第28話 時間
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そして時は過ぎ、報謝祭まであと1日という所まで迫っていた。
見慣れたアルトリウス様の部屋に、いつもの5人が顔を突き合わせる。
「いよいよだね」
「ついに明日……。緊張します……」
「レラ、大丈夫ですわ。あのハンスの訓練を乗り越えたんですもの。アルトリウスとユージンからも筋が良いと太鼓判を押されたじゃない」
「あの、どうして俺だけいつも厳しい人扱いなんですか? レラに怪我させると色々困るんで、むしろ丁寧に指導しているんですけれど……」
ハンスが不服そうな顔をするが、誰もフォローをしない。そういうことなのだ。
ユージンはいつも通り優しい顔で微笑みかけてくれる。
「でも、レラは魔法のセンスがあったね。教え甲斐があったよ」
「ありがとう。ユージンはいい先生だね。とても分かりやすかった。アルトリウス様もありがとうございました」
「楽しい時間だったね。……だが、それも明日に向けての準備期間に過ぎない。当日は何が起こるか分からない。油断は禁物だ」
存外厳しい表情でアルトリウスは4人の顔を見渡した。頼もしい仲間達だが、自分の判断1つで何もかもが壊れてしまうかもしれない。
思いに差はあれど、己に従ってくれる彼らの能力と有用性は自分が一番理解しているという自負がある。アルトリウスはおそらく4人以上に責任と重圧を感じていた。
――決行は明日、日が沈んだ後だ。
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「へぇ、これが報謝祭……」
翌日、レラはクラリスと城下町にいた。
陽が落ちるまでは普段通り振る舞おうということで、初めての祭りに参加していた。
「あら、レラは初めて? この国に何年も住んでいるというのに珍しいわ」
「あまり外を出歩くなと言われていたもので……」
「そう。嫌なことを思い出させたかしら、謝罪するわ」
「いえ! もう過ぎた事ですから平気です。むしろ今は、初めての祭りをクラリス様と楽しめる喜びの方が大きいです」
「……貴方、発言に気をつけなさい」
クラリスは扇子で緩む口元を隠した。どうもこの子に正面から褒められると口角が緩んでしまう。
「あ、馴れ馴れしかったですかね……」
「違うわ。あまり簡単に人を口説くなと言っているの。ただでさえ厄介な人間達に目をつけられているのだから。流石のわたくしも全てを庇いきるのは不可能よ」
ユージンとアルトリウスを思い浮かべるクラリスだが無論、レラが知る由もなく。
「そうですね……。いつどこで妖精狩りをする人に出会うか分かりませんもんね!」
「えぇ。そう言う事だから、あまり不用意に人を持ち上げないように」
「かしこまりました!」
危うい。クラリスは謎の庇護欲を抱き始めた、いや、既に抱いているのかもしれない。
「レラが行きたい所を教えなさい」
「私は……――」
そして、2人はおそろいのリボンを持って店を出た。
ベルベットの肌馴染みの良いものだ。レラは赤、クラリスは青を持っている。
「私はこうやって巻いて……、どうです? カチューシャみたいでしょう?」
「似合っているわ。わたくしはそうね……、ポニーテールにでもしようかしら」
「うわぁ! 流石クラリス様です! 高貴の中に女性らしさと親しみやすさを感じます!」
「そ、そう?」
クラリスは生まれて2番目にたじろいだ。
――1番目はハンスが初めて己の名を呼んだ時だ。
「……楽しいけれど、そろそろ時間ですね」
「そうね。ミーシャは祭りに参加し、加減を知らずに豪遊している……。これからはわたくし自身の目で彼女を監視しますから、安心なさいな」
「はい。お願いします」
クラリスと別れ、レラは服を制服から黒い軽装に着替えた。
先ほど買ったお揃いのリボンはお守り代わりにしっかりと髪に編み込んでおく。
そして、彼らとの待ち合わせ場所に赴いた。
キョロキョロする私にアルトリウス様が小さく手を挙げる。
既に揃っている彼らもまた、闇夜に紛れる服を着ていた。
「レラ、祭りはどうだった?」
私にフードを被せながら、彼は尋ねる。やや上を見上げながら、レラは笑んだ。
「楽しかったです」
「……この見慣れぬリボンはクラリスとのお揃いかな」
さすが王子様。目ざとい。
「はい。これを着けていたらクラリス様が傍に居るみたいで安心します」
「ふぅん、妬けるね」
「ふふ、アルトリウス様もリボンを? 何色が良いかな」
3週間の間にアルトリウスとレラはグッと距離が縮まっていた。
アルトリウスはレラと仲良くなろうと必死だったため、彼女が初めて冗談を言った時は心の中でガッツポーズをしたものだ。
「君と同じものがいい」
「なるほど。クラリス様の髪色は大人気ですね」
「いや、止めた。君が僕のリボンを選んでくれ」
「アルトリウス、君はいつから女装癖に目覚めたんだ?」
「うるさいユージン。彼女から貰えるなら何でもいい」
と、アルトリウスの手に何かが巻かれた。
手首を持ち上げるとキラリと小粒が輝いた。
「訓練のお礼です。出店で購入したんです。もし、邪魔だったら遠慮なく外してください」
「これを、僕に?」
「はい。皆にはそれぞれお礼をしました」
「ありがとう。大切にする。それで、残り2人には何を?」
「ハンスは……物は要らないと言い張るので、ご飯を奢っただけです。ユージンは……」
レラがちらりとユージンを見ると、珍しく彼は鼻を鳴らして抗議した。
「僕は受け取らないよ、あれは君の財産だ」
「でも、私の宝石に価値を与えたのはユージンだよ。それに私じゃあの大金を使えそうにないし」
「あの銀行に預けたお金は、君から流れ出る魔力でしか引き出せない。知らない内に誰かに盗まれる心配もないし、持っていても困らないだろう」
「でも」
「とにかく僕は要らない。君のために貯めたのに、その気持ちを無碍にするのかな」
これから大事な作戦が控えているというのに、ここに来て初めての不和。
ユージンは譲るつもりがないようなので、折れるのは彼女しかいない。
「……分かった。私の好きなように使うから。私の使い方に絶対文句言わないでね」
ふん!とレラがユージンの背中を殴る。
その衝撃に笑ったユージンだったが、ふと真剣な顔つきに変わった。
――日が完全に傾いたのだ。辺りは一気に暗くなる。背中が急に冷えてきた。
「おしゃべりもここまでだね。行こう」
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