車まで案内してくれるという。
「こちらです」
その女子生徒は、私に向かって恭しく一礼した。
アルトリウス様やクラリス様と共に行動することが多いせいか、学校内での私の立ち位置は難しい位置にある。平民でありながら、敵に回したくはない厄介な生徒。
あからさまに態度を変える人もいれば、学友として話しかけてくれる人もいる。
誰が悪いとか良いとかは感じていない。それはその人の選択なのだから。
「案内して下さって、ありがとうございました」
「……はい」
馬車に乗りながらお礼をすると、彼女は一歩下がって縮こまる。
余計な事は言わないようにしているのだろう。でも、どこかで見たことあるような気がして何となく気になった。
「ねぇ、あなたは――」
「さようなら」
口を開いた瞬間、馬車が動き始めた。せっかちな御者であると怪訝に思うと同時に、不信感を抱いた。
アルトリウス様がこんなことをするだろうか? 馬車に揺られ、お尻を痛めながら考える。
自惚れではないが、アルトリウス様は私……というか認めた相手に対して誠実に対応をする。
王子様だからと言って横暴な真似はせず、きちんと仁義を通すし、適当な仕事を押し付けたり、適当な相手と組ませることも無い。
「……」
この御者は、貴族相手の人間ではない。馬車こそ上等に見栄はするけれど、馬の毛並みは悪いし、運転も荒い。
「すみません。降ろし―――……、っえ」
ムクムクと膨らんだ不安は、残念なことに私の予想を裏切ってはくれなかった。
空が見える。体が浮き上がる。
馬車が急激に傾いて、いや、あ、これは……。
「う、わ」
本当に予想外の事が起きた時、人間は叫ぶとか慌てるとか、そんな大層な感情は出てこないものなんだと知る。
馬車の外から見える満天の夜空を目にし、崖の上にいた人物を認める。
「……生きて、たんだ」
すっかりやつれた彼女は、ボロ切れに身を包んだまま落下する馬車を無感情で見下ろしていた。
隣の彼女はミーシャの取り巻きだった人。
彼女、アルトリウス様の名を語って私に嘘を吐くよう言われていたんだな。
どうりで見たことがある気がした。
そうか。こういう結末もあるんだな。
「ごめんなさい、アルトリウ――」
そのつぶやきは轟音に掻き消され、誰に聞かれることも無く夜空に消えた。
落ちた馬車に向かって、劣化した指輪が投げ捨てられる。
宝石が抜き取られた、ただの銀の輪っかである。
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