第27話 スパルタ
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物語も折り返し地点です。
「えぇと、話を戻そうか。ユージン、兵の配置を図に書いてくれ」
アルトリウスが言うとユージンは左手でペンを持ち、丸を記した。
「兵の数は合計12名。正面と裏口に4人と中を巡回する4人。残りの4人はおそらく地下だ。外から見る感じ2人体制で6時間交代しているが、地下には常時4人いると考えて良い。おそらく地下付近で寝泊まりや飲食をしている」
「そうなると、4人との戦いは避けられないかもしれないね」
「うん。僕がフォード家にいた時も地下は見ていないから、その場で柔軟に対応するしかないね。でも、こちらにはハンスがいるから荒事は問題なさそうだ」
「俺を高く買い被りですよ、ユージン」
そんなことないけどな、とユージン肩を竦める。
会話が一区切りした瞬間を狙って、私は声を出した。
「もしかして、私は足手纏いですか?戦いはしたことがありません……」
「作戦に参加するかは、君自身で決めて良い。僕らは君を第一に守るから、そこは安心してくれ。困ったら君の最大の魔法をぶつければいいさ。フォード家の屋敷が木端微塵に吹っ飛んで、証拠隠滅だ」
「そ、そんな……」
「だからレラの意思で決めて欲しい。ただ……君は地下室で辛い思いをする。君の仲間達が造らされた宝石が数多く眠っている可能性が高いからね」
私は決めていた。ここで引き下がる訳には行かないのだ。
「い、行かせてください! 足手纏いにならないように、魔法の訓練頑張ります!」
「了解した。早速明日から訓練を始めようか。場所はこの前の森にしよう。あそこなら多少の音は問題ない」
こうして、私のちょっと大変な3週間が始まった。
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――訓練が始まって2週間が過ぎようとしていた。
任務を終えたハンスが、私とアルトリウス様を見つけてやってくる。
「2人ともお疲れ様です。アルトリウス様、レラの調子はどうですか?」
「呑み込みが早くて助かるよ。以前よりずっと魔法の練度が上がった」
「アルトリウス様のご指導の賜物です!」
最近、私は魔法の正しい使い方を覚えた。今まではただ闇雲に魔法を放つだけだったが、それでは目立ちすぎるとのことで、狙った範囲に高密度の魔法を放てるようアルトリウス様やユージンから指導を受けた。
今では頭で想像した魔法の使い方が出来る。
「剣もそこそこ上手くなりましたもんね、最低限自分の身は守れると思います」
「ハンスにそこそこ、と言わせるなんて流石だね」
「いえ……それほどでも……」
「ハンスの教えはどうだった?」
私は苦笑いをするしかなかった。
ハンスは……、人当たりがよく爽やかで快活な彼は……、
「あくま……」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も」
ミーシャよりも怖くて恐ろしかった、などと口が裂けても言える訳がない。
彼が最強たる所以を痛いほど知った。彼なりに私が死なないように……、と真剣に指導してくれたのだが、いかんせんあまりにもスパルタだったのだ。
何度剣を振ったのか分からない。大抵の事は魔法で治る、と彼は私を治癒しながらも剣を振るう手を止めることは無かった。しかも、それを当然のようにこなすのだから彼は相当な実力者なのだろう。
「アルトリウス様には言うなよ」と、怖い顔で迫られてしまったので、私の口から正直に言えることは何も無い。
「あ、あくまでも訓練だったので、き、厳しくは無かったのですけれど、とても有意義でした、はい。普通に生きていたら絶対に経験しないことを……」
「ハンス、お手柔らかにね」
「は、はい!」
アルトリウス様はやっぱり、彼を理解しているようだ。
耳元でこっそりと教えてくれた。
「ハンスの訓練はほとんどが辞退するんだよ。彼が普通と思っていることの多くは、他人には不可能なんだ。だから彼の指導についていけたことは誇っていい。正直、レラがここで音をあげていたら、君を作戦から外すつもりだった」
「え」
「すまない。君の実力と気合を知りたかったんだ」
と、アルトリウス様は目の前でパチンと手を打った。案外気さくな方だな、と思うと同時にほっとした。
だが一層気を引き締めないと。優しい彼は常に冷静に判断を下してしまうから、作戦中に帰れと言われる可能性もゼロではない。
「私、もっと頑張ります」
そこに1人の姿が現れた。
黒いローブをはためかせた彼女は、バスケットから焼き菓子のいい匂いを風に乗せてくる。
「あら、私の愚弟はいないのね」
「メリッサ先生!」
「久しぶりね、レラ。ユージンから聞いてるわよ。フォード家に侵入するために、彼らからビシバシしごかれているってね」
メリッサ先生は包装されたクッキーを私に手渡した。厚みがあってバターがふんだんに使われている一品だ。
「お疲れ様。これ、城下町で人気のクッキーよ。……にしても、あなたたちも大それたことをするわね。指導者の立場からすると黙認はできないわね、個人的には黙認させていただくけれど。仮にも同じ学校に通う生徒の屋敷に忍び込むなんて。ね、アルトリウス・ヴァンガーディ王子」
メリッサ先生がアルトリウス様をじっと見た。大人として釘をさす必要があるのだろう。
「認められた行為では無い事は知っています。そしてこの行いがバレた時の代償も。それでも僕は、僕自身で確かめたいんです」
「それはレラのため?」
「はい。僕はレラだけじゃない。彼ら一族に苦痛を与える連鎖をここで断ち切りたい。他の場所でも悪がのさばっているのは承知の上です。今回で終わる訳ではないと知っています。だが、まずは目の前の悪事を止めたい」
「殊勝な心掛けね。あなたが、ヴァンガーディ王国の第一王子だという事を忘れずに。困ったら私に相談なさい。大人の力で何とかしてあげる」
メリッサ先生がウインクを1つすると、ハンスが小さくぼやいた。
「と言ってもメリッサ女史は、根回しやゴマすりとは程遠い方ですから期待はできませんよ。正面切ってカチ込んである意味内部を混乱させるんでしょうね。ユージンとは正反対のお方だ」
「こら、ハンス聞こえてるわよ。失礼な若造なんだから」
「げ」
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