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第24話 肩透かし

閲覧ありがとうございます!

 

「へぇ。想像以上ですわ」「う、わ」「これはすごいな……」「……」


 遠くで皆が何かを言っている。

 風は私に味方して音を運んでくれているが、予想以上に遠くにいる皆の声が聞こえるのが限界。


 彼女が魔法を使った瞬間、レラの周囲は緑に包まれた。

 彼女を祝福するかの如く風が流れを変え、木々が湾曲し、大地がうねる。

 蠢く一体の生き物のように、風、土、そして緑が主を取り囲んだ。

 あっと言う間に周囲はその場にいる全員を包みこむ半球が完成した。ドームの外側は堅牢な土壁が存在し、その土壁を舐めるように鋭い風が縦横無尽に舞う。


 それはレラが持つ無意識の防衛本能を現していた。

 今まで彼女が魔法を使う際のほとんどの理由は、身を護るためであったからだ。


「レラ、そこまでで十分だよ。ありがとう」


 トン、と肩を叩かれた。アルトリウス様が目を光らせて私を視ている。真っ赤な宝石の瞳に閉じ込められている自分がいた。


「どう、でしょうか?」


 おずおずと一歩後ろに下がりながら尋ねると、彼は一歩近づき私の手を丁寧に掬い上げた。


「期待以上だ。これなら何があっても広範囲の魔法で全てを有耶無耶にできる。天災とでも言えば皆が納得せざるを得ないだろうな。おおよその人間には出来ない業だ」

「……でも」


 と、アルトリウスの誉め言葉も疎かに。レラは伏し目がちな目を上げた。周囲を見渡し、彼らの気配を感じとる。


「皆さんの魔力の流れを見るに、私程度の魔法は簡単にやってのけるのでしょうね……。私の魔法を前にしても、ここにいる誰もが魔力を乱されなかった。これは初めての事です。ふふ。驚かされたのは私の方ですね」

「……そんなことも感知できるのか」

「多分……。私の魔法は皆さんと違って主に自分から発するイメージなので、自分じゃない外の魔力に敏感なんです。そこに澱みが生まれてしまうと集中できなくなってしまいます」


 レラは恥ずかしそうにサイドのやや長い髪をクロスし、顔を隠す。その訳の分からない幼くて可愛らしい仕草に、またアルトリウスの胸が鼓動する。


「レラ、君がフォード家の屋敷で使っていた魔法は君にとって初歩中の初歩だったんだね」


 ユージンがヒラリと手を振って歩いてくる。後ろでハンスとクラリス様がまたも何かを言い合っている姿が見えた。

 笑顔でやってくる彼は、私が魔法を使って庭の剪定や水やり、広い屋敷の掃除に、大人数のための料理等々を済ませていたことを言っているのだろう。


「そうだったの?私、自分以外の魔法に触れたことが無いからよく分からなかった」

「君の実力を知らなかったのは悔やまれるな。ただミーシャは気付かないだろうけれど、メリッサねぇさんのような魔法狂いが魔法の痕跡を見たら、君の魔法が一般的に異なることはバレてしまうだろう。君がフォード家に監禁状態にあったのは不幸中の幸いだ。いや、不幸でしかないけれど……」


 ユージンが複雑そうな顔をする。

 遠くで、クラリス様のやや陽気な高笑いが聞こえた。思わずその方向を見るとハンスの悔し気な顔をしているのが目に入った。彼が子供らしい感情を見せるのは珍しい気がする。


「今度は造形魔法を見せてくれ。恐らく君の神髄はそこにある」


 クラリス様とハンスのやり取りを見ていた私の視界に、ぬっと映り込んできたアルトリウス様は、さらに私に魔法を要求する。好奇心と未知への探求心。やや無邪気な表情をしていた。


「何を造れば……?」

「君が一番好きなものでいいさ」


 気負わなくていい、とアルトリウス様が促すが何を造ればいいのか分からない。

 喋ることのできない妖精は前に見せた。宝石が造れることも知っているだろう。

 彼をがっかりさせたくない。


 どうしよう、と頭が真っ白になっている私に、未だクラリス様とハンスの喧騒。見かねたユージンが2人を窘める声が聞こえた。


 ――そうだ。


 私がいま求めているのは平穏。初めてできた同年代の人達と、穏やかな、出きれば楽しいひと時を過ごしたい。


 木製の大机と、木製の木椅子5脚。そして、陶器の食器にティーカップ。

 あと、甘いお茶菓子と給仕の小動物たち。

 それらをいっぺんに想像し、構築する。

 静かな森の中に小さなお茶会の会場が完成した。


「ど、どうでしょうか」


 ギュッと目を瞑り、小さく漏らす。

 ――気持ち悪い?

 ――不気味?



「美しいわ」

 既に椅子に腰かけてティーティカップを傾けていた、クラリス様が言う。


「……休戦ですね。こんな場で荒事は野暮ってもんです」

 クラリス様の隣に座ったハンスが、リスを手に乗せた。


「レラ、ありがとう」

 ややくたびれた笑顔のユージンが、焼き菓子を齧る。


「主役は、君だよ。レラ」

 椅子を引き、私の席を促すアルトリウス様。


 あまりにも優しくて、暖かい景色に目の奥がツンとした。これが、私が求めていた世界。

 誰からも迫害されず、悪意を持たれない。私という個人を見て、対等に接してくれる。

 こんなにも簡単に夢を叶えていいのだろうか。これからの生活に光を見出してもいいのだろうか。


 幼い頃の私が口元を緩ませていた。ミーシャに叱られていた私が背を押した。

 もっと、自分を好きになっていいんだよ。そう言ってもらえた気がした。


「し、失礼します」


 アルトリウス様に促された席に着くと、いつの間にかこちらに椅子を引き寄せていた彼が、隣で頬杖をついて私をじっくりと見てきた。思わず、もぞもぞと机の下で手を揉んでしまう。


「それにしても、君は想像をはるかに超えてくるね。僕も血筋から少しばかり古代魔法の心得があると自負していたけれど、本物に比べるとお遊戯みたいなものだと思い知らされた。……それと同時に、君が今までよく無事でいてくれたと安心している。その力を喉から手が出る程欲する輩はいるからね」

「メリッサ先生も同じようなことを言っていました。でも絶滅したんでしょう?」

「妖精は見えない所で生きている。人間には見えない世界でね。妖精が消えて幾星霜が経とうとも、悪い輩たちは不可視の存在を諦めてはいないんだ。そして今、君が見つかれば、妖精がこの世界に顕現しているかもしれないと希望を抱かせる。そうなったら、どんな手を使って妖精の仲間をおびき寄せようとするか分からない。……人間は、自らの種族でさえ惨い方法で情報を引き出したり、苦痛を与えたりすることに長けているんだ」


 そう話すアルトリウス様の顔はやはり色彩を失っていた。その様子は、まるで彼が人間性を失いつつあるみたいで。思わず、そっと彼の頬に手を置いた。

 色が――戻る。


「大丈夫ですよ。人間は善い人も沢山いますから。悪いだけが人間じゃありません」

「レラ……、僕は心配だ。やっと見つけた僕の灯火なんだ。君が妖精に近いから好きなんじゃない。君が僕に心を与えてくれたから好きなんだ。生きるべき道を照らしてくれた」

「アルトリウス様。私、あなたにそこまで言わせてしまうような大したことは出来ていません。ふふ、過大評価ですよ。あなたに心を与えてくれた人は、必ず私以外にいますよ。大丈夫です」


 アルトリウス様は俯いてしまう。彼は存外心が脆いのかもしれない。


「僕の性質を知ったらきっと君も、後悔する。僕は善い人ではないんだ。君に嫌われるのは嫌だなぁ」

「アルトリウス様の立場や状況を知らない状態で申し上げる無礼をお許しください。……表と裏があってもいいんです。裏を持たないとダメになってしまう人もいる。完全を見せたい人と、不完全を見せたい人。どちらも欲していいと思います」

「……君には格好悪い所を見せてしまったな」

「私なんかで良ければいつでも、アルトリウス様のお話を聞かせて下さい」

「君がいいんだ。僕は君が好きだ」

「ありがとうございます」

 

 アルトリウス様が陽だまりのように笑い、流れるように私の髪に口づけを落とす。

 私の目を見て、ちょっといたずらっぽく笑ったかと思えば、今度は幼子のように口を尖らせる。


「……僕の告白、微塵も効いちゃいないじゃないか」


 ――しかし、アルトリウスの文句はクラリスとハンスの言い合いによって搔き消された。


お読みいただきありがとうございました!

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